[0122] 学生に積極性を持たせるための指導方法には,臨床実習指導者の性別・経験年数による違いがあるか
キーワード:臨床実習指導者, 積極性, 指導方法
【はじめに,目的】
学生にとって臨床実習(以下,実習)の成否は,学内のPassive learning(受動的学習)からActive learning(能動的学習)へ,いかにスムーズにシフトできるかにかかっていると言って過言ではない。積極性とは,自ら進んで物事を行う性質である。積極性の不足は,しばしば学生の低い実習評価や不合格を帰結とするが,彼らの積極性を引き出す系統的な方法の確立には至っていない。そこでわれわれは,第15回教育研究大会にて,学生が積極性を持って実習に取り組むことができるように,指導者はどのような指導方法をとっているのか調査し,報告した。
今回,さらに調査対象者を増やし,指導者の性別・指導者経験年数(以下,経験年数)による指導方法の違いについての所見を得ることを本研究の目的とした。
【方法】
<対象>本調査に同意を得た理学療法士で,臨床経験2年目以上でかつ指導者経験のある264名であった。内訳は,性別では男性179名,女性85名,経験年数別では10年未満群174名,11年以上群90名であった。<調査票>筆者らが独自に作成した調査票を用い,自由記載形式で回答を求めた。質問内容は,「積極性のない学生に対し,積極性を持たせるご指導をしたことがありますか。よろしければ,その方法をご紹介ください」であった。<分析>得られた回答をキーワード化にて細分化し,KJ法を用いてカテゴリーに分類した。さらに,得られたカテゴリーを多重回答形式での回答とみなしアフターコーディングを行い,分析の対象とした。各カテゴリーに属する指導方法を回答した対象者数と性別・経験年数との関係をみるために,各カテゴリーごとに2×2のクロス集計表(性別および経験年数×回答の有無)を作成し,χ2検定,残差分析を行った。なお,3カテゴリーに属しないキーワードは,各カテゴリーにおいて回答無しとしてカウントした。また,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,大阪河﨑リハビリテーション大学倫理委員会規則に従うもので(承認番号OKRU2211),調査にあたっては,対象者に本研究の主旨を紙面にて説明し,同意を得た。
【結果】
カテゴリー分類したところ,3カテゴリーが得られ,以下の『 』内に記す。それは,指導者から声かけや質問を投げかける,一緒に考えるなど『良好な関係を構築する』であり,指導者からの課題指示や学生の興味・関心の高いものから始める,疑問を抱かせるための症例提示など『学習開始のための具体的な問題提起をする』,理学療法の面白さを伝える,治療効果を見せる,成功体験させる,褒める,叱責するなど『意欲を高める』であった。
χ2検定,残差分析を行った結果,『良好な関係を構築する』にて,回答なし男性と回答あり女性が期待値より有意に多かった(χ2(1)=8.69,p<.01)。また,回答あり10年未満群と回答なし11年以上群が期待値より有意に多かった(χ2(1)=15.15,p<.001)。さらに,『意欲を高める』にて,回答あり10年未満群と回答なし11年以上群が期待値より有意に多かった(χ2(1)=16.13,p<.001)。なお,『学習開始のための具体的な問題提起をする』では,性別・経験年数別でともに有意な関係は認められなかった。
【考察】
指導者は,学生が自ら進んで指導者自身や他スタッフ,患者と円滑なコミュニケーションがとれるように,会話を促す環境作りを行い,指導者からの課題や学生の高い関心ごとを提示することで,具体的な行動を導き出そうとしているものと思われる。さらに,理学療法自体への関心を高め,実習への参加意欲,学習意欲を沸き立たせるための方略を持って,学生への気遣いや配慮をしながら,自主性・積極性を引き出すためのきっかけ作りをしながら指導しているものと考えられる。
今回の調査・分析の結果より,学生が自ら進んで会話や質問などができるように学生とのより良い関係を構築し,かつ,実習への参加意欲・学習意欲を高めるような指導方法をもって学生の積極性を引き出そうとしているのは,経験年数が10年未満の女性指導者が多いことが伺えたことから,学生に積極性を持たせる指導方法には,指導者の性別・経験年数による違いがあることが示唆された。
今回の分析方法では,自由記載での回答をカテゴリー化し,そのカテゴリーに属する回答者人数を分析対象とした。また各カテゴリーに属していないものを回答なしとみなした。今後は,YES・NOで回答を求める2項択一形式にて再調査することで,本研究の妥当性・信頼性を高めたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究は,実習の主体である学生の積極性を高めるために実施でき得る指導方法の一手段に値するもので,実習教育における意義のある研究と考える。
