[0126] 末期変形性股関節症患者が股関節に対して抱く不満とは
~日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ)を用いた検討~
Keywords:変形性股関節症, 日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ), QOL
【はじめに,目的】
変形性股関節症(以下,OA)患者は,病期の進行に伴い疼痛により可動域制限や筋力低下が生じ,末期になると日常生活動作や生活の質(以下,QOL)が著しく低下する。前回大会において,我々は人工股関節全置換術(以下,THA)前の末期OA患者に対し,日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下,JHEQ)を用いてQOL評価を行った。しかし,項目ごとの点数調査のみでQOLに影響を及ぼす因子は検討していなかった。そこで,今回はJHEQの評価項目である“股関節に対する不満”に対して影響を及ぼす因子を検討した。
【方法】
対象は末期OAを罹患しTHA施行目的で入院された53例54関節とした。性別は女性45例,男性8例,平均年齢は67.9歳(43-84歳)であった。全例に対して術前にJHEQを自己記入式で回答を依頼した。JHEQは,痛み,動作,メンタルの3つの下位尺度から構成される質問紙である。下位尺度ごとに合計点が算出され,点数が高いほどQOLがよいことを表す。また,合計点に含まず単独の指標として股関節の状態不満足度をVAS(0-100点)にて評価し,点数が高いほど不満が強いことを表す。今回はこの状態不満足度を“股関節に対する不満”として,影響を及ぼす因子を検討した。また,同時期に術側股関節の可動域とTimed Up and Go test(以下,TUG),Harris Hip Score(以下,HHS)を測定した。検討項目は,“股関節に対する不満”を従属変数,JHEQの各下位尺度の点数,可動域,TUG,HHSに年齢,性別,非術側診断名を加えたものを独立変数として重回帰分析を行った。また,対象者を非高齢者群(64歳以下)と前期高齢者群(65~74歳),後期高齢者群(75歳以上)の3群に分類し,同様の検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行い,同意を得られたものに対して実施した。
【結果】
JHEQの回答に不備がなかった49例50関節を採用した。状態不満足度は82.9±14.4点であり,重回帰分析の結果,HHSが因子として選択された(R2=0.206,p<0.01)。年代別の不満足度は,非高齢者群(20関節)は81.2±14.4点,前期高齢者群(14関節)は85.4±13.9点,後期高齢者群(16関節)は82.8±15.3点であり,3群間で有意差を認めなかった。各群の不満足度に及ぼす因子は,非高齢者群はJHEQメンタル(R2=0.222,p<0.05),前期高齢者群,後期高齢者群はともにHHS(R2=0.382,p<0.05,R2=0.541,p<0.01)であった。
【考察】
THA前のOA患者は股関節に対して強い不満を感じており,影響を及ぼす因子としてHHSが選択された。HHSは疼痛,機能,変形,可動域から構成される医療者側からみた股関節機能評価法であり,OA由来の機能障害が股関節に対する不満に直結していることがわかった。しかし,この傾向は年代別で異なり,65歳以上の高齢者群ではHHSが不満に影響を及ぼすのに対し,64歳以下の非高齢者群ではJHEQの下位尺度であるメンタルが影響を及ぼしていた。そこで,JHEQメンタルを従属変数として再検討した結果,JHEQ動作がJHEQメンタルに関係していた。JHEQメンタルは,生活に対する不安や気分による外出への影響,地域の行事や近所づきあいなどを問う下位尺度となっており,家庭内の役割や社会的な活動が多い非高齢者群では,動作面での低下が家庭内外での活動を制限し,精神面の低下ならびに股関節に対する不満につながっているのではないかと思われる。また,HHSではなくJHEQ動作が関係していたことから,非高齢者では医療者側からの評価では判断できず,主観的評価が重要であることも示唆された。前期および後期高齢者群ではHHSが股関節に対する不満に影響を及ぼしていたが,同様にHHSを従属変数として再検討すると,前期高齢者群では今回の項目では因子を見出すことができなかった。しかし,後期高齢者群ではTUGがHHSに関係していることがわかった。TUGは下肢筋力,バランス,歩行能力,易転倒性といった日常生活機能との関連性が高く,高齢者の身体機能評価として広く用いられている。75歳以上の後期高齢者では,加齢性変化や多関節疾患の罹患などにより術側股関節の機能だけでなく,総合的な身体機能の低下が股関節に対する不満として影響していると考える。
【理学療法学研究としての意義】
THA施行に踏み切った末期OA患者は股関節に対して強い不満を抱いており,機能障害や活動制限が関与していた。また,年齢層により原因は異なり非高齢者では精神面の影響が大きいことがわかった。理学療法士としては,股関節機能に対して疼痛の緩和や代償動作を使用した動作指導を行うのはもちろんだが,患者の個人的要因や社会的背景などを十分に加味した上で理学療法を実施していくべきであると再認識した結果となった。
