[0066] 施設入所高齢者における単純課題および二重課題条件下での歩行特性と生活活動量との関連
キーワード:高齢者, 歩行特性, 生活活動量
【はじめに,目的】
二重課題条件あるいは歩行開始時の歩行特性は高齢者の転倒と密接な関連がみられることが指摘されており,転倒経験を有する高齢者においては二重課題条件下での歩行速度が低下していることや歩行開始時の歩行周期変動係数が大きいことなどが報告されている。しかし,高齢者の単純課題および二重課題条件下での歩行特性について,歩行開始時と定常歩行時に分けて詳細に評価し,これらと生活活動量との関連について検討した研究は見当たらない。そこで本研究は施設入所高齢者を対象として単純課題および二重課題条件下で歩行開始時および定常歩行時における歩行特性を評価し,生活活動量との関連性について検討した。
【方法】
対象は自力歩行可能な施設入所高齢者23名(男性3名,女性20名,平均年齢84.8±6.6歳)とした。なお,測定に大きな支障を及ぼすほど重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。
歩行特性の評価はできるだけ速く歩行させる最大努力歩行について,単純課題および二重課題の2条件で実施した。なお,二重課題では認知課題(語想起課題)をさせながら,できるだけ速く歩くように指示した。歩行路のスタート地点から2m,8m地点に光電管を設置し,各地点の通過時間を計測した。スタート地点から2mまでを歩行開始時,2m~8m間を定常歩行時と規定し,各区間の歩行速度をそれぞれ算出した。また,多機能三軸加速度計(ベルテックジャパン製G-WALK)を腰部に装着し,ケイデンス,歩幅,左右の歩幅の非対称性,ステップごとの踵接地時間を測定した。5ステップ分の踵接地時間の平均値および標準偏差値から変動係数(Coefficient of variation;CV)を算出した(CV=標準偏差/平均×100)。なお,1~5歩目の踵接地時間のCVを歩行開始CV,6~10歩目の踵接地時間のCVを定常歩行CVと定義した。生活活動量の評価は,Bakerらによって開発されたLife-Space-Assessment(LSA)の質問紙を用い,過去1ヶ月間の活動範囲,活動頻度および自立度から点数(120点満点)を算出した。
統計解析について,単純課題と二重課題の歩行特性の違いについて,対応のあるt検定を用いて分析した。生活活動量(LSA)と歩行特性との関連についてはPearsonの相関分析を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者に本研究に関する十分な説明を行い,同意を得た。なお,本研究は本学医の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号E-1141)。
【結果】
単純課題と二重課題の歩行特性の違いについて分析した結果,歩行開始速度,定常歩行速度,ケイデンス,歩幅で有意差がみられ,いずれも単純課題と比較して二重課題において有意な減少がみられた。歩行開始CV,定常歩行CV,歩幅非対称性では有意差はみられなかった。
生活活動量(LSA)と歩行特性との関連について,まず単純課題においては歩行開始速度(r=0.60),定常歩行速度(r=0.67),定常歩行CV(r=-0.44)でLSAと有意な相関を認めたが,ケイデンス,歩幅,歩幅非対称性,歩行開始CVにおいては相関を認めなかった。二重課題については,すべての歩行特性においてLSAとの有意な相関は認めなかった。
【考察】
本研究の結果,二重課題下での歩行においては単純課題と比較して歩行速度は減少するものの,CVや歩幅非対称性には変化がみられなかったことから,二重課題にしても歩行周期や歩幅が不規則になることはないことが示唆された。生活活動量(LSA)と歩行特性との関連について,単純課題においては歩行開始速度,定常歩行速度,定常歩行CVでLSAと有意な相関を認めた。このことから,定常歩行時における歩行能力だけでなく,歩行開始時の歩行能力も施設入所高齢者の生活活動量と関連していること,歩行周期の変動性が大きくなるほど,すなわち不規則な歩行パターンになるほど生活活動量は減少していることが示唆された。一方,二重課題での歩行特性についてはすべての項目において相関が認められなかったことから,体力水準の低い施設入所高齢者においては二重課題下での歩行能力よりも単純課題における歩行能力のほうが生活活動量と関連していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,施設入所高齢者においては二重課題での歩行特性よりも単純課題における歩行特性のほうが生活活動量と関連がみられることが示された。また,虚弱高齢者の生活活動量向上や生活空間の拡大のためには,定常歩行時の歩行能力だけでなく,歩行開始動作について評価・介入することも重要であることが示唆された。
