[0062] 地域在住高齢者における生活習慣と認知機能の関係
Keywords:喫煙, 情報処理能力, pack-years
【はじめに,目的】
加齢に伴い低下する認知機能と関連する要因の1つとして生活習慣が報告されている。とりわけ身体活動と認知機能の関係については多くの研究がなされ,その有用性が明らかにされている。一方で,喫煙と認知機能の関係についてもさまざまな研究が行われているが,これらの研究の多くは喫煙者,喫煙経験者,非喫煙者のように喫煙についてタイプに分類し,認知機能との関わりについて検討したものである。年数や本数など複合的かつ量的視点から喫煙を捉え,喫煙がさまざまな認知機能とどのように関連するかについては明らかになっているとはいえない。本研究の目的は,生活習慣の中でも特に喫煙に着目し,高齢期の認知機能との関連について横断的に検討することである。
【方法】
対象者は,国立長寿医療研究センターが2011年8月~2012年2月に実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち,認知機能に影響する可能性がある脳卒中,アルツハイマー病,パーキンソン病,うつ病の既往がある者,要支援・要介護認定を受けている者,日常生活動作(activity of daily living:ADL)が自立していない者を除き,さらにデータに欠損があった者を除いた4,457名であった。認知機能は,記憶(word recall,logical memory recognition),注意(trail making test part A),遂行機能(trail making test part B),情報処理能力(symbol digit substitution test),全般的認知機能(Mini-Mental State Examination:MMSE)を測定した。生活習慣は,身体活動(歩行頻度および時間),飲酒習慣(飲酒の頻度および年数),喫煙習慣(喫煙の年数および本数)について評価した。なお,喫煙については,喫煙の本数および年数から喫煙歴の指標であるpack-years(喫煙年数×喫煙本数/20)を算出した。また,調整変数として年齢,性別,教育歴について聴取した。統計解析は,まず喫煙者のタイプによって諸変数に差があるかどうかを確認するために,一元配置分散分析ならびにχ2検定を行った。次に,喫煙と認知機能の関連をみるために,性別,年齢,教育歴,身体活動,飲酒習慣を調整し,階層的重回帰分析を実施した。最後に,喫煙歴によって認知機能に違いがみられるかどうかを検討するために,階層的重回帰分析により喫煙との関連が求められた認知機能を従属変数とし,pack-yearsを固定因子,性別,年齢,教育歴,身体活動,飲酒習慣を共変量とする共分散分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の趣旨・目的を書面および口頭にて説明し,同意を得た。
【結果】
一元配置分散分析ならびにχ2検定の結果,非喫煙者は女性が多く,喫煙経験者,喫煙者は男性が多かった(p<.05)。また1日の歩行時間は喫煙経験者,喫煙者に比べ,非喫煙者のほうが多く(p<.05),喫煙経験者,喫煙者は現在も飲酒をしている者の割合が高かった(p<.05)。階層的重回帰分析の結果,喫煙は情報処理能力と有意な関連がみられた(p<.05)。共分散分析の結果,情報処理能力を測定するsymbol digit substitution testの得点に群間差がみられ(F(1,1801)=6.035,p<.05),pack-yearsが40を超える者は40以下の者に比べ有意に情報処理能力が低かった。
【考察】
本研究の結果から,喫煙は他の生活習慣と関連があり,また情報処理能力と関連があること,喫煙本数および年数が多く長い者(pack-years≧40)は情報処理能力が低い可能性が示唆された。先行研究からは,pack-yearsは前頭葉の容積と負の相関にあることが報告されている。また,前頭葉は情報処理能力と関わることが報告されていることを鑑みると,本研究結果は先行研究の結果と一致するものであると思われる。さらに,本研究は複合的な視点で喫煙の具体的な基準値を示しており,喫煙と認知機能の関係をみる研究の発展の一助になると考えられる。一方,その他の認知機能については喫煙との関連が認められなかった。このことに関しては,先行研究においても結果が一致していないことが報告されており,今後,認知機能や生活習慣の評定方法を含め詳細にわたり検討すべきであると考えられる。また,喫煙経験者あるいは喫煙者は非喫煙者に比べ1日の歩行時間が少なかったことから,喫煙のみならず身体活動の亢進を含めた総合的な健康教育が必要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は喫煙と認知機能が量的関係にある可能性を示唆するものであり,今後の高齢者の健康増進にむけた生活習慣改善の具体的かつ有益な情報を提供するものである。
