[0088] 歩行補助具T-support ver2使用による脳卒中片麻痺患者の長下肢装具を用いた歩行トレーニングへの影響
Keywords:片麻痺, 長下肢装具, 歩行速度
【目的】
我々は川村義肢株式会社協力のもと,長下肢装具を用いた歩行トレーニング時に使用することで歩行速度を向上させることが可能となる歩行補助具T-support(以下ver1)を作成し,第48回大会においてその即時効果について報告した。今回,ver1の体幹伸展補助機能に改良を加えたT-support ver2(以下ver2)を作成した。
本研究の目的は,ver2使用による長下肢装具装着下での歩行因子の変化を明らかにすることである。
【方法】
対象は当院で長下肢装具を作成し,歩行トレーニングを行っている7症例とした。ver2装着による歩行因子の変化を明らかにするため,10mの歩行路をバンド装着時と非装着時の2度歩行した。装具は全例が足継手にGait Solutionを用いた金属支柱付長下肢装具を使用していた。評価指標として10m歩行所要時間およびステップ数,川村義肢株式会社製Gait Judge System(以下GJ)を用い計測されるイニシャルコンタクト(以下IC)からローディングレスポンスに装具に発生する底屈トルク値(ファーストピーク,以下FP),およびICにおける股関節屈曲角度,ターミナルスタンス(以下TSt)における股関節伸展角度を測定した。統計学的分析にはt検定を用い5%を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。
【結果】
ver2装着により,10m歩行所要時間が30.9秒から20.6秒に,ステップ数が32.7歩から26.4歩に,FPが3.0 Nmから4.3Nmに,TStでの股関節伸展角度は3.1°から9.0°に変化し,有意差が認められた。ICにおける股関節屈曲角度は24.3°から22.5°と変化したが,有意差は認められなかった。
【考察】
脳卒中片麻痺患者の歩行トレーニングでは,歩行速度を向上させる事が重要とされる。Dobkinらは脳卒中患者を強制的に早く歩かせた群とそうでない群の2群に分け歩行能力を比較した結果,早く歩かせた群において有意に歩行能力の改善が認められたと報告している。これは歩行速度向上に伴い歩行制御におけるCentral Pattern Generatorの役割が相対的に増し,歩行がより自動的な運動となるためであると考えられており,歩行速度を向上させることは歩行制御の神経機構を変化させることにつながると思われる。
このことから,我々は長下肢装具を用いた歩行トレーニングにおいてもスピードの向上が治療上より有効な手段となりうるのではないかと考えている。しかし長下肢装具により膝関節の運動自由度を制限した状況で歩行速度を向上させることは容易ではなく,麻痺側下肢の筋緊張亢進やスイング時の体幹側屈などの異常歩行パターンを誘発する可能性がある。これに対しThijssenらはCVAidという肩から足部までを弾性バンドでつないで制御する装具を作成し,バンドの張力を用い麻痺側下肢のスイングを補助することで,脳卒中片麻痺患者のストライド長増大に伴う歩行速度の向上が見られたと報告しており,その有用性は理学療法診療ガイドライン第1版(2011)にも引用されている。これを参考にして我々は歩行補助具を作成してきた。
ver1は装着により歩行速度を向上させる効果が確認されたが,ゴムベルトをタスキ状に繋いだ構造のため重度の介助を必要とする症例では体幹の支持性の不足が問題であった。そこでver2では体幹支持部に腰椎コルセットを使用した。その理由は,コルセットにより腹圧を上昇させ,体幹前屈方向へのモーメントを減少させることにある。またコルセットはスイングを補助するための弾性バンドが2本着脱可能となっており,このバンドを長下肢装具の大腿カフの前後面に装着し,バンドの張力を用いることで速度を向上させた麻痺側下肢のスイングが可能となる。今回の研究結果からは,ver1同様に,股関節伸展角度およびストライド長を増大させ,その結果步行速度が向上するという即時効果があることが明らかとなった。これは弾性バンドの張力に加え,コルセットにより体幹伸展が促され,股関節屈筋群を含めた体幹前面の筋が働きやすくなったことによる影響であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者の長下肢装具を用いた歩行トレーニングにおいて,ver2を使用することで効率的なトレーニングが可能となることが明らかとなった。この新しい歩行補助具の効果を明らかにした本研究は,脳卒中片麻痺患者の理学療法を発展させる上で重要なものであると考える。
