[0123] クリニカルパス短縮が人工股関節全置換術後患者の退院時運動機能に及ぼす影響
キーワード:人工股関節全置換術, クリニカルパス, 運動機能
【はじめに,目的】
当科では,人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)後患者に対するクリニカルパス(パス)を利用した理学療法(PT)について本学会で報告した(第42・44・46回)。2008年より低侵襲性THA(MIS-THA)が導入され,手術方法の精緻化およびパスの効率化が進み,2010年より術後在院日数を14日から10日へ短縮したパスを段階的に導入した。当院のパスは手術前日にPT評価を実施,術後翌日より病棟にてPTを開始し,車椅子乗車と全荷重が許可される。2日目より訓練室に移行し歩行練習開始となる。14日パスは14日目に,10日パスは10日目に退院時評価および指導を行い退院となる。本研究の目的は14日から10日へのパス期間の短縮が,退院時の身体機能,歩行能力に影響を与えたかどうかを明らかにすることである。
【方法】
対象は2009年3月~2013年9月に,パスを使用し片側MIS-THAを施行した242名中,術前・退院時評価のいずれかが未実施の症例,手術前後の医学的問題によりパスの適応とならなかった症例を除外した183名である。属性および経過に関する項目は,年齢・Body Mass Index(BMI)・診断名・合併症・JOAscore・術後在院日数・PT実施日数・病棟内片杖歩行自立となった日数・退院時の転帰・外来PT継続の有無,身体機能はROM(股関節屈曲,伸展,外転)・MMT(股関節屈曲,伸展,外転)・疼痛評価(Visual Analog Scale:VAS)・歩行能力(屋内のみ,屋外歩行,公共交通機関利用,その他)・歩行補助具・10m歩行時間を診療録より後方視的に抽出した。統計学的解析はR2.8.1を用い,危険率を有意水準5%未満とした。適応パスにより10日パス適応群(10日群)と14日パス適応群(14日群)に群分けした。群間の比較はMann-WhitneyのU検定,χ2検定およびFisherの正確確率検定を行い,各群の術前・退院時の比較はWilcoxonの符号付順位検定を行った。結果は平均値±標準偏差,もしくは中央値(四分位範囲)にて表記した。
【倫理的配慮,説明と同意】
入院時に臨床研究,発表に対する同意を文書にて得た。
【結果】
抽出された対象者は10日群103例(男性26例,女性77例,年齢61.1±11.9歳,BMI 23.6(21.4-25.9),JOAscore 49.0(41-59)点),14日群80例(男性14例,女性66例,年齢62.2±12.7歳,BMI 23.1(21.1-25.8),JOAscore 54.0(42-62)点)であった。合併症を有する症例は10日群55例,14日群47例で,間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患,狭心症や心不全などの循環器疾患,腰部脊柱管狭窄症や変形性膝関節症などの整形外科的疾患,全身性エリテマトーデスなどの自己免疫性疾患など多岐に渡っていた。属性および経過に関して有意差がみられたのは術後在院日数(10日群11.0(10-13.5)日,14日群14.0(14-15.3)日),PT実施日数(10日群8.0(8-8)日,14日群10.0(8-11)日),病棟内片杖歩行自立の日数(10日群8.0(6-9)日,14日群9.0(7-11)日)であり,いずれも10日群で短かった。身体機能は両群間で差がみられず,各群での術前・退院時の比較では,MMTは両群とも退院時で有意に低下していた。安静時VASは10日群で術前7.6(0-28)から退院時0(0-14)へ,14日群で術前2.3(0-26.2)から退院時0(0-10.5)へ,歩行時VASは10日群で術前52.3(18-80)から退院時16.9(0-35)へ,14日群で術前51.7(22.4-76.5)から退院時12.2(0-25.4)へ有意に低下していた。歩行能力は両群とも術前では公共交通機関利用が多かった(10日群69%,14日群60%)のに対し,退院時には屋外歩行が多数を占めていた(10日群53%,14日群53%)。歩行補助具は術前で杖なし歩行(10日群48%,14日群31%)と片杖歩行(10日群39%,14日群58%)が多かったが,退院時では片杖歩行がほとんどであった(10日群79%,14日群80%)。10m歩行時間は10日群で術前10.0(8.8-13.0)秒から退院時13.0(10.4-17.9)秒へ,14日群で術前11.1(9-14)秒から退院時14.0(11.2-16.4)秒へ有意に延長していた。
【考察】
パス期間の短縮により10日群で退院時の運動機能低下が予想されたが,14日群と比較して有意差はみられなかった。これは10日群では早期に病棟内歩行自立を達成するなどPTプログラムの前倒しや,病棟と連携しPT以外での活動量を確保したことなどが影響していると考えられた。今後の課題として,退院時の運動機能低下に対するセルフトレーニングの内容の充実と指導の徹底を図る必要がある。また,PTの効果については,筋力測定装置による定量的評価やWOMACなどの疾患特異的機能評価などを用いてさらなる検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
MIS-THAの導入によりTHA後のパスは短縮される傾向にあり,パス期間の短縮による影響を,合併症を有する症例を含めて検討したことに意義があると考える。
