第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節1

2014年5月30日(金) 10:50 〜 11:40 ポスター会場 (運動器)

座長:西川仁史(甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科)

運動器 ポスター

[0079] 無線3軸加速度計を用いた肩腱板損傷修復術後患者の歩行分析

坪内健一, 定松修一 (松山赤十字病院)

キーワード:肩腱板損傷, 加速度計, 歩行分析

【はじめに】肩腱板損傷修復術後患者(以下,術後患者)は,10日前後に亜急性期病棟に転科転棟し,術後4週で肩軟性装具(DONJOY ULTRASLINGIII)を除去・肩関節他動的関節可動開始,術後6週で肩関節自動運動を開始,術後8週で退院としている。退院まで術後患者の歩行は概ね安定しているように見られるが,少数ながら動揺の改善が見られない症例もある。今回我々は,現状把握のため高性能で簡便な8チャンネル無線モーションレコーダ用歩行バランスチェッカー(MicroStone社製MVP-UK-S,MVP-RF8)を使用し,術後患者の歩行と健常人の歩行の結果を比較分析した。
【方法】対象は,術後患者18例(男性10例,女性8例,平均年齢67±9歳),健常人5例(男性3例,女性2例,平均年齢35±11歳)とした。測定方法は,第3腰椎部にテープとベルトにてセンサを固定,自由スピードで20m歩行を2回測定した。肩装具装着時の比較のため健常人は,左右交互に装具装着し測定した。術後患者の測定時期は,軟性装具固定中の術後2週(a),装具除去後の術後4週(b)・6週(c)・8週(d)で行った。解析方法は,歩行バランスチェッカーソフトウェアから歩行始動時数秒を除外した10秒間を選択し,CSVファイルに変換されたものをMicrosoft Excelにて解析,加速度計の3方向(左右方向・上下方向・前後方向)の波形を算出した。歩行時の動揺の指標とするため,算出した左右方向・上下方向・前後方向と3方向合成した値の2乗平均平行根処理(Root Mean Square,以下,RMS)を行い,各左右方向・上下方向・前後方向のRMSに対して3方向合成したRMSで除したものをRMS比とした。このRMS比の結果から健常人の装具装着時と非装着時の比較,術後患者と健常人の比較をU-検定にて比較した。また術後患者の外れ値検定(スミルノフ・グラプス検定)も行った。有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には,本研究の趣旨および検査内容について口頭および文書にて十分に説明し同意を文書により得た。
【結果】健常人の装具非装着時のRMS比平均は,左右方向0.43,上下方向0.70,前後方向0.56であった。健常人の装具装着時のRMS比平均は,左右方向0.40,上下方向0.73,前後方向0.55であった。健常人の装具装着時と非装着時の比較では,左右方向・上下方向・前後方向の3方向ともに有意な差はなかった。術後患者の左右方向のRMS比平均は,(a)0.42(b)0.45(c)0.44(d)0.44,上下方向のRMS比平均は,(a)0.70(b)0.69(c)0.70(d)0.70,前後方向のRMS比平均は,(a)0.56(b)0.56(c)0.55(d)0.55であった。術後患者の術後2週と健常人の装具装着時の比較は,左右方向・上下方向・前後方向の3方向ともに有意な差はなかった。術後患者の術後4週以降と健常人の非装着時の比較は,左右方向・上下方向・前後方向の3方向ともに有意な差はなかった。術後患者の外れ値検定を行った結果,18例中1例左右方向の術後2週・4週と前後方向の術後2週に検出された。術後2週・4週の左右方向は,術側へ動揺増大,術後2週の前後方向は,後方の動揺減少がみられた。検出された1例の左右方向のRMS比は,(a)0.65(b)0.60(c)0.52(d)0.56,上下方向のRMS比は,(a)0.66(b)0.55(c)0.66(d)0.63,前後方向のRMS比は,(a)0.36(b)0.58(c)0.54(d)0.52であった。
【考察】肩軟性装具の装着による歩行の動揺は,健常人の結果からもわかるように影響は少ない。術後患者の歩行の動揺は,臨床でもみられるように術後早期から少なかった。外れ値検定の結果でみられた1例も術後6週以降では歩行の動揺も軽減している。これは当院では,術部のアプローチだけではなく体幹・下肢のストレッチやエルゴメータの実施なども積極的に行っている結果,歩行の動揺の軽減に役立っていると推察される。外れ値検定の結果でみられた1例については,術後より痛みは強かったが,痛み・歩行スピード・術側の腕の振りなど他と比較検討したが,著名な違いは得られなかった。今後は症例数を増やし,評価内容も検討して,患者への治療に結びつけたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】術部の肩甲上腕・肩甲胸郭関節に対するアプローチだけなく,後患者の歩行状態の経時的な変化を測定することは,少数であるが早期に歩容改善のアプローチの参考になりうると考える。