我々は川村義肢株式会社協力のもと,長下肢装具を用いた歩行トレーニング時に使用することで歩行速度を向上させることが可能となる歩行補助具T-support(以下ver1)を作成し,第48回大会においてその即時効果について報告した。今回,ver1の体幹伸展補助機能に改良を加えたT-support ver2(以下ver2)を作成した。
本研究の目的は,ver2使用による長下肢装具装着下での歩行因子の変化を明らかにすることである。
【方法】
対象は当院で長下肢装具を作成し,歩行トレーニングを行っている7症例とした。ver2装着による歩行因子の変化を明らかにするため,10mの歩行路をバンド装着時と非装着時の2度歩行した。装具は全例が足継手にGait Solutionを用いた金属支柱付長下肢装具を使用していた。評価指標として10m歩行所要時間およびステップ数,川村義肢株式会社製Gait Judge System(以下GJ)を用い計測されるイニシャルコンタクト(以下IC)からローディングレスポンスに装具に発生する底屈トルク値(ファーストピーク,以下FP),およびICにおける股関節屈曲角度,ターミナルスタンス(以下TSt)における股関節伸展角度を測定した。統計学的分析にはt検定を用い5%を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。
【結果】
ver2装着により,10m歩行所要時間が30.9秒から20.6秒に,ステップ数が32.7歩から26.4歩に,FPが3.0 Nmから4.3Nmに,TStでの股関節伸展角度は3.1°から9.0°に変化し,有意差が認められた。ICにおける股関節屈曲角度は24.3°から22.5°と変化したが,有意差は認められなかった。
【考察】
脳卒中片麻痺患者の歩行トレーニングでは,歩行速度を向上させる事が重要とされる。Dobkinらは脳卒中患者を強制的に早く歩かせた群とそうでない群の2群に分け歩行能力を比較した結果,早く歩かせた群において有意に歩行能力の改善が認められたと報告している。これは歩行速度向上に伴い歩行制御におけるCentral Pattern Generatorの役割が相対的に増し,歩行がより自動的な運動となるためであると考えられており,歩行速度を向上させることは歩行制御の神経機構を変化させることにつながると思われる。
このことから,我々は長下肢装具を用いた歩行トレーニングにおいてもスピードの向上が治療上より有効な手段となりうるのではないかと考えている。しかし長下肢装具により膝関節の運動自由度を制限した状況で歩行速度を向上させることは容易ではなく,麻痺側下肢の筋緊張亢進やスイング時の体幹側屈などの異常歩行パターンを誘発する可能性がある。これに対しThijssenらはCVAidという肩から足部までを弾性バンドでつないで制御する装具を作成し,バンドの張力を用い麻痺側下肢のスイングを補助することで,脳卒中片麻痺患者のストライド長増大に伴う歩行速度の向上が見られたと報告しており,その有用性は理学療法診療ガイドライン第1版(2011)にも引用されている。これを参考にして我々は歩行補助具を作成してきた。
ver1は装着により歩行速度を向上させる効果が確認されたが,ゴムベルトをタスキ状に繋いだ構造のため重度の介助を必要とする症例では体幹の支持性の不足が問題であった。そこでver2では体幹支持部に腰椎コルセットを使用した。その理由は,コルセットにより腹圧を上昇させ,体幹前屈方向へのモーメントを減少させることにある。またコルセットはスイングを補助するための弾性バンドが2本着脱可能となっており,このバンドを長下肢装具の大腿カフの前後面に装着し,バンドの張力を用いることで速度を向上させた麻痺側下肢のスイングが可能となる。今回の研究結果からは,ver1同様に,股関節伸展角度およびストライド長を増大させ,その結果步行速度が向上するという即時効果があることが明らかとなった。これは弾性バンドの張力に加え,コルセットにより体幹伸展が促され,股関節屈筋群を含めた体幹前面の筋が働きやすくなったことによる影響であると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺患者の長下肢装具を用いた歩行トレーニングにおいて,ver2を使用することで効率的なトレーニングが可能となることが明らかとなった。この新しい歩行補助具の効果を明らかにした本研究は,脳卒中片麻痺患者の理学療法を発展させる上で重要なものであると考える。