当科では,人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)後患者に対するクリニカルパス(パス)を利用した理学療法(PT)について本学会で報告した(第42・44・46回)。2008年より低侵襲性THA(MIS-THA)が導入され,手術方法の精緻化およびパスの効率化が進み,2010年より術後在院日数を14日から10日へ短縮したパスを段階的に導入した。当院のパスは手術前日にPT評価を実施,術後翌日より病棟にてPTを開始し,車椅子乗車と全荷重が許可される。2日目より訓練室に移行し歩行練習開始となる。14日パスは14日目に,10日パスは10日目に退院時評価および指導を行い退院となる。本研究の目的は14日から10日へのパス期間の短縮が,退院時の身体機能,歩行能力に影響を与えたかどうかを明らかにすることである。
【方法】
対象は2009年3月~2013年9月に,パスを使用し片側MIS-THAを施行した242名中,術前・退院時評価のいずれかが未実施の症例,手術前後の医学的問題によりパスの適応とならなかった症例を除外した183名である。属性および経過に関する項目は,年齢・Body Mass Index(BMI)・診断名・合併症・JOAscore・術後在院日数・PT実施日数・病棟内片杖歩行自立となった日数・退院時の転帰・外来PT継続の有無,身体機能はROM(股関節屈曲,伸展,外転)・MMT(股関節屈曲,伸展,外転)・疼痛評価(Visual Analog Scale:VAS)・歩行能力(屋内のみ,屋外歩行,公共交通機関利用,その他)・歩行補助具・10m歩行時間を診療録より後方視的に抽出した。統計学的解析はR2.8.1を用い,危険率を有意水準5%未満とした。適応パスにより10日パス適応群(10日群)と14日パス適応群(14日群)に群分けした。群間の比較はMann-WhitneyのU検定,χ2検定およびFisherの正確確率検定を行い,各群の術前・退院時の比較はWilcoxonの符号付順位検定を行った。結果は平均値±標準偏差,もしくは中央値(四分位範囲)にて表記した。
【倫理的配慮,説明と同意】
入院時に臨床研究,発表に対する同意を文書にて得た。
【結果】
抽出された対象者は10日群103例(男性26例,女性77例,年齢61.1±11.9歳,BMI 23.6(21.4-25.9),JOAscore 49.0(41-59)点),14日群80例(男性14例,女性66例,年齢62.2±12.7歳,BMI 23.1(21.1-25.8),JOAscore 54.0(42-62)点)であった。合併症を有する症例は10日群55例,14日群47例で,間質性肺炎や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患,狭心症や心不全などの循環器疾患,腰部脊柱管狭窄症や変形性膝関節症などの整形外科的疾患,全身性エリテマトーデスなどの自己免疫性疾患など多岐に渡っていた。属性および経過に関して有意差がみられたのは術後在院日数(10日群11.0(10-13.5)日,14日群14.0(14-15.3)日),PT実施日数(10日群8.0(8-8)日,14日群10.0(8-11)日),病棟内片杖歩行自立の日数(10日群8.0(6-9)日,14日群9.0(7-11)日)であり,いずれも10日群で短かった。身体機能は両群間で差がみられず,各群での術前・退院時の比較では,MMTは両群とも退院時で有意に低下していた。安静時VASは10日群で術前7.6(0-28)から退院時0(0-14)へ,14日群で術前2.3(0-26.2)から退院時0(0-10.5)へ,歩行時VASは10日群で術前52.3(18-80)から退院時16.9(0-35)へ,14日群で術前51.7(22.4-76.5)から退院時12.2(0-25.4)へ有意に低下していた。歩行能力は両群とも術前では公共交通機関利用が多かった(10日群69%,14日群60%)のに対し,退院時には屋外歩行が多数を占めていた(10日群53%,14日群53%)。歩行補助具は術前で杖なし歩行(10日群48%,14日群31%)と片杖歩行(10日群39%,14日群58%)が多かったが,退院時では片杖歩行がほとんどであった(10日群79%,14日群80%)。10m歩行時間は10日群で術前10.0(8.8-13.0)秒から退院時13.0(10.4-17.9)秒へ,14日群で術前11.1(9-14)秒から退院時14.0(11.2-16.4)秒へ有意に延長していた。
【考察】
パス期間の短縮により10日群で退院時の運動機能低下が予想されたが,14日群と比較して有意差はみられなかった。これは10日群では早期に病棟内歩行自立を達成するなどPTプログラムの前倒しや,病棟と連携しPT以外での活動量を確保したことなどが影響していると考えられた。今後の課題として,退院時の運動機能低下に対するセルフトレーニングの内容の充実と指導の徹底を図る必要がある。また,PTの効果については,筋力測定装置による定量的評価やWOMACなどの疾患特異的機能評価などを用いてさらなる検討を行う必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
MIS-THAの導入によりTHA後のパスは短縮される傾向にあり,パス期間の短縮による影響を,合併症を有する症例を含めて検討したことに意義があると考える。