第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

呼吸2

2014年5月30日(金) 11:45 〜 12:35 第5会場 (3F 303)

座長:横山仁志(聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部)

内部障害 口述

[0108] 健常人に対する呼吸介助は肺内ガス圧縮現象を発生させるか?

松下和弘1, 野添匡史1, 髙山雄介1, 間瀬教史2, 高嶋幸恵2, 和田智弘1, 眞渕敏3, 松浦尊磨2, 内山侑紀4, 福田能啓4, 道免和久5 (1.兵庫医科大学ささやま医療センター, 2.甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科, 3.兵庫医科大学病院リハビリテーション部, 4.兵庫医科大学地域総合医療学, 5.兵庫医科大学リハビリテーション医学教室)

キーワード:呼吸介助, chest wall体積, 肺内ガス圧縮

【はじめに,目的】呼吸介助は患者の胸郭を呼気に合わせて徒手で圧迫し,その際の胸腔内圧の変化により換気量の改善を図る手技である。しかし,この際の胸腔内圧の変化は,患者の病態によっては気道閉塞を悪化させ,肺内ガス圧縮現象を招く可能性がある。肺内ガス圧縮現象は努力呼気に伴って肺内のガスが圧縮され,結果的にスパイロメーターで算出された呼気量と比べて肺容量変化が大きくなる状態であり,気管支喘息やCOPDといった閉塞性換気障害を呈する患者で生じやすいといわれている。従来,肺内ガス圧縮現象はスパイロメーターとボディプレスチモグラフを用いて得られた気量差から算出されていたが,その機器の構造上,測定肢位は限られていた。しかし,3次元動作解析システムを用いて測定できるChest wall体積の変化は,スパイロメーターで得られる結果よりも肺容量そのものの変化を反映しており,スパイロメーターで得られる呼気量とChest wall体積変化量との差を測定することで,肺内ガス圧縮現象の検出が可能と考えられている(Cala,1996)。本研究の目的は,健常人における呼吸介助中のChest wall体積と呼気量及び胸腔内圧変化を測定し,呼吸介助に伴う肺内ガス圧縮現象の発生有無について検討することである。
【方法】呼吸介助を行う術者は呼吸理学療法経験8年の男性理学療法士1名,被験者は健常男性5名(年齢33.6±8.1歳)とした。測定は,背臥位にて上部胸郭に対する呼吸介助を2分間行った後,同程度の一回換気量,呼吸数,呼吸リズム,肺気量位での呼吸(調節呼吸)を2分間行わせた。呼吸介助は各対象者が不快感を伴わない最大の強度で,呼気開始時から吸気開始直前まで行った。調節呼吸は熱線流量計(ミナト医科学社製AE300-s)を用いて肺気量位変化(VSP)を経時的に測定し,その変化を対象者に視覚的に確認させながら行わせた。Chest wall体積(Vcw)およびこれを分画した上部胸郭体積(VRcp),下部胸郭体積(VRca),腹部体積(Vab)は,被術者の体表面に62個の反射マーカーを貼り付け,8台の赤外線カメラからなる3次元動作解析システム(Motion Analysis社製Mac3Dsystem)を用いて得られた経時的な座標変化から算出した。同時にバルーン(外径2.5mm,内径1.5mmのポリエチレンチューブに長さ12cmのバルーンを付けたもの)を食道内に挿入し,胸腔内圧(Pes)の測定も行った。解析は調節呼吸時及び呼吸介助時の各3~5呼吸を抽出し,それらの呼吸中の終末吸気位と終末呼気位のVcw,VRcp,VRca,Vab,VSP,Pes,および終末吸気位と終末呼気位の差である⊿Vcw,⊿VRcp,⊿VRca,⊿Vab,⊿VSP,⊿Pesを算出して行った。さらにここで得られた⊿VSPと⊿VCWの差及びこの差の比率((⊿VSP-⊿VCW)/⊿VSP×100)を算出した。統計学的検定として調節呼吸時と呼吸介助時の各指標の変化を対応のあるt-検定を用いて行い,有意水準はp<0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者全員に本研究の方法,目的を説明し,書面による同意書を得た。また本研究は兵庫医科大学倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】調節呼吸時と比べ呼吸介助時は終末呼気Pesが有意に増加し(1.4±4.9cmH2O:3.1±5.4cmH2O=調節呼吸時:呼吸介助時,p<0.01),VRCp(12.93±0.76l:12.38±0.67l,p<0.05),VRCa(4.23±0.92l:4.11±0.87l,p<0.05)が減少することで,VCWも有意に減少していたが(23.24±1.95l:22.66±2.00l,p<0.05),終末吸気位については各指標で有意な差はなかった。調節呼吸時の⊿VSPは呼吸介助時と差はなかったが(1.58±0.53l:1.57±0.58l),⊿VCWは呼吸介助時に有意に高値を示し(1.53±0.61l:1.96±0.62l,p<0.05),結果的に⊿VSPと⊿VCWの差(0.05l±0.26l:-0.39l±0.13l,p<0.01)および,その比率(4.3±13.8%:-27±9.6%,p<0.01)で有意に増加した。また,⊿VRcp(0.58±0.46l:1.05±0.46l,p<0.05),⊿VRca(0.35±0.17l:0.48±0.14l,p<0.05)は呼吸介助時に有意に増加し,⊿Vabは呼吸介助時に有意に減少した(0.60±0.11l:0.43±0.13l,p<0.05)。
【考察】調節呼吸時と比べて呼吸介助時には呼気終末の胸腔内圧は増加し,⊿VCWと⊿VSPの差は大きくなったことからも,健常人においても呼吸介助によって肺内ガス圧縮現象が生じている可能性が考えられた。胸腔内圧変化は呼吸介助の圧迫強度や体位によっても変化する可能性があり,患者の病態によっては呼吸介助施行時にはこのような介入の調整を行う必要があると考えられた。
【理学療法研究としての意義】本研究結果は,適切な呼吸介助を施行するための一助になると考えられた。