[0092] 脳卒中後片麻痺者に対する長下肢装具歩行介助時の定量的評価と考察
Keywords:片麻痺, 長下肢装具, Gait Judge System
【はじめに,目的】
当院は脳卒中後片麻痺者に対して早期から長下肢装具(以下KAFO)歩行介入を実施している。Perryが提唱するロッカーファンクションの実現を念頭に,足継手はGait Solution(以下GS)継手を多用している。KAFO歩行介入時は,歩行中の膝ロックによる下肢モーメントアーム延長の利点を股・足関節可動に得ること,随意筋力より高い筋活動を歩行場面で得ること,ヒール・アンクルロッカーによる荷重応答期から立脚中期の重心前上方移動の運動学習を促すことを念頭に置いている。しかし,これらは適切な介助歩行が前提となる。そこで,片麻痺者KAFO歩行介助時の足関節運動を定量的に評価し,健常者のKAFO歩行と比較検討し,片麻痺者のKAFO歩行介助時の特徴を考察することで,KAFO歩行介入の理論を実践するための要点を得ることを目的として本研究を行った。
【方法】
対象は健常者4名(男性2名,女性2名,平均年齢27.3±7.9歳)および,当院回復期病棟入院中でGS足継手付きKAFOを使用した介助歩行を実施する脳卒中後片麻痺者9名とした(男性6名,女性3名,平均年齢70.6±12.94歳,下肢Brunnstrom Recovery StageII3名,III2名,IV4名)。
健常者群(以下:健常群),片麻痺者群(以下:片麻痺群)の二群に分け,10m歩行路にてKAFO装着下での歩行速度と足関節運動を計測し比較検討した。KAFO設定は,健常者群GS油圧2.0快適独歩,片麻痺者群は歩容観察において適切と判断した油圧(3.0~2.0)設定にて担当理学療法士による介助歩行を条件とした。簡易歩行分析システム(Gait Judge System:川村義肢株式会社製)を用い,歩行中の足関節角度と加速度の計測および同期した動画を撮影した。得られた加速度の値と動画から連続する3歩行周期を任意に抽出し,平均値の算出および縦軸を角度,横軸を歩行周期(%)として足関節可動範囲と歩行時期を波形化し分析した。測定項目は,①10m歩行速度(秒),②荷重応答期の足関節最大底屈角度(以下:LR底屈),③立脚中期の足関節中間位時期(以下:MS時期%),④立脚後期の足関節最大背屈角度(以下:TS背屈),⑤足関節可動範囲(以下:可動範囲)の5項目とした。二群間比較はMann-WhitneyのU検定(p<0.05)を行い,片麻痺者群のみ5項目についてSpearmanの順位相関係数検定(p<0.05)を用いて比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。
【結果】
二群間比較より,①10m歩行速度(健常群8.20±1.4秒,片麻痺群17.7±3.6秒)において有意に健常群の歩行速度が速い結果を示した(p<0.05)。その他の項目には有意差を認めなかった。②LR底屈,④TS背屈,⑤可動範囲の3項目は,各々健常群(8.0±3.1度,2.3±5.7度,10.3±5.0度),片麻痺群(6.4±4.8度,3.5±4.1度,9.9±6.1度)であった。③MS時期(%)は,健常群34.7±9.3%,片麻痺群41.4±9.3%であった。片麻痺群における項目間の相関関係は,LR底屈と可動範囲(rs=0.71)に正の相関,MS時期(%)とTS背屈(rs=-0.80)に負の有意な相関を認めた(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果と正常歩行(Perry.2007)を照合すると,GS付きKAFO歩行においてLR期の足関節底屈角度は両群とも正常歩行時の底屈7度と近似した値となり,ヒールロッカー機能は実現可能であると考えられた。しかし,次のMS時期は正常歩行では20%の時点で足関節中間位をとるが,両群ともMS時期(%)は遅延していた。また,TS期の正常歩行時の背屈角度は10°に達するが,両群ともTS背屈角度が不十分であった。歩行時の足関節の可動範囲は正常歩行の約30±10度に満たないことが分かった。MS時期の遅延はKAFO膝ロックによりLR期の衝撃吸収が行えず,次のMS期アンクルロッカーファンクション(Perry.2007)を阻害していることが要因と考える。結果,MS時期(%)とTS背屈角度の負の相関に関連したと推察する。
歩行効率の視点では,健常者はKAFO歩行時のMS時期(%)遅延による重心前上方移動低下に対して,歩行速度で対応していると考える。
本研究より得られた片麻痺者へのKAFO歩行介入時の要点は,健常群の歩行速度でもMS時期は遅延することを念頭に,KAFO膝ロックによるLR期の後方重心への対策と,MS時期への早期到達,TS期の十分な足背屈角度の有無を考慮することである。
【理学療法学研究としての意義】
健常者との比較を基に,脳卒中後片麻痺者に対するKAFO歩行介入を定量的に評価し,ロッカーファンクションを考慮した歩行介助の現状と改善点を示した。KAFO使用のエビデンス構築に寄与する事は重要と考える。
