[0106] 低温サウナ治療が5/6腎摘除モデルマウスの尿タンパクを抑制する可能性
Keywords:慢性腎臓病, 温熱刺激, 尿タンパク
【目的】
血管内皮機能の障害は腎不全の早い段階から生じ,腎不全の進展要因として既に知られている。我々は5/6腎摘除マウス(C57BL/6)に対して低温サウナ治療を行うことで,腎での内皮型一酸化窒素合成酵素のメッセンジャーRNAが有意に増加することを報告した。この結果から,腎不全に対する低温サウナ治療は,腎の血管内皮機能を改善し腎不全進展を抑えられる可能性が推察された。しかし,レニンアンギオテンシン系の反応が弱いマウス系であったため,血圧や尿タンパクを観察するには適していなかった。今回は,マウス系を変更し,同様の実験を行い,尿タンパク排泄の抑制効果を観察することを目的とした。
【方法】
24匹の129X1/SvJJmsSlcマウスを対照(Sh)群(n=5),対照+サウナ治療(Sh-S)群(n=5),5/6腎摘除(Nx)群(n=7),5/6腎摘除+サウナ治療(Nx-S)群(n=7)に分けた。Nxマウスは,モデル完成時(0週)の血清クレアチニンが均等になるようにNx群とNx-S群に分けた。エンドポイントはモデル完成から12週とし,4週毎に体重,水分摂取量,24時間尿量,尿アルブミン,収縮期血圧を測定した。採血を0週と12週に行い,血清クレアチニン,クレアチニンクリアランス,ヘマトクリットを測定した。サウナ治療は,電熱式加温装置を用い,39℃12分間の加温,その後35℃20分間保温を週5日実施した。
本研究は,所属大学の動物実験委員会の承認を受けて実施された。
【結果】
エンドポイントの一般パラメーターにおいて,NxマウスはShマウスに比して,有意な体重減少,水分摂取量および尿量の増加が認められた。Nx群とNx-S群の群間にこれらのパラメーターにおいて有意差は認められなかった。Shマウスに対しNxマウスの収縮期血圧は有意な高値を認めたが,Nx群(158±9mmHg),Nx-S群(162±10mmHg)の12週の収縮期血圧に有意差は認められなかった。12週のサウナ治療後の血清クレアチニンにおいて,Nx群(0.3±0.13mg/dL)およびNx-S群(0.3±0.05mg/dL)は,Sh群(0.1±0.02mg/dL)に比して有意な高値を示した(P<0.05)。Nx群とNx-S群に有意差は認められなかった。クレアチニンクリアランスにおいては,Nx群(5.7±2.3mL/min/kg)およびNx-S群(6.4±1.5mL/min/kg)は,Sh群(11.3±3.7 mL/min/kg)に比して有意に低下した(P<0.05)。Nx群とNx-S群に有意差は認められなかった。尿中アルブミン排泄は,0週から12週にかけてNx群にみられた増加傾向に対して,サウナ治療を実施したNx-S群では抑制される傾向が示された。しかし,12週時のNx群とNx-S群の比較において,有意差を認めることができなかった(Nx群:0.8±0.9mg/Cr,Nx-S群:0.3±0.2mg/Cr)。サウナ治療による脱水の影響を検討するため,ヘマトクリットを測定した。Nx群(45±7%)およびNx-S群(46±3%)はSh群(53±2%)に比して有意な低値を示した(P<0.05)。Nx群とNx-S群の間に有意差は認められなかった。
【考察】
過去に腎不全患者にサウナやホットバスを行い,発汗作用を利用して尿毒物質や電解質の排泄を促す試みがあった。しかし,時間や熱強度などどれも現実的ではなく,腎不全の治療に温熱を適用しようという試みは途絶えていた。今回,我々は心不全の治療として確立された方法を元に5/6腎摘除モデルマウスを対象に低温サウナ治療を試みた。尿タンパクの結果として,統計学的有意差はつかなかったものの低温サウナ治療によって尿タンパクが抑制される傾向が示された。作用機序は,血圧低下や糸球体濾過率の低下によるものではないと考えられた。作用機序の解明は今後の課題である。
サウナによる脱水の影響については,Nx群とNx-S群のヘマトクリット値に差がなかったことから問題はなかったと考えられた。Sh群に比してNxマウスで低値を示したのは,腎障害に伴うエリスロポエチン分泌機能低下の影響が推察される。
【理学療法学研究としての意義】
尿タンパクは,腎障害の重症度を反映するプライマリーな指標である。温熱治療によって,これが抑制される傾向が示された。
現在の腎臓リハビリテーションは,運動療法を主に効果が検証されている。しかし,そこには運動が可能であるという前提がある。温熱治療はその前提を必要としないことから,これまで不適応とされた症例にも適応を広げられる。我々の行った研究は,その可能性を示唆しており,何より腎不全に対する非薬物療法の確立に寄与する大変意義深い研究だと考えている。
