[0081] 肩関節周囲炎による夜間痛の持続期間が及ぼす影響
Keywords:夜間痛, 外旋, 結帯動作
【はじめに,目的】
肩関節周囲炎は中年以後の肩関節周囲組織の退行性変化を基盤として発症した疼痛性肩関節制動症として理解されている。痛みは徐々に増強し,その激痛により日常生活の行動を制限する。特につらいのが夜間痛である。夜間痛の持続期間は,全く無いものから数ヶ月間に及ぶものまで幅が広いのが現状である。今回,夜間痛の持続期間が影響を及ぼす因子について検討するために,肩関節周囲炎がプラトーに至り,治療が終了となった症例を分析した。
【方法】
2011年5月から2013年9月までに肩関節周囲炎と診断され,機能面がプラトーに至るまで運動療法を施行した23症例23肩(女性18例・男性5例,年齢64.3±10.7歳)を対象とした。腱板断裂は対象外とした。両側肩に,肩疾患・受傷既往や合併症のある者も除外した。全例同一理学療法士が担当し,概ね同じリハビリテーションスケジュールで行われた。肩関節周囲炎の回復期に入り,4週間以上関節可動域(以下,ROM)の改善が得られない状態をプラトーとし治療を終了した。夜間痛は,毎日持続する痛みがあり,一晩に2~3回以上は目が覚めるものと定義し,夜間痛の発症から消失するまでの期間を週単位で記録した。夜間痛の持続期間が影響を及ぼす予測因子として,全治療期間,運動療法期間,最終獲得ROM(屈曲・外転・外旋・結帯動作)を列挙した。外旋ROMは下垂位でのポジションとした。全治療期間は初診日から治療の終了日までとし,発症日は特定できないケースが多いため考慮しなかった。運動療法期間は,運動療法が開始となった日から治療の終了日までとした。最終獲得ROMの屈曲・外転・外旋に関しては,プラトーに至った患側ROMを健側ROMで除し,患側ROMの改善した割合(以下,改善率)を算出した。最終獲得の結帯動作に関しては,健側結帯動作とプラトーに至った患側結帯動作の差(以下,結帯差)を脊椎の個数で示した。Grubbs-Smirnov棄却検定を行ない外れ値の検討をした上で,夜間痛の持続期間と各予測因子の関係をSpearmanの相関係数を使用して調べた。p<0.05で統計学的有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,対象者には本研究の趣旨を説明し,同意を得て実施した。
【結果】
夜間痛の持続期間と外旋改善率においてはr=-0.79 p<0.01であり,負の強い相関を認めた。夜間痛の持続期間と結帯差はr=0.46 p<0.05であり,正の弱い相関を認めた。夜間痛の持続期間とその他の因子には相関は見られなかった。
【考察】
今回の研究により,外旋ROMと結帯動作の予後は夜間痛が長期間に及ぶほど,悪影響を受けることが示唆された。特に外旋ROMは夜間痛の期間に強く影響を受ける結果となった。肩関節周囲炎の夜間痛は,肩峰下滑液包と腱板の癒着による肩峰下滑動機構の破綻,もしくは上方支持組織の拘縮が,肩峰下圧の上昇に関与しているといわれる。夜間痛が発生している期間は上方支持組織の伸張性が低下し,下垂位での内外旋を制限するため,それが長期間になるほど,外旋・結帯動作のROM予後に悪影響すると考察された。一方で,屈曲・外転ROMに関しては,上方支持組織の伸張性は関与しないため,夜間痛の持続期間の影響を受けなかったと考えられた。夜間痛に対しては炎症軽減のために日中の安静指導や,上方組織の伸張性回復のための徒手的治療が提案されており,これらの重要性を再確認する機会となった。夜間痛と内外旋制限の関係については,先行研究とも一致する結果であった。今後はさらに症例数を重ね,夜間痛の持続期間に影響する因子を可能な限り多く抽出し,より信憑性の高い研究が必要であると感じた。
【理学療法学研究としての意義】
今回我々は,夜間痛の持続期間が明確で,尚且つプラトーに至り治療が終了になるまで介入可能であった症例を分析した。肩関節周囲炎の夜間痛に対する報告は散見されるが,持続期間に着目した研究や,最終予後に至るまで追求し分析を行った物は見当たらないため,本研究の臨床的意義は高いと考える。
