[0064] 二重課題トレーニングによる認知機能向上の効果検証
Keywords:二重課題, 認知症予防, ランダム化比較対照試験
【はじめに,目的】日本の高齢化率は急速に上昇し,2013年10月1日の概算では25.1%である。それに伴って認知症高齢者数の増加も見られ,2015年には345万人に達し,2025年には470万人になることが推計されている。
認知症では,理解・判断力の低下が生じるため,社会生活に支障をきたし,日常生活への適応を困難にする問題が生じる。
今後,認知症高齢者の数が増えることで施設の不足や,在宅の認知症者の増加,認知症ケアに対するコストの増加が考えられる。よって認知症予防が重要な課題のひとつになっている。従来,認知症予防に対しては,様々な領域で研究報告がなされている。吉田らの研究(2005)では,認知機能の低下は前頭前野を活性化させることである程度遅らせることができ,Burbaudらの研究(1995)では,単純な計算や音読などの認知課題により前頭前野の血流が増加することや,Heynらの研究(2004)では,運動は認知機能改善に対して中等度の効果があることが報告されている。
一方,Koechlinら(1999)によると,二重課題は前頭前野を中心としたワーキングメモリが関与し認知機能遂行に不可欠であると報告している。これより,二重課題は運動課題,認知課題の二つを同時に行うことができ,時間的負荷の軽減ともなり,認知症予防への介入として効率的であると考えた。そこで,本研究では,高齢者に対して認知機能の向上を図れるよう,その前段階として,健常若年者における二重課題トレーニングによる認知機能向上の効果を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は,健常若年者40名(男女各20名,平均年齢20.9±0.7歳)であった。全対象者をランダムに二重課題群(男女各5名),運動課題群(男女各5名),認知課題群(男女各5名),対照群(男女各5名)の4群に割り付けた。二重課題群では山田らの研究(2009)において転倒リスクの評価法として使用されているTrail Walking Testを参考に考案したTrail Walking Trainingというトレーニングを1日1回実施した。運動課題群では,1日30分の歩行と筋力トレーニングを実施した。認知課題群では1日60問の四則演算ドリルを実施した。3群とも全12回(週3回)実施した。対照群では日常生活に特に規制を設けなかった。以上の介入前後,認知機能の測定として全対象者にパソコンの画面に5秒間出現する8桁の数字の数列を暗記させ,正当数(10問中)を調査した。統計学的解析は,介入前の結果,8桁数列暗記の正当数の介入前後の変化量を多重比較(Tukey法)を用いて群間比較した。解析ソフトはR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対する倫理的配慮として,研究の目的,方法,参加による利益と不利益,自らの意思で参加し,またいつでも参加を中止できること,個人情報の取り扱いと得られたデータの処理方法,結果公表方法などを記した書面を用いて口頭による説明を十分に行った上で,同意書への署名にて同意を得て本研究の対象とした。また,本研究は群馬パース大学保健科学部理学療法学科卒業研究倫理規定に触れないことを研究倫理検討会で承諾された。
【結果】介入前の8桁数列暗記の正当数平均は二重課題群が6.5±3.2問,運動課題群が6.3±3.3問,認知課題群が6.1±2.6問,対照群が6.1±1.9問であり,多重比較(Tukey法)を用いて群間比較したところ,有意差は認められなかった。介入後の8桁数列暗記の正当数平均は二重課題群が8.8±1.1問,運動課題群が7.9±2.6問,認知課題群が8.0±1.5問,対照群が7.0±2.6問であった。多重比較(Tukey法)を用いて介入後の正当数の変化量を群間比較したところ,全ての群間に有意差は認められなかった。
【考察】介入前に有意差がないことから,介入前に群間差がないことが明らかとなった。また,本研究では,先行研究により認知課題,運動課題の単一課題として認知機能向上に効果のある,二つの課題を同時に行う二重課題では,より前頭前野の活動を高め,認知機能向上すると考え,認知機能が向上するか検討した。しかし,健常若年者に対して本研究で実施した二重課題,運動課題,認知課題は認知機能向上に効果が認められなかった。
【理学療法学研究としての意義】認知症予防や認知症者の認知機能維持・向上を図ることができれば,高齢者の健康寿命が延長し,介護者の介護負担の軽減やコストの抑制が見込まれる。また,認知課題や運動課題の単一課題を認知症者への介入として用いるより,その二つを同時に行う二重課題を用いることで時間的対効果の面で効率的介入となり得る可能性がある。本研究の結果は,健常若年者に対しての認知機能向上は認められなかったため,健常若年者への介入策としては,二重課題,運動課題,認知課題におけるトレーニングが認知機能向上に有用となり得る可能性はないと考えた。