血管内皮機能の障害は腎不全の早い段階から生じ,腎不全の進展要因として既に知られている。我々は5/6腎摘除マウス(C57BL/6)に対して低温サウナ治療を行うことで,腎での内皮型一酸化窒素合成酵素のメッセンジャーRNAが有意に増加することを報告した。この結果から,腎不全に対する低温サウナ治療は,腎の血管内皮機能を改善し腎不全進展を抑えられる可能性が推察された。しかし,レニンアンギオテンシン系の反応が弱いマウス系であったため,血圧や尿タンパクを観察するには適していなかった。今回は,マウス系を変更し,同様の実験を行い,尿タンパク排泄の抑制効果を観察することを目的とした。
【方法】
24匹の129X1/SvJJmsSlcマウスを対照(Sh)群(n=5),対照+サウナ治療(Sh-S)群(n=5),5/6腎摘除(Nx)群(n=7),5/6腎摘除+サウナ治療(Nx-S)群(n=7)に分けた。Nxマウスは,モデル完成時(0週)の血清クレアチニンが均等になるようにNx群とNx-S群に分けた。エンドポイントはモデル完成から12週とし,4週毎に体重,水分摂取量,24時間尿量,尿アルブミン,収縮期血圧を測定した。採血を0週と12週に行い,血清クレアチニン,クレアチニンクリアランス,ヘマトクリットを測定した。サウナ治療は,電熱式加温装置を用い,39℃12分間の加温,その後35℃20分間保温を週5日実施した。
本研究は,所属大学の動物実験委員会の承認を受けて実施された。
【結果】
エンドポイントの一般パラメーターにおいて,NxマウスはShマウスに比して,有意な体重減少,水分摂取量および尿量の増加が認められた。Nx群とNx-S群の群間にこれらのパラメーターにおいて有意差は認められなかった。Shマウスに対しNxマウスの収縮期血圧は有意な高値を認めたが,Nx群(158±9mmHg),Nx-S群(162±10mmHg)の12週の収縮期血圧に有意差は認められなかった。12週のサウナ治療後の血清クレアチニンにおいて,Nx群(0.3±0.13mg/dL)およびNx-S群(0.3±0.05mg/dL)は,Sh群(0.1±0.02mg/dL)に比して有意な高値を示した(P<0.05)。Nx群とNx-S群に有意差は認められなかった。クレアチニンクリアランスにおいては,Nx群(5.7±2.3mL/min/kg)およびNx-S群(6.4±1.5mL/min/kg)は,Sh群(11.3±3.7 mL/min/kg)に比して有意に低下した(P<0.05)。Nx群とNx-S群に有意差は認められなかった。尿中アルブミン排泄は,0週から12週にかけてNx群にみられた増加傾向に対して,サウナ治療を実施したNx-S群では抑制される傾向が示された。しかし,12週時のNx群とNx-S群の比較において,有意差を認めることができなかった(Nx群:0.8±0.9mg/Cr,Nx-S群:0.3±0.2mg/Cr)。サウナ治療による脱水の影響を検討するため,ヘマトクリットを測定した。Nx群(45±7%)およびNx-S群(46±3%)はSh群(53±2%)に比して有意な低値を示した(P<0.05)。Nx群とNx-S群の間に有意差は認められなかった。
【考察】
過去に腎不全患者にサウナやホットバスを行い,発汗作用を利用して尿毒物質や電解質の排泄を促す試みがあった。しかし,時間や熱強度などどれも現実的ではなく,腎不全の治療に温熱を適用しようという試みは途絶えていた。今回,我々は心不全の治療として確立された方法を元に5/6腎摘除モデルマウスを対象に低温サウナ治療を試みた。尿タンパクの結果として,統計学的有意差はつかなかったものの低温サウナ治療によって尿タンパクが抑制される傾向が示された。作用機序は,血圧低下や糸球体濾過率の低下によるものではないと考えられた。作用機序の解明は今後の課題である。
サウナによる脱水の影響については,Nx群とNx-S群のヘマトクリット値に差がなかったことから問題はなかったと考えられた。Sh群に比してNxマウスで低値を示したのは,腎障害に伴うエリスロポエチン分泌機能低下の影響が推察される。
【理学療法学研究としての意義】
尿タンパクは,腎障害の重症度を反映するプライマリーな指標である。温熱治療によって,これが抑制される傾向が示された。
現在の腎臓リハビリテーションは,運動療法を主に効果が検証されている。しかし,そこには運動が可能であるという前提がある。温熱治療はその前提を必要としないことから,これまで不適応とされた症例にも適応を広げられる。我々の行った研究は,その可能性を示唆しており,何より腎不全に対する非薬物療法の確立に寄与する大変意義深い研究だと考えている。