[0116] 末期変形性膝関節症患者における生活空間に影響を及ぼす因子の検討
Keywords:変形性膝関節症, 生活空間, 環境要因
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(膝OA)患者は健常高齢者に比べ身体活動量が少ないことが報告されている。膝OA患者に対して身体活動量を増加させることは痛みの軽減や筋力改善だけでなく,健康面,健康関連Quality of Lifeの向上などの効果も有することから極めて重要である。地域高齢者においては運動機能や運動に関連した自信,自宅周辺環境などが身体活動量に関連していることが報告されているが,膝OA患者において身体活動量を規定する要因を多角的に検討した報告はない。本研究では,特に生活空間が狭小化していると考えられる末期の膝OA患者において,身体活動量を反映すると報告されている生活空間に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象は膝OAを原因疾患として当院へ外来通院中である末期膝OA患者106名(男性17名,女性89名,年齢73.3±7.7歳,身長151.4±8.3cm,体重60.1±8.6kg,Body mass index(BMI)26.3±3.2kg/m2)とした。対象者の居住地区は都市部であり,外出時に杖を使用している者が40名,シルバーカーを使用している者が4名,歩行補助具を使用していない者が62名であった。Kellgren-Lawrence分類による重症度評価では,両側gradeIVが72名,片側gradeIVで反対側gradeIIIが23名,反対側gradeIIが5名,反対側gradeIが6名であった。なお,重症度の高い側を患側,低い側を健側と定義し,両側gradeIVであった場合は疼痛の強い側を患側,弱い側を健側と定義した。除外基準は反対側膝関節および他関節に既に人工関節置換術を施行している者,神経学的疾患など歩行能力に影響を及ぼす他の疾患を有している者とした。
生活空間の評価にはLife Space Assessment(LSA)を,外出に対する自信の評価にはVisual Analogue Scaleを用いた。自宅周囲の環境要因の調査には国際標準化身体活動質問紙環境尺度の日本語版(IPAQ-E)を用い,基本項目7問および推奨項目4問,オプション項目3問(十字路や交差点の有無,歩道の整備,歩いていける目的地)の計14問の質問を行い,基本項目の住居密度のみ5つの選択肢から1つを,残りの項目は4つの選択肢から1つを選択する形式とした。さらに運動機能評価として,膝関節可動域,膝関節伸展筋力,10m歩行時間および歩行時痛,Timed Up & Go test(TUG)の計測を行った。単変量解析として,Pearsonの相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用いLSAと他の項目の相関関係を検討した。次に多変量解析としてLSAを従属変数とし,単変量解析の結果LSAと有意な相関関係を認めた項目を独立変数に投入したステップワイズ重回帰分析を行った。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者に本研究の趣旨と内容,データの利用に関する説明を行い,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画され,当院倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
単変量解析の結果,LSAと年齢,外出に対する自信,健側膝関節屈曲可動域,患側および健側膝関節伸展筋力,10m歩行時間,歩行時痛,TUGと有意な相関関係を認めた。また,LSAはIPAQ-Eの住居密度,スーパーや商店,バス停や駅,近隣の歩道,近隣で見かける運動実施者,歩道の整備,歩いていける目的地の質問項目と有意な相関関係を認めた。
LSAを従属変数に投入した重回帰分析の結果,有意な関連要因として抽出された因子はTUG,外出に対する自信,歩道の整備であり,自由度調整済み決定変数は0.603であった。
【考察】
本研究の結果から末期膝OA患者の生活空間には移動能力や外出に対する自信,近隣の歩道の整備が関与していることが明らかとなった。高齢者において生活空間と移動能力が関連していることはこれまでに明らかとなっているが,運動機能の向上だけでは身体活動量の向上には至らないことも報告されており,運動機能だけではなく外出に対する自信も重要であると考えられる。また,近年では運動機能などの個人要因だけでなく,地区の環境が身体活動量に影響を与えていることも注目されており,特に膝OA患者では健常者よりも移動能力が低下しているため,歩道の整備など環境要因がより重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
生活空間は身体活動や社会への参加を反映した,生活に重要な要素であるにもかかわらず,これまでに膝OA患者の生活空間に影響を及ぼす因子を包括的に検討した報告はなかった。本研究で得られた知見は膝OA患者の生活空間拡大やQOL向上に有用であり,意義深い研究であると考える。
