第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節1

Fri. May 30, 2014 10:50 AM - 11:40 AM ポスター会場 (運動器)

座長:西川仁史(甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科)

運動器 ポスター

[0076] 腱板断裂サイズが肩甲骨前後傾斜角に及ぼす影響

堀江翔太1, 石原康成1, 水池千尋1, 水島健太郎1, 久須美雄矢1, 立原久義2 (1.大久保病院明石スポーツ整形・関節外科センターリハビリテーション科, 2.大久保病院明石スポーツ整形・関節外科センター整形外科)

Keywords:肩甲骨, 腱板断裂, CT画像

【はじめに,目的】
肩甲胸郭関節(以下STj)は,腱板が正常に機能するための土台として重要な役割を果たしている。しかし,我々の先行研究によって,腱板断裂(以下RCT)患者では,肩甲骨周囲筋のタイトネスや不均衡によって肩甲骨の位置異常が生じており,STjの機能障害を有することを報告した。一般に,上肢挙上に際して肩甲骨の後傾・内転・上方回旋が制限されると肩峰下でインピンジが生じやすいとされており,肩甲骨の位置異常がRCTの発症や症状に影響している可能性がある。したがって,理学療法を実施する際は肩甲骨の位置異常に対してもアプローチすることが重要であると考える。しかし,RCTにおける肩甲骨運動は断裂サイズによって多様性があると考えられ,評価を困難にしている。そこで,本研究の目的は,腱板の断裂サイズが上肢挙上時における肩甲骨の後方傾斜に及ぼす影響を検証することとした。
【方法】
対象は,当院で腱板完全断裂と診断されたRCT患者22肩(男性15肩,女性7肩,平均年齢68歳)とし,断裂サイズによって小~中断裂12肩(以下SM群)と大~広範囲断裂10肩(以下LM群)に分類した。また,肩関節に既往がなく,超音波にて腱板断裂がない40~60代の健常者32肩(以下健常群)(男性16肩,女性16肩,平均年齢51歳)を対照とした。上肢下垂位と130°挙上位の2肢位で胸部三次元CTを撮影し,骨格側面像にて肩峰の先端から下角の下端を結んだ線と床面への垂線がなす角度(肩甲骨前後傾斜角)を測定した。胸部三次元CTの撮影は診療放射線技師が行った。下垂位と挙上位での肩甲骨前後傾斜角と変化量を3群間で比較検討した。統計学的検討は一元配置分散分析を使用し,有意水準は危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には共同研究者である医師が三次元CT撮影の前に説明を行い,同意を得ている。
【結果】
下垂位での肩甲骨前後傾斜角は,SM群では136.8±7.4°,LM群では140.3±6.6°,健常者群では139±4.3°であった。SM群で前傾している傾向にあったが,3群間で有意差は認めなかった。挙上位での肩甲骨前後傾斜角は,SM群では179.0±8.8°,LM群では180.4±6.8°,健常者群では181.5±3.7°であった。断裂サイズが大きいほど,拳上時に肩甲骨の後傾が少ない傾向にあったが,3群間で有意差は認めなかった。下垂位から挙上位での肩甲骨後傾による前後傾斜角の変化量は,SM群では平均42.3±7.0°,LM群では平均40.2±4.7°,健常者群では平均42.4±6.0°であった。LM群で後傾方向の動きが小さい傾向があったが,3群間で有意差は認めなかった。
【考察】
本研究では,RCT患者と健常者における上肢挙上時と下垂時の肩甲骨の傾きを,三次元CTを用いて評価した。その結果,下垂位では断裂サイズが小さいSM群において肩甲骨が前傾傾向であった。肩関節の挙上時に,肩甲骨の後傾・内転・上方回旋の不足が生じると相対的に烏口肩峰アーチが狭小化するため,肩峰下でのインピンジが惹起されるとされている。本研究の結果より,肩甲骨の前傾増大がRCTの発症にも影響している可能性が示唆された。肩甲骨の前傾を引き起こす要因としては,小胸筋の短縮が問題になることが多く,徒手療法では小胸筋へのアプローチが有効であると考える。また,大きな断裂ほど挙上時に肩甲骨の後傾が少ない傾向にあった。罹病期間が長くなり,断裂サイズが拡大するにしたがって腱板機能不全が進行し,僧帽筋上部線維の筋活動が代償性に亢進することが知られている。このことが,挙上位での後傾に影響している可能性が考えられる。理学療法では,僧帽筋上部線維の緊張をコントロールし,肩甲骨の上方回旋に重要な僧帽筋下部線維と前鋸筋の働きを促すことが重要であると考える。本研究の課題として,今回は術前の評価であるが,今後は腱板修復術後の縦断的な評価を行うことで腱板機能の改善に伴う肩甲骨運動の変化を明らかにし,腱板機能が肩甲胸郭関節に与える影響を検証したい。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究結果では,上肢下垂位では断裂サイズが小さいほど肩甲骨が前傾している可能性があると考えられた。このことから,断裂サイズが小さい腱板断裂における理学療法では,肩甲骨後傾を引き出す可動域練習が必要であることが示唆された。また,腱板断裂に関する三次元CTを用いた評価は少なく,基礎資料として有意義であると考える。