[0090] Gait Solution付長下肢装具の機能特性と歩行介助方法の関連
Keywords:長下肢装具, 歩行介助, Gait Solution
【目的】脳卒中片麻痺者の長下肢装具(knee ankle foot orthosis:以下KAFO)装着下の歩行トレーニングは,ほぼ介助下で行われる。そのため,種々の装具が有する特性に対応した適切な介助を加えることが重要である。Gait Solution(以下GS)は油圧による底屈制動を特徴とした足継手であり,主にヒールロッカー機能を補助する目的で用いられるが,KAFOの足継手にGSが選択されることも増えてきている。我々は臨床上,GS付KAFOを使用した歩行介助の際に,骨盤帯が進行方向へ推進しやすくなる現象を経験してきたが,KAFOにおいてはGSの機能がどのように発揮されるのか明確ではない。そこで本研究では,GS付KAFOの機械特性および歩行に及ぼす影響の調査を通し,装具の特性と介助方法の関連について検討することを目的とした。
【方法】GS付KAFOに関して,1)装具への荷重試験,2)装着下での介助歩行の計測を行った。1)下肢に見立てた支柱を中心とした試験機にGS付KAFOを固定し,その踵部に油圧ユニットが底屈する方向に1歩行周期を想定した0.8Hzで10周期繰り返し荷重を加えた。その際の大腿カフによる進行方向への荷重値(カフ後面が支柱を前方へ押し出す値)をロードセル(株式会社センサーネット製LCMタイプ)で測定した。油圧ユニットの抵抗値は1,2.5,4の3条件とした。5周期分を平均化し最大荷重値を算出した。2)健常成人13名{男性8名・女性5名,平均年齢35.3(25~60)歳,身長163.2±3.3cm,体重51.9±4.5kg}を対象とし,GS付KAFOを装着して10mの平坦路をPTの介助下で歩行した。油圧ユニットの抵抗値を1,2.5,4の3条件でランダムに変更し,各条件で2試行実施した。対象者には,装具装着肢を積極的に前進させず,介助に委ねるよう指示した。全試行とも同一のPTが,骨盤帯が後退しないよう後方より介助した。歩行中はGait Judge System(川村義肢株式会社製)を用いて足関節角度,底屈トルクを計測した。また,装具装着側殿部にフォースゲージ(株式会社イマダ製DPX-5T)を取り付け,介助による殿部への荷重値を測定した。歩行開始時と終了時を除いた5歩行周期ずつを抽出し,2試行分の合計10歩行周期について,1歩行周期中の殿部への荷重最大値,底屈トルクの平均値を算出した。各対象者について,殿部荷重値と油圧抵抗値との関連を一元配置分散分析(p<0.05)および多重比較により分析した。また,その分析結果を基に対象者を後述する2群に分け,底屈トルク平均値をt検定(p<0.05)を用いて比較した。なお,計測には膝継手リングロック,足継手Gait Solution・ダブルクレンザックのKAFOを,底背屈を制限せずに使用した。
【倫理的配慮】本研究は,当院倫理委員会にて承認を受けた。対象者には十分な説明を行い承諾を得た。
【結果】1)大腿カフにおける最大荷重値は,油圧1で5.0N,油圧2.5で9.7N,油圧4で14.6Nであった。油圧による抵抗値が高くなるに従い,大腿カフにも高い荷重が加わっていた。2)介助による殿部への荷重値は,平均油圧1で3.9±1.1N,油圧2.5で3.6±1.0N,油圧4で3.3±0.9Nであり,13名中10名において油圧抵抗値の高さに応じて有意に減少した。その10名と残り3名とで底屈トルクの平均値を比較すると,油圧1および4の場合は10名の平均値が有意に大きかった。油圧2.5では差を認めなかった。
【考察】GSの機構により,大腿カフが下肢を前方へ押し出す力が生じ,その力は油圧抵抗値に応じて大きくなることがわかった。そのため,GS付KAFOを使用した介助歩行において骨盤帯を前方へ推進させるには,油圧抵抗が小さいほどより大きな力の介助が必要であり,油圧抵抗が大きいほど軽微な力で充足すると考えられた。ただし,姿勢制御能力の不十分な片麻痺者においては,大腿部が強く押し出されることが歩行の困難さに繋がる危険性もある。よって油圧抵抗値の適応は,歩容の観察等も含め総合的に判断する必要がある。油圧抵抗値の設定により,必要な徒手的介助の量が変わり得ることを認識した上で,装具が発揮する機能を生かし,それをさらに強調したり不十分な部分を補ったりする介助を加えることが重要である。