変形性膝関節症(膝OA)患者は健常高齢者に比べ身体活動量が少ないことが報告されている。膝OA患者に対して身体活動量を増加させることは痛みの軽減や筋力改善だけでなく,健康面,健康関連Quality of Lifeの向上などの効果も有することから極めて重要である。地域高齢者においては運動機能や運動に関連した自信,自宅周辺環境などが身体活動量に関連していることが報告されているが,膝OA患者において身体活動量を規定する要因を多角的に検討した報告はない。本研究では,特に生活空間が狭小化していると考えられる末期の膝OA患者において,身体活動量を反映すると報告されている生活空間に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象は膝OAを原因疾患として当院へ外来通院中である末期膝OA患者106名(男性17名,女性89名,年齢73.3±7.7歳,身長151.4±8.3cm,体重60.1±8.6kg,Body mass index(BMI)26.3±3.2kg/m2)とした。対象者の居住地区は都市部であり,外出時に杖を使用している者が40名,シルバーカーを使用している者が4名,歩行補助具を使用していない者が62名であった。Kellgren-Lawrence分類による重症度評価では,両側gradeIVが72名,片側gradeIVで反対側gradeIIIが23名,反対側gradeIIが5名,反対側gradeIが6名であった。なお,重症度の高い側を患側,低い側を健側と定義し,両側gradeIVであった場合は疼痛の強い側を患側,弱い側を健側と定義した。除外基準は反対側膝関節および他関節に既に人工関節置換術を施行している者,神経学的疾患など歩行能力に影響を及ぼす他の疾患を有している者とした。
生活空間の評価にはLife Space Assessment(LSA)を,外出に対する自信の評価にはVisual Analogue Scaleを用いた。自宅周囲の環境要因の調査には国際標準化身体活動質問紙環境尺度の日本語版(IPAQ-E)を用い,基本項目7問および推奨項目4問,オプション項目3問(十字路や交差点の有無,歩道の整備,歩いていける目的地)の計14問の質問を行い,基本項目の住居密度のみ5つの選択肢から1つを,残りの項目は4つの選択肢から1つを選択する形式とした。さらに運動機能評価として,膝関節可動域,膝関節伸展筋力,10m歩行時間および歩行時痛,Timed Up & Go test(TUG)の計測を行った。単変量解析として,Pearsonの相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用いLSAと他の項目の相関関係を検討した。次に多変量解析としてLSAを従属変数とし,単変量解析の結果LSAと有意な相関関係を認めた項目を独立変数に投入したステップワイズ重回帰分析を行った。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者に本研究の趣旨と内容,データの利用に関する説明を行い,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画され,当院倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
単変量解析の結果,LSAと年齢,外出に対する自信,健側膝関節屈曲可動域,患側および健側膝関節伸展筋力,10m歩行時間,歩行時痛,TUGと有意な相関関係を認めた。また,LSAはIPAQ-Eの住居密度,スーパーや商店,バス停や駅,近隣の歩道,近隣で見かける運動実施者,歩道の整備,歩いていける目的地の質問項目と有意な相関関係を認めた。
LSAを従属変数に投入した重回帰分析の結果,有意な関連要因として抽出された因子はTUG,外出に対する自信,歩道の整備であり,自由度調整済み決定変数は0.603であった。
【考察】
本研究の結果から末期膝OA患者の生活空間には移動能力や外出に対する自信,近隣の歩道の整備が関与していることが明らかとなった。高齢者において生活空間と移動能力が関連していることはこれまでに明らかとなっているが,運動機能の向上だけでは身体活動量の向上には至らないことも報告されており,運動機能だけではなく外出に対する自信も重要であると考えられる。また,近年では運動機能などの個人要因だけでなく,地区の環境が身体活動量に影響を与えていることも注目されており,特に膝OA患者では健常者よりも移動能力が低下しているため,歩道の整備など環境要因がより重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
生活空間は身体活動や社会への参加を反映した,生活に重要な要素であるにもかかわらず,これまでに膝OA患者の生活空間に影響を及ぼす因子を包括的に検討した報告はなかった。本研究で得られた知見は膝OA患者の生活空間拡大やQOL向上に有用であり,意義深い研究であると考える。