二重課題条件あるいは歩行開始時の歩行特性は高齢者の転倒と密接な関連がみられることが指摘されており,転倒経験を有する高齢者においては二重課題条件下での歩行速度が低下していることや歩行開始時の歩行周期変動係数が大きいことなどが報告されている。しかし,高齢者の単純課題および二重課題条件下での歩行特性について,歩行開始時と定常歩行時に分けて詳細に評価し,これらと生活活動量との関連について検討した研究は見当たらない。そこで本研究は施設入所高齢者を対象として単純課題および二重課題条件下で歩行開始時および定常歩行時における歩行特性を評価し,生活活動量との関連性について検討した。
【方法】
対象は自力歩行可能な施設入所高齢者23名(男性3名,女性20名,平均年齢84.8±6.6歳)とした。なお,測定に大きな支障を及ぼすほど重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。
歩行特性の評価はできるだけ速く歩行させる最大努力歩行について,単純課題および二重課題の2条件で実施した。なお,二重課題では認知課題(語想起課題)をさせながら,できるだけ速く歩くように指示した。歩行路のスタート地点から2m,8m地点に光電管を設置し,各地点の通過時間を計測した。スタート地点から2mまでを歩行開始時,2m~8m間を定常歩行時と規定し,各区間の歩行速度をそれぞれ算出した。また,多機能三軸加速度計(ベルテックジャパン製G-WALK)を腰部に装着し,ケイデンス,歩幅,左右の歩幅の非対称性,ステップごとの踵接地時間を測定した。5ステップ分の踵接地時間の平均値および標準偏差値から変動係数(Coefficient of variation;CV)を算出した(CV=標準偏差/平均×100)。なお,1~5歩目の踵接地時間のCVを歩行開始CV,6~10歩目の踵接地時間のCVを定常歩行CVと定義した。生活活動量の評価は,Bakerらによって開発されたLife-Space-Assessment(LSA)の質問紙を用い,過去1ヶ月間の活動範囲,活動頻度および自立度から点数(120点満点)を算出した。
統計解析について,単純課題と二重課題の歩行特性の違いについて,対応のあるt検定を用いて分析した。生活活動量(LSA)と歩行特性との関連についてはPearsonの相関分析を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者に本研究に関する十分な説明を行い,同意を得た。なお,本研究は本学医の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号E-1141)。
【結果】
単純課題と二重課題の歩行特性の違いについて分析した結果,歩行開始速度,定常歩行速度,ケイデンス,歩幅で有意差がみられ,いずれも単純課題と比較して二重課題において有意な減少がみられた。歩行開始CV,定常歩行CV,歩幅非対称性では有意差はみられなかった。
生活活動量(LSA)と歩行特性との関連について,まず単純課題においては歩行開始速度(r=0.60),定常歩行速度(r=0.67),定常歩行CV(r=-0.44)でLSAと有意な相関を認めたが,ケイデンス,歩幅,歩幅非対称性,歩行開始CVにおいては相関を認めなかった。二重課題については,すべての歩行特性においてLSAとの有意な相関は認めなかった。
【考察】
本研究の結果,二重課題下での歩行においては単純課題と比較して歩行速度は減少するものの,CVや歩幅非対称性には変化がみられなかったことから,二重課題にしても歩行周期や歩幅が不規則になることはないことが示唆された。生活活動量(LSA)と歩行特性との関連について,単純課題においては歩行開始速度,定常歩行速度,定常歩行CVでLSAと有意な相関を認めた。このことから,定常歩行時における歩行能力だけでなく,歩行開始時の歩行能力も施設入所高齢者の生活活動量と関連していること,歩行周期の変動性が大きくなるほど,すなわち不規則な歩行パターンになるほど生活活動量は減少していることが示唆された。一方,二重課題での歩行特性についてはすべての項目において相関が認められなかったことから,体力水準の低い施設入所高齢者においては二重課題下での歩行能力よりも単純課題における歩行能力のほうが生活活動量と関連していることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,施設入所高齢者においては二重課題での歩行特性よりも単純課題における歩行特性のほうが生活活動量と関連がみられることが示された。また,虚弱高齢者の生活活動量向上や生活空間の拡大のためには,定常歩行時の歩行能力だけでなく,歩行開始動作について評価・介入することも重要であることが示唆された。