【理学療法学研究としての意義】足継手を含めた装具の特性,歩行に及ぼす影響を明らかにすることが,必要な徒手的介助の量や内容について検討する材料となり得る。装具と徒手的介助を融合させることがより効果的な運動療法の展開に繋がる可能性を有している。
【方法】GS付KAFOに関して,1)装具への荷重試験,2)装着下での介助歩行の計測を行った。1)下肢に見立てた支柱を中心とした試験機にGS付KAFOを固定し,その踵部に油圧ユニットが底屈する方向に1歩行周期を想定した0.8Hzで10周期繰り返し荷重を加えた。その際の大腿カフによる進行方向への荷重値(カフ後面が支柱を前方へ押し出す値)をロードセル(株式会社センサーネット製LCMタイプ)で測定した。油圧ユニットの抵抗値は1,2.5,4の3条件とした。5周期分を平均化し最大荷重値を算出した。2)健常成人13名{男性8名・女性5名,平均年齢35.3(25~60)歳,身長163.2±3.3cm,体重51.9±4.5kg}を対象とし,GS付KAFOを装着して10mの平坦路をPTの介助下で歩行した。油圧ユニットの抵抗値を1,2.5,4の3条件でランダムに変更し,各条件で2試行実施した。対象者には,装具装着肢を積極的に前進させず,介助に委ねるよう指示した。全試行とも同一のPTが,骨盤帯が後退しないよう後方より介助した。歩行中はGait Judge System(川村義肢株式会社製)を用いて足関節角度,底屈トルクを計測した。また,装具装着側殿部にフォースゲージ(株式会社イマダ製DPX-5T)を取り付け,介助による殿部への荷重値を測定した。歩行開始時と終了時を除いた5歩行周期ずつを抽出し,2試行分の合計10歩行周期について,1歩行周期中の殿部への荷重最大値,底屈トルクの平均値を算出した。各対象者について,殿部荷重値と油圧抵抗値との関連を一元配置分散分析(p<0.05)および多重比較により分析した。また,その分析結果を基に対象者を後述する2群に分け,底屈トルク平均値をt検定(p<0.05)を用いて比較した。なお,計測には膝継手リングロック,足継手Gait Solution・ダブルクレンザックのKAFOを,底背屈を制限せずに使用した。
【倫理的配慮】本研究は,当院倫理委員会にて承認を受けた。対象者には十分な説明を行い承諾を得た。
【結果】1)大腿カフにおける最大荷重値は,油圧1で5.0N,油圧2.5で9.7N,油圧4で14.6Nであった。油圧による抵抗値が高くなるに従い,大腿カフにも高い荷重が加わっていた。2)介助による殿部への荷重値は,平均油圧1で3.9±1.1N,油圧2.5で3.6±1.0N,油圧4で3.3±0.9Nであり,13名中10名において油圧抵抗値の高さに応じて有意に減少した。その10名と残り3名とで底屈トルクの平均値を比較すると,油圧1および4の場合は10名の平均値が有意に大きかった。油圧2.5では差を認めなかった。
【考察】GSの機構により,大腿カフが下肢を前方へ押し出す力が生じ,その力は油圧抵抗値に応じて大きくなることがわかった。そのため,GS付KAFOを使用した介助歩行において骨盤帯を前方へ推進させるには,油圧抵抗が小さいほどより大きな力の介助が必要であり,油圧抵抗が大きいほど軽微な力で充足すると考えられた。ただし,姿勢制御能力の不十分な片麻痺者においては,大腿部が強く押し出されることが歩行の困難さに繋がる危険性もある。よって油圧抵抗値の適応は,歩容の観察等も含め総合的に判断する必要がある。油圧抵抗値の設定により,必要な徒手的介助の量が変わり得ることを認識した上で,装具が発揮する機能を生かし,それをさらに強調したり不十分な部分を補ったりする介助を加えることが重要である。
【理学療法学研究としての意義】足継手を含めた装具の特性,歩行に及ぼす影響を明らかにすることが,必要な徒手的介助の量や内容について検討する材料となり得る。装具と徒手的介助を融合させることがより効果的な運動療法の展開に繋がる可能性を有している。