学生にとって臨床実習(以下,実習)の成否は,学内のPassive learning(受動的学習)からActive learning(能動的学習)へ,いかにスムーズにシフトできるかにかかっていると言って過言ではない。積極性とは,自ら進んで物事を行う性質である。積極性の不足は,しばしば学生の低い実習評価や不合格を帰結とするが,彼らの積極性を引き出す系統的な方法の確立には至っていない。そこでわれわれは,第15回教育研究大会にて,学生が積極性を持って実習に取り組むことができるように,指導者はどのような指導方法をとっているのか調査し,報告した。
今回,さらに調査対象者を増やし,指導者の性別・指導者経験年数(以下,経験年数)による指導方法の違いについての所見を得ることを本研究の目的とした。
【方法】
<対象>本調査に同意を得た理学療法士で,臨床経験2年目以上でかつ指導者経験のある264名であった。内訳は,性別では男性179名,女性85名,経験年数別では10年未満群174名,11年以上群90名であった。<調査票>筆者らが独自に作成した調査票を用い,自由記載形式で回答を求めた。質問内容は,「積極性のない学生に対し,積極性を持たせるご指導をしたことがありますか。よろしければ,その方法をご紹介ください」であった。<分析>得られた回答をキーワード化にて細分化し,KJ法を用いてカテゴリーに分類した。さらに,得られたカテゴリーを多重回答形式での回答とみなしアフターコーディングを行い,分析の対象とした。各カテゴリーに属する指導方法を回答した対象者数と性別・経験年数との関係をみるために,各カテゴリーごとに2×2のクロス集計表(性別および経験年数×回答の有無)を作成し,χ2検定,残差分析を行った。なお,3カテゴリーに属しないキーワードは,各カテゴリーにおいて回答無しとしてカウントした。また,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,大阪河﨑リハビリテーション大学倫理委員会規則に従うもので(承認番号OKRU2211),調査にあたっては,対象者に本研究の主旨を紙面にて説明し,同意を得た。
【結果】
カテゴリー分類したところ,3カテゴリーが得られ,以下の『 』内に記す。それは,指導者から声かけや質問を投げかける,一緒に考えるなど『良好な関係を構築する』であり,指導者からの課題指示や学生の興味・関心の高いものから始める,疑問を抱かせるための症例提示など『学習開始のための具体的な問題提起をする』,理学療法の面白さを伝える,治療効果を見せる,成功体験させる,褒める,叱責するなど『意欲を高める』であった。
χ2検定,残差分析を行った結果,『良好な関係を構築する』にて,回答なし男性と回答あり女性が期待値より有意に多かった(χ2(1)=8.69,p<.01)。また,回答あり10年未満群と回答なし11年以上群が期待値より有意に多かった(χ2(1)=15.15,p<.001)。さらに,『意欲を高める』にて,回答あり10年未満群と回答なし11年以上群が期待値より有意に多かった(χ2(1)=16.13,p<.001)。なお,『学習開始のための具体的な問題提起をする』では,性別・経験年数別でともに有意な関係は認められなかった。
【考察】
指導者は,学生が自ら進んで指導者自身や他スタッフ,患者と円滑なコミュニケーションがとれるように,会話を促す環境作りを行い,指導者からの課題や学生の高い関心ごとを提示することで,具体的な行動を導き出そうとしているものと思われる。さらに,理学療法自体への関心を高め,実習への参加意欲,学習意欲を沸き立たせるための方略を持って,学生への気遣いや配慮をしながら,自主性・積極性を引き出すためのきっかけ作りをしながら指導しているものと考えられる。
今回の調査・分析の結果より,学生が自ら進んで会話や質問などができるように学生とのより良い関係を構築し,かつ,実習への参加意欲・学習意欲を高めるような指導方法をもって学生の積極性を引き出そうとしているのは,経験年数が10年未満の女性指導者が多いことが伺えたことから,学生に積極性を持たせる指導方法には,指導者の性別・経験年数による違いがあることが示唆された。
今回の分析方法では,自由記載での回答をカテゴリー化し,そのカテゴリーに属する回答者人数を分析対象とした。また各カテゴリーに属していないものを回答なしとみなした。今後は,YES・NOで回答を求める2項択一形式にて再調査することで,本研究の妥当性・信頼性を高めたい。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究は,実習の主体である学生の積極性を高めるために実施でき得る指導方法の一手段に値するもので,実習教育における意義のある研究と考える。