加齢に伴い低下する認知機能と関連する要因の1つとして生活習慣が報告されている。とりわけ身体活動と認知機能の関係については多くの研究がなされ,その有用性が明らかにされている。一方で,喫煙と認知機能の関係についてもさまざまな研究が行われているが,これらの研究の多くは喫煙者,喫煙経験者,非喫煙者のように喫煙についてタイプに分類し,認知機能との関わりについて検討したものである。年数や本数など複合的かつ量的視点から喫煙を捉え,喫煙がさまざまな認知機能とどのように関連するかについては明らかになっているとはいえない。本研究の目的は,生活習慣の中でも特に喫煙に着目し,高齢期の認知機能との関連について横断的に検討することである。
【方法】
対象者は,国立長寿医療研究センターが2011年8月~2012年2月に実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち,認知機能に影響する可能性がある脳卒中,アルツハイマー病,パーキンソン病,うつ病の既往がある者,要支援・要介護認定を受けている者,日常生活動作(activity of daily living:ADL)が自立していない者を除き,さらにデータに欠損があった者を除いた4,457名であった。認知機能は,記憶(word recall,logical memory recognition),注意(trail making test part A),遂行機能(trail making test part B),情報処理能力(symbol digit substitution test),全般的認知機能(Mini-Mental State Examination:MMSE)を測定した。生活習慣は,身体活動(歩行頻度および時間),飲酒習慣(飲酒の頻度および年数),喫煙習慣(喫煙の年数および本数)について評価した。なお,喫煙については,喫煙の本数および年数から喫煙歴の指標であるpack-years(喫煙年数×喫煙本数/20)を算出した。また,調整変数として年齢,性別,教育歴について聴取した。統計解析は,まず喫煙者のタイプによって諸変数に差があるかどうかを確認するために,一元配置分散分析ならびにχ2検定を行った。次に,喫煙と認知機能の関連をみるために,性別,年齢,教育歴,身体活動,飲酒習慣を調整し,階層的重回帰分析を実施した。最後に,喫煙歴によって認知機能に違いがみられるかどうかを検討するために,階層的重回帰分析により喫煙との関連が求められた認知機能を従属変数とし,pack-yearsを固定因子,性別,年齢,教育歴,身体活動,飲酒習慣を共変量とする共分散分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の趣旨・目的を書面および口頭にて説明し,同意を得た。
【結果】
一元配置分散分析ならびにχ2検定の結果,非喫煙者は女性が多く,喫煙経験者,喫煙者は男性が多かった(p<.05)。また1日の歩行時間は喫煙経験者,喫煙者に比べ,非喫煙者のほうが多く(p<.05),喫煙経験者,喫煙者は現在も飲酒をしている者の割合が高かった(p<.05)。階層的重回帰分析の結果,喫煙は情報処理能力と有意な関連がみられた(p<.05)。共分散分析の結果,情報処理能力を測定するsymbol digit substitution testの得点に群間差がみられ(F(1,1801)=6.035,p<.05),pack-yearsが40を超える者は40以下の者に比べ有意に情報処理能力が低かった。
【考察】
本研究の結果から,喫煙は他の生活習慣と関連があり,また情報処理能力と関連があること,喫煙本数および年数が多く長い者(pack-years≧40)は情報処理能力が低い可能性が示唆された。先行研究からは,pack-yearsは前頭葉の容積と負の相関にあることが報告されている。また,前頭葉は情報処理能力と関わることが報告されていることを鑑みると,本研究結果は先行研究の結果と一致するものであると思われる。さらに,本研究は複合的な視点で喫煙の具体的な基準値を示しており,喫煙と認知機能の関係をみる研究の発展の一助になると考えられる。一方,その他の認知機能については喫煙との関連が認められなかった。このことに関しては,先行研究においても結果が一致していないことが報告されており,今後,認知機能や生活習慣の評定方法を含め詳細にわたり検討すべきであると考えられる。また,喫煙経験者あるいは喫煙者は非喫煙者に比べ1日の歩行時間が少なかったことから,喫煙のみならず身体活動の亢進を含めた総合的な健康教育が必要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は喫煙と認知機能が量的関係にある可能性を示唆するものであり,今後の高齢者の健康増進にむけた生活習慣改善の具体的かつ有益な情報を提供するものである。