認知症では,理解・判断力の低下が生じるため,社会生活に支障をきたし,日常生活への適応を困難にする問題が生じる。
今後,認知症高齢者の数が増えることで施設の不足や,在宅の認知症者の増加,認知症ケアに対するコストの増加が考えられる。よって認知症予防が重要な課題のひとつになっている。従来,認知症予防に対しては,様々な領域で研究報告がなされている。吉田らの研究(2005)では,認知機能の低下は前頭前野を活性化させることである程度遅らせることができ,Burbaudらの研究(1995)では,単純な計算や音読などの認知課題により前頭前野の血流が増加することや,Heynらの研究(2004)では,運動は認知機能改善に対して中等度の効果があることが報告されている。
一方,Koechlinら(1999)によると,二重課題は前頭前野を中心としたワーキングメモリが関与し認知機能遂行に不可欠であると報告している。これより,二重課題は運動課題,認知課題の二つを同時に行うことができ,時間的負荷の軽減ともなり,認知症予防への介入として効率的であると考えた。そこで,本研究では,高齢者に対して認知機能の向上を図れるよう,その前段階として,健常若年者における二重課題トレーニングによる認知機能向上の効果を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は,健常若年者40名(男女各20名,平均年齢20.9±0.7歳)であった。全対象者をランダムに二重課題群(男女各5名),運動課題群(男女各5名),認知課題群(男女各5名),対照群(男女各5名)の4群に割り付けた。二重課題群では山田らの研究(2009)において転倒リスクの評価法として使用されているTrail Walking Testを参考に考案したTrail Walking Trainingというトレーニングを1日1回実施した。運動課題群では,1日30分の歩行と筋力トレーニングを実施した。認知課題群では1日60問の四則演算ドリルを実施した。3群とも全12回(週3回)実施した。対照群では日常生活に特に規制を設けなかった。以上の介入前後,認知機能の測定として全対象者にパソコンの画面に5秒間出現する8桁の数字の数列を暗記させ,正当数(10問中)を調査した。統計学的解析は,介入前の結果,8桁数列暗記の正当数の介入前後の変化量を多重比較(Tukey法)を用いて群間比較した。解析ソフトはR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対する倫理的配慮として,研究の目的,方法,参加による利益と不利益,自らの意思で参加し,またいつでも参加を中止できること,個人情報の取り扱いと得られたデータの処理方法,結果公表方法などを記した書面を用いて口頭による説明を十分に行った上で,同意書への署名にて同意を得て本研究の対象とした。また,本研究は群馬パース大学保健科学部理学療法学科卒業研究倫理規定に触れないことを研究倫理検討会で承諾された。
【結果】介入前の8桁数列暗記の正当数平均は二重課題群が6.5±3.2問,運動課題群が6.3±3.3問,認知課題群が6.1±2.6問,対照群が6.1±1.9問であり,多重比較(Tukey法)を用いて群間比較したところ,有意差は認められなかった。介入後の8桁数列暗記の正当数平均は二重課題群が8.8±1.1問,運動課題群が7.9±2.6問,認知課題群が8.0±1.5問,対照群が7.0±2.6問であった。多重比較(Tukey法)を用いて介入後の正当数の変化量を群間比較したところ,全ての群間に有意差は認められなかった。
【考察】介入前に有意差がないことから,介入前に群間差がないことが明らかとなった。また,本研究では,先行研究により認知課題,運動課題の単一課題として認知機能向上に効果のある,二つの課題を同時に行う二重課題では,より前頭前野の活動を高め,認知機能向上すると考え,認知機能が向上するか検討した。しかし,健常若年者に対して本研究で実施した二重課題,運動課題,認知課題は認知機能向上に効果が認められなかった。
【理学療法学研究としての意義】認知症予防や認知症者の認知機能維持・向上を図ることができれば,高齢者の健康寿命が延長し,介護者の介護負担の軽減やコストの抑制が見込まれる。また,認知課題や運動課題の単一課題を認知症者への介入として用いるより,その二つを同時に行う二重課題を用いることで時間的対効果の面で効率的介入となり得る可能性がある。本研究の結果は,健常若年者に対しての認知機能向上は認められなかったため,健常若年者への介入策としては,二重課題,運動課題,認知課題におけるトレーニングが認知機能向上に有用となり得る可能性はないと考えた。