第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法2

Fri. May 30, 2014 10:50 AM - 11:40 AM ポスター会場 (神経)

座長:笠原剛敏(日本私立学校振興共済事業団東京臨海病院リハビリテーション室)

神経 ポスター

[0095] 重症心身障害者の骨盤変形に対する評価

寺尾貴史, 古谷育子, 平井二郎 (独立行政法人国立病院機構兵庫青野原病院リハビリテーション科)

Keywords:骨盤, 変形, 評価

【はじめに,目的】
重症心身障害者(重症者)は四肢拘縮,脊柱側彎など身体的変形の発生頻度が高く,それらの状態に対してさまざまな評価が試みられている。しかし骨盤に対して変形の指標となる評価方法は少なく視診あるいは触診での主観的評価であることが多い。今回骨盤変形に対して体表面からの計測および評価を試みたので報告する。
【方法】
対象は当院に入院する重症者42名(男性22名,女性20名)。運動機能は全員実用的な寝返りが不可能なレベル。骨盤の長さの計測にはブライスキー骨盤計(アトムメディカル社製)を使用し,骨盤の評価は産婦人科検査法の骨盤外計測を基準として被検者の骨盤計測を試みた。骨盤外計測法とは皮膚の上から骨盤の一部分を触知し,その2点間の直線距離を測定するものである。この方法を基準にして【1】左右の上前腸骨棘の距離(前棘間径)【2】左上前腸骨棘と右上後腸骨棘との距離(第1外斜径),逆は第2外斜径【3】一側の上前腸骨棘から同側の上後腸骨棘までの距離(側結合線)【4】左右の上後腸骨棘の距離(後棘間径)を計測した。測定方法は各骨棘上の皮膚にペンでランドマークし,その部位に骨盤計を当てて測定を行った。測定姿位は前棘間経の測定では背臥位とし外斜経,側結合線,後棘間経の測定では側臥位とした。
上記の方法で得た【1】~【2】の測定値から骨盤の開き,骨盤の幅,左右のねじれの角度を算出した。算出方法は測定部位である各骨棘を右上前腸骨棘(A),左上前腸骨棘(B),右上後腸骨棘(C),左上後腸骨棘(D)としAB間の辺を(l),AD間を(m),BC間を(n),CD間を(o),AC間を(p),BD間を(q)とした。測定値l~qの6辺の長さ(四面体の辺長)より余弦定理を用いて左右の骨盤の開き(∠ACD,∠BDC)を求めた。骨盤の幅はCからABへの垂線CEを右幅としDからABへ垂線DFの長さを左幅とした。また骨盤のねじれは平面ABDと平面ABCの角度を求め2つの平面の間の角度を余弦定理を用いてねじれの角度θとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
評価は臨床業務の中で行い,今回の学会発表のための臨床データの使用に関しては養育者に説明を行い同意を得た。
【結果】
骨盤の開きを左右対称とした場合の左右の開きの角度差を0°とした時に,24名の骨盤の開きには21±11°の左右差が認められた。骨盤の幅は42名の平均で右幅11±1.2cm左幅は11±1.1cmとなり,5名で骨盤の幅に1.4±0.3cmの左右差が認められた。ねじれの角度は28名の平均が12±5°となった。残りの14名のねじれの角度は計算が不可能であった。
【考察】
測定結果から骨盤の開きでは一側の骨盤の開きの角度より他方の骨盤の開きの角度が減少または増加した角度となった重症者が半数以上にみられ,左右の骨盤形状に変形が見られると推測できた。また左右の骨盤の幅はあまり差が見られなかったが,側結合線の長さが一般成人より重症者の方が短い症例が多く腸骨自体の発達が不十分であると考えられた。骨盤ねじれの角度については,仙腸関節の関節変形,腸骨の未発達などにより左右の腸骨にねじれの変形が生じたと推測できるが,この角度計算については計算式に代入してもエラーになる症例がみられた。これは,測定姿位を測定部位によって体位を変える時に体表面のランドマークが皮膚の動きによりズレが生じることにより,距離の誤差が出てしまい計算に必要な長さが不足することで,エラーとなった可能性が高いと推測された。このことから測定の正確さを検討する必要があると考える。上記の考察から骨盤変形の形状は左右差型とねじれ型などに分類して,客観的な骨盤変形の情報を共有できる可能性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
山口らは骨盤は姿勢の要であり,座位時にはまず骨盤を床と並行に位置させることが姿勢づくりの基本であると述べており骨盤自体が変形している場合の対応を含めて評価していくことは重要であると考える。骨盤変形に対して計測および評価を行うことは今後の姿勢づくりに,新たな方法を生み出す一つの材料になると考える。