肩関節周囲炎は中年以後の肩関節周囲組織の退行性変化を基盤として発症した疼痛性肩関節制動症として理解されている。痛みは徐々に増強し,その激痛により日常生活の行動を制限する。特につらいのが夜間痛である。夜間痛の持続期間は,全く無いものから数ヶ月間に及ぶものまで幅が広いのが現状である。今回,夜間痛の持続期間が影響を及ぼす因子について検討するために,肩関節周囲炎がプラトーに至り,治療が終了となった症例を分析した。
【方法】
2011年5月から2013年9月までに肩関節周囲炎と診断され,機能面がプラトーに至るまで運動療法を施行した23症例23肩(女性18例・男性5例,年齢64.3±10.7歳)を対象とした。腱板断裂は対象外とした。両側肩に,肩疾患・受傷既往や合併症のある者も除外した。全例同一理学療法士が担当し,概ね同じリハビリテーションスケジュールで行われた。肩関節周囲炎の回復期に入り,4週間以上関節可動域(以下,ROM)の改善が得られない状態をプラトーとし治療を終了した。夜間痛は,毎日持続する痛みがあり,一晩に2~3回以上は目が覚めるものと定義し,夜間痛の発症から消失するまでの期間を週単位で記録した。夜間痛の持続期間が影響を及ぼす予測因子として,全治療期間,運動療法期間,最終獲得ROM(屈曲・外転・外旋・結帯動作)を列挙した。外旋ROMは下垂位でのポジションとした。全治療期間は初診日から治療の終了日までとし,発症日は特定できないケースが多いため考慮しなかった。運動療法期間は,運動療法が開始となった日から治療の終了日までとした。最終獲得ROMの屈曲・外転・外旋に関しては,プラトーに至った患側ROMを健側ROMで除し,患側ROMの改善した割合(以下,改善率)を算出した。最終獲得の結帯動作に関しては,健側結帯動作とプラトーに至った患側結帯動作の差(以下,結帯差)を脊椎の個数で示した。Grubbs-Smirnov棄却検定を行ない外れ値の検討をした上で,夜間痛の持続期間と各予測因子の関係をSpearmanの相関係数を使用して調べた。p<0.05で統計学的有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,対象者には本研究の趣旨を説明し,同意を得て実施した。
【結果】
夜間痛の持続期間と外旋改善率においてはr=-0.79 p<0.01であり,負の強い相関を認めた。夜間痛の持続期間と結帯差はr=0.46 p<0.05であり,正の弱い相関を認めた。夜間痛の持続期間とその他の因子には相関は見られなかった。
【考察】
今回の研究により,外旋ROMと結帯動作の予後は夜間痛が長期間に及ぶほど,悪影響を受けることが示唆された。特に外旋ROMは夜間痛の期間に強く影響を受ける結果となった。肩関節周囲炎の夜間痛は,肩峰下滑液包と腱板の癒着による肩峰下滑動機構の破綻,もしくは上方支持組織の拘縮が,肩峰下圧の上昇に関与しているといわれる。夜間痛が発生している期間は上方支持組織の伸張性が低下し,下垂位での内外旋を制限するため,それが長期間になるほど,外旋・結帯動作のROM予後に悪影響すると考察された。一方で,屈曲・外転ROMに関しては,上方支持組織の伸張性は関与しないため,夜間痛の持続期間の影響を受けなかったと考えられた。夜間痛に対しては炎症軽減のために日中の安静指導や,上方組織の伸張性回復のための徒手的治療が提案されており,これらの重要性を再確認する機会となった。夜間痛と内外旋制限の関係については,先行研究とも一致する結果であった。今後はさらに症例数を重ね,夜間痛の持続期間に影響する因子を可能な限り多く抽出し,より信憑性の高い研究が必要であると感じた。
【理学療法学研究としての意義】
今回我々は,夜間痛の持続期間が明確で,尚且つプラトーに至り治療が終了になるまで介入可能であった症例を分析した。肩関節周囲炎の夜間痛に対する報告は散見されるが,持続期間に着目した研究や,最終予後に至るまで追求し分析を行った物は見当たらないため,本研究の臨床的意義は高いと考える。