第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

人体構造・機能情報学2

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM 第4会場 (3F 302)

座長:坂本美喜(北里大学医療衛生学部理学療法学専攻)

基礎 口述

[0103] トレッドミル運動介入が老化促進マウスの心筋に与える影響について

松田史代, 榊間春利, 米和徳 (鹿児島大学医学部保健学科)

Keywords:老化促進マウス, トレッドミル運動, 心筋

【はじめに,目的】
近年,高齢者化社会を迎える中で,健康やQOLの維持・向上を目的として,習慣的な運動(その中でも,中高年以降の継続したウォーキングやジョギング習慣)が注目されている。運動は,心筋・骨格筋の機能,形態,代謝を亢進・変化させ,身体に好影響を及ぼすことが知られている。しかし,対象年齢や運動方法,運動頻度や運動負荷等さまざまで見解は未だ定まっていないのが現状である。これまでに我々は,正常マウスに比べ,老化の進行が速く,平均寿命が約40%低下している老化促進マウス(senescence-accelerated mouse:SAM)を使用し,壮・老年期の運動が身体にどのような影響を与えるのか研究してきている。今回は,壮・老年期の習慣的な(継続的な)トレッドミル運動が,心筋にどのような影響を及ぼすのか形態学的に検討した。
【方法】
実験動物として,雄のSAMP1を計40匹使用した。先行研究より,老化に関連した骨格筋変化が起こる50週齢を老化が起こり始める基準とし,50週齢からトレッドミル走行を行った。1日1回のトレッドミル運動を実施する低頻度運動(LRP)群,1日2回(疲労等の影響を考慮し,1回目の運動から最低6時間以上間隔をあけ2回目の運動を実施した)トレッドミル運動を実施する高頻度運動(HRP)群に無作為に動物を分け,トレッドミル運動は,13m/min,20分間を週6回,連続8週間行った。50週齢群,58週齢群,HRP群,LRP群(各10匹)の1時間の活動量,体重,心重量を計測した。心重量計測後,心臓は4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(pH 7.4)で一晩浸漬固定し,パラフィン包埋器にてパラフィンブロックを作成した。その後5μmの縦断切片を作成し,ヘマトキシリン・エオジン(以下HE)染色,および抗Interleukin6(IL-6)抗体,抗Tumor Necrosis Factor alpha(TNF-α)抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。発現面積はScion image softwareを使用し定量を行った。統計学的検定には一元配置分散分析を用い,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て実施した。
【結果】
各群の1時間のマウスの活動量は,50週齢群とHRP群,LRP群において有意差はみられず,活動量の低下はみられなかったが,58週齢群は他群と比較し有意に活動量の減少がみられた。体重や心重量は各群間で有為な差はみられなかった。HE染色の結果,特異的な炎症所見等は観察されなかった。また,各群の左心室壁と右心室壁の厚さを定量したが,心壁の厚さに有意差はみられなかった。抗IL-6,抗TNF-α免疫組織化学染色の結果,58週齢群は染色性が他の群と比較し,心筋組織自体に強く発現が認められた。定量の結果,両染色ともに58週齢群は,50週齢群とHRP群,LRP群に比較して有意に発現面積割合が多かった。50週齢群とHRP群,LRP群間に有意差はみられなかった。
【考察】
老化に伴い身体の活動能力が低下することはよく知られている。今回行った実験でも同様の見解が得られた。しかし,定期的な運動介入を行うことで,マウスの運動量は増加し,活動性の低下は抑制することができたことが確認できた。体重や心重量,心壁の厚さに関しては有為な差はみられなかったが,炎症性サイトカインのマーカーのひとつであるIL-6,TNF-αが老化により心筋でより強発現するが,運動介入を行うことで抑制されることが今回の結果よりわかった。これらの結果より,ダイナミックな形態学的な変化は8週間の定期的な運動介入では観察されなかったが,心筋の筋細胞の炎症性サイトカインの発現を抑制できることは示唆された。これらのことは,継続的な運動介入が老化促進を予防できる可能性を秘めている。
【理学療法学研究としての意義】
近年,介護予防・予防医学の分野に理学療法士が介入する事例が多くなってきている。ヒトの研究では,壮・高齢者は様々な疾患を有しており,コントロールスタディ確立が困難である。今回の研究では,確立した老化モデルマウスを使用し,老化による活動量の低下や心筋における炎症性サイトカインの発現の影響を検討できたこと,また,壮・高齢期から定期的な運動介入を行うことによって老化による上記の低下を抑制できる可能性が示唆されたことは,理学療法士が壮・高齢者の運動療法介入効果について,さまざまな方面から検討する上で重要な情報であり,理学療法のエビデンス確立につながると考える。