変形性股関節症(以下,OA)患者は,病期の進行に伴い疼痛により可動域制限や筋力低下が生じ,末期になると日常生活動作や生活の質(以下,QOL)が著しく低下する。前回大会において,我々は人工股関節全置換術(以下,THA)前の末期OA患者に対し,日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下,JHEQ)を用いてQOL評価を行った。しかし,項目ごとの点数調査のみでQOLに影響を及ぼす因子は検討していなかった。そこで,今回はJHEQの評価項目である“股関節に対する不満”に対して影響を及ぼす因子を検討した。
【方法】
対象は末期OAを罹患しTHA施行目的で入院された53例54関節とした。性別は女性45例,男性8例,平均年齢は67.9歳(43-84歳)であった。全例に対して術前にJHEQを自己記入式で回答を依頼した。JHEQは,痛み,動作,メンタルの3つの下位尺度から構成される質問紙である。下位尺度ごとに合計点が算出され,点数が高いほどQOLがよいことを表す。また,合計点に含まず単独の指標として股関節の状態不満足度をVAS(0-100点)にて評価し,点数が高いほど不満が強いことを表す。今回はこの状態不満足度を“股関節に対する不満”として,影響を及ぼす因子を検討した。また,同時期に術側股関節の可動域とTimed Up and Go test(以下,TUG),Harris Hip Score(以下,HHS)を測定した。検討項目は,“股関節に対する不満”を従属変数,JHEQの各下位尺度の点数,可動域,TUG,HHSに年齢,性別,非術側診断名を加えたものを独立変数として重回帰分析を行った。また,対象者を非高齢者群(64歳以下)と前期高齢者群(65~74歳),後期高齢者群(75歳以上)の3群に分類し,同様の検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的と方法,個人情報の保護について十分な説明を行い,同意を得られたものに対して実施した。
【結果】
JHEQの回答に不備がなかった49例50関節を採用した。状態不満足度は82.9±14.4点であり,重回帰分析の結果,HHSが因子として選択された(R2=0.206,p<0.01)。年代別の不満足度は,非高齢者群(20関節)は81.2±14.4点,前期高齢者群(14関節)は85.4±13.9点,後期高齢者群(16関節)は82.8±15.3点であり,3群間で有意差を認めなかった。各群の不満足度に及ぼす因子は,非高齢者群はJHEQメンタル(R2=0.222,p<0.05),前期高齢者群,後期高齢者群はともにHHS(R2=0.382,p<0.05,R2=0.541,p<0.01)であった。
【考察】
THA前のOA患者は股関節に対して強い不満を感じており,影響を及ぼす因子としてHHSが選択された。HHSは疼痛,機能,変形,可動域から構成される医療者側からみた股関節機能評価法であり,OA由来の機能障害が股関節に対する不満に直結していることがわかった。しかし,この傾向は年代別で異なり,65歳以上の高齢者群ではHHSが不満に影響を及ぼすのに対し,64歳以下の非高齢者群ではJHEQの下位尺度であるメンタルが影響を及ぼしていた。そこで,JHEQメンタルを従属変数として再検討した結果,JHEQ動作がJHEQメンタルに関係していた。JHEQメンタルは,生活に対する不安や気分による外出への影響,地域の行事や近所づきあいなどを問う下位尺度となっており,家庭内の役割や社会的な活動が多い非高齢者群では,動作面での低下が家庭内外での活動を制限し,精神面の低下ならびに股関節に対する不満につながっているのではないかと思われる。また,HHSではなくJHEQ動作が関係していたことから,非高齢者では医療者側からの評価では判断できず,主観的評価が重要であることも示唆された。前期および後期高齢者群ではHHSが股関節に対する不満に影響を及ぼしていたが,同様にHHSを従属変数として再検討すると,前期高齢者群では今回の項目では因子を見出すことができなかった。しかし,後期高齢者群ではTUGがHHSに関係していることがわかった。TUGは下肢筋力,バランス,歩行能力,易転倒性といった日常生活機能との関連性が高く,高齢者の身体機能評価として広く用いられている。75歳以上の後期高齢者では,加齢性変化や多関節疾患の罹患などにより術側股関節の機能だけでなく,総合的な身体機能の低下が股関節に対する不満として影響していると考える。
【理学療法学研究としての意義】
THA施行に踏み切った末期OA患者は股関節に対して強い不満を抱いており,機能障害や活動制限が関与していた。また,年齢層により原因は異なり非高齢者では精神面の影響が大きいことがわかった。理学療法士としては,股関節機能に対して疼痛の緩和や代償動作を使用した動作指導を行うのはもちろんだが,患者の個人的要因や社会的背景などを十分に加味した上で理学療法を実施していくべきであると再認識した結果となった。