当院は脳卒中後片麻痺者に対して早期から長下肢装具(以下KAFO)歩行介入を実施している。Perryが提唱するロッカーファンクションの実現を念頭に,足継手はGait Solution(以下GS)継手を多用している。KAFO歩行介入時は,歩行中の膝ロックによる下肢モーメントアーム延長の利点を股・足関節可動に得ること,随意筋力より高い筋活動を歩行場面で得ること,ヒール・アンクルロッカーによる荷重応答期から立脚中期の重心前上方移動の運動学習を促すことを念頭に置いている。しかし,これらは適切な介助歩行が前提となる。そこで,片麻痺者KAFO歩行介助時の足関節運動を定量的に評価し,健常者のKAFO歩行と比較検討し,片麻痺者のKAFO歩行介助時の特徴を考察することで,KAFO歩行介入の理論を実践するための要点を得ることを目的として本研究を行った。
【方法】
対象は健常者4名(男性2名,女性2名,平均年齢27.3±7.9歳)および,当院回復期病棟入院中でGS足継手付きKAFOを使用した介助歩行を実施する脳卒中後片麻痺者9名とした(男性6名,女性3名,平均年齢70.6±12.94歳,下肢Brunnstrom Recovery StageII3名,III2名,IV4名)。
健常者群(以下:健常群),片麻痺者群(以下:片麻痺群)の二群に分け,10m歩行路にてKAFO装着下での歩行速度と足関節運動を計測し比較検討した。KAFO設定は,健常者群GS油圧2.0快適独歩,片麻痺者群は歩容観察において適切と判断した油圧(3.0~2.0)設定にて担当理学療法士による介助歩行を条件とした。簡易歩行分析システム(Gait Judge System:川村義肢株式会社製)を用い,歩行中の足関節角度と加速度の計測および同期した動画を撮影した。得られた加速度の値と動画から連続する3歩行周期を任意に抽出し,平均値の算出および縦軸を角度,横軸を歩行周期(%)として足関節可動範囲と歩行時期を波形化し分析した。測定項目は,①10m歩行速度(秒),②荷重応答期の足関節最大底屈角度(以下:LR底屈),③立脚中期の足関節中間位時期(以下:MS時期%),④立脚後期の足関節最大背屈角度(以下:TS背屈),⑤足関節可動範囲(以下:可動範囲)の5項目とした。二群間比較はMann-WhitneyのU検定(p<0.05)を行い,片麻痺者群のみ5項目についてSpearmanの順位相関係数検定(p<0.05)を用いて比較検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。
【結果】
二群間比較より,①10m歩行速度(健常群8.20±1.4秒,片麻痺群17.7±3.6秒)において有意に健常群の歩行速度が速い結果を示した(p<0.05)。その他の項目には有意差を認めなかった。②LR底屈,④TS背屈,⑤可動範囲の3項目は,各々健常群(8.0±3.1度,2.3±5.7度,10.3±5.0度),片麻痺群(6.4±4.8度,3.5±4.1度,9.9±6.1度)であった。③MS時期(%)は,健常群34.7±9.3%,片麻痺群41.4±9.3%であった。片麻痺群における項目間の相関関係は,LR底屈と可動範囲(rs=0.71)に正の相関,MS時期(%)とTS背屈(rs=-0.80)に負の有意な相関を認めた(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果と正常歩行(Perry.2007)を照合すると,GS付きKAFO歩行においてLR期の足関節底屈角度は両群とも正常歩行時の底屈7度と近似した値となり,ヒールロッカー機能は実現可能であると考えられた。しかし,次のMS時期は正常歩行では20%の時点で足関節中間位をとるが,両群ともMS時期(%)は遅延していた。また,TS期の正常歩行時の背屈角度は10°に達するが,両群ともTS背屈角度が不十分であった。歩行時の足関節の可動範囲は正常歩行の約30±10度に満たないことが分かった。MS時期の遅延はKAFO膝ロックによりLR期の衝撃吸収が行えず,次のMS期アンクルロッカーファンクション(Perry.2007)を阻害していることが要因と考える。結果,MS時期(%)とTS背屈角度の負の相関に関連したと推察する。
歩行効率の視点では,健常者はKAFO歩行時のMS時期(%)遅延による重心前上方移動低下に対して,歩行速度で対応していると考える。
本研究より得られた片麻痺者へのKAFO歩行介入時の要点は,健常群の歩行速度でもMS時期は遅延することを念頭に,KAFO膝ロックによるLR期の後方重心への対策と,MS時期への早期到達,TS期の十分な足背屈角度の有無を考慮することである。
【理学療法学研究としての意義】
健常者との比較を基に,脳卒中後片麻痺者に対するKAFO歩行介入を定量的に評価し,ロッカーファンクションを考慮した歩行介助の現状と改善点を示した。KAFO使用のエビデンス構築に寄与する事は重要と考える。