[0128] 半腱様筋腱を用いた膝前十字靭帯再建術前後におけるスクワット中の膝関節伸展モーメントの経時変化
キーワード:前十字靭帯, スクワット, 三次元動作解析
【はじめに,目的】我々は膝前十字靭帯(ACL)損傷者のスクワット中における表面筋電図から膝伸展筋の活動量が減少し,膝屈曲筋の活動量が増加することを報告した。また,この現象が半腱様筋腱を用いたACL再建術後5週でも継続することを明らかにした。このように再建術前後において膝屈曲筋の活動が増加していることは,再建靭帯に負荷の掛かる膝前方動揺を抑制する上で重要であると考えている。しかし筋電図のみの検討では,関節運動や荷重による影響を十分に把握することができていない。そこで本研究目的は,半腱様筋腱を用いたACL再建術前後におけるスクワット中の下肢関節運動と膝伸展モーメントの経時変化を測定することにより,スクワット中に膝関節の負荷がどのように変化するのかを明らかにすることである。
【方法】対象は半腱様筋腱を用いたACL再建術適応患者11名(平均年齢24.8±6.8歳,男性8名,女性3名)である。課題は片脚スクワットとし,メトロノームを用いて80bpmのリズムで行った。片脚スクワット中の膝屈曲角度は50度までとした。上肢は胸の前で組み,反対側下肢の足部が身体後方になるようにした。測定時期は術前と術後9週時とした。機器はビデオカメラ(Sony社製,HDR-HC7)4台と床反力計(Anti Japan社製,AccuGait)1台を含む3次元動作解析装置(東総システム社製Tomoco)を使用した。直径25mmのカラーマーカーは22点貼付けた。関節角度と関節モーメントは解析ソフトTomoco-VM・FPを用いて算出した。なお,Tomocoにて算出した関節角度の信頼性はICC(1.1)が0.78,ICC(2.1)が0.80であった。計測項目は片脚スクワット中の膝伸展モーメントピーク値と,その際の体幹前傾角度,股屈曲角度,膝屈曲角度,足背屈角度,足圧中心位置(COP),股関節モーメント,足関節モーメントとした。なお,関節モーメントは体重で除した値を用いた。関節角度は立位時を0度とした相対角度を算出し,術後に膝完全伸展が困難な場合は立位時の下肢関節角度を計測し補正した。COPは足長で除した値を用いた。計測回数はスピアマンブラウンの公式から3回に決定した。分析方法は,健患及び術前後の2要因による分割プロット分散分析を用いて各関節モーメントの変化を検討した。さらに全ての指標における健患差及び術前後の変化をt検定で検討した。また各関節角度とCOPにおいては術前後変化量(変化量)を算出し,膝伸展モーメントの変化量との相関を求めた。統計処理ソフトにはR-2.8.1を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理審査会(番号:2011-4)にて承認を得ている。対象者と保護者には説明し書面にて同意を得た。
【結果】全ての関節モーメントは健患差と術前後の2要因に主効果を認めたものの,交互作用は認めなかった。健患側の比較について,術前では患側が健側に比べて膝伸展モーメントが小さく,股伸展モーメントと足底屈モーメントが大きかった。術前後の変化では,健患側ともに膝伸展モーメントが低下し,足底屈モーメントが増加した。各関節角度は健患差及び術前後に変化が無かった。COPは術前で患側が健側よりも前方位であった。術前後の変化は,健側のみ前方に変位した。COPの変化量(前方を正)と膝伸展モーメントの変化量に負の相関(患側r=-0.71,健側r=-0.62)を認めた。
【考察】健患側ともに術後にスクワット中の膝伸展モーメントが減少しており,手術による患側への影響は明確でない。しかし術前では患側のCOPは健側よりも前方にあり,術後では健側のみがCOPの前方化を認めたことから,患側の影響が健側にまで及ぶと考えた。健患側のCOP変化量と膝伸展モーメント変化量との間にそれぞれ相関を認めたことから,術後の膝伸展モーメント低下はCOPが前方へ変位した影響であると考える。つまり,健側ではCOPが前方へ変化することに伴い膝伸展モーメントの低下に繋がったと考えられる。しかし患側でもCOP変化量と膝伸展モーメント変化量の相関が強いにも関わらず術後にCOPの変化を認めなかった。これは,術前からCOPが前方位にある為,変化量は小さくなったことが起因していると考えた。術後の膝伸展モーメント低下現象は,再建靭帯に負荷の掛かる膝前方動揺を抑制する上で重要である一方,長期的に継続することは膝伸展筋力トレーニング効果の観点からも良い影響とはいえない。今後は,後方へのCOP(重心位置)のコントロールを考慮したスクワット法の導入時期を検討することが課題である。
【理学療法学研究としての意義】膝伸展モーメントの低下現象は再建靭帯の保護というリスク管理の点からも有利であると考えられる。本研究成果は,再建靭帯が未成熟である術後早期での理学療法プログラムの安全性を考える上で重要な情報を提示している。
【方法】対象は半腱様筋腱を用いたACL再建術適応患者11名(平均年齢24.8±6.8歳,男性8名,女性3名)である。課題は片脚スクワットとし,メトロノームを用いて80bpmのリズムで行った。片脚スクワット中の膝屈曲角度は50度までとした。上肢は胸の前で組み,反対側下肢の足部が身体後方になるようにした。測定時期は術前と術後9週時とした。機器はビデオカメラ(Sony社製,HDR-HC7)4台と床反力計(Anti Japan社製,AccuGait)1台を含む3次元動作解析装置(東総システム社製Tomoco)を使用した。直径25mmのカラーマーカーは22点貼付けた。関節角度と関節モーメントは解析ソフトTomoco-VM・FPを用いて算出した。なお,Tomocoにて算出した関節角度の信頼性はICC(1.1)が0.78,ICC(2.1)が0.80であった。計測項目は片脚スクワット中の膝伸展モーメントピーク値と,その際の体幹前傾角度,股屈曲角度,膝屈曲角度,足背屈角度,足圧中心位置(COP),股関節モーメント,足関節モーメントとした。なお,関節モーメントは体重で除した値を用いた。関節角度は立位時を0度とした相対角度を算出し,術後に膝完全伸展が困難な場合は立位時の下肢関節角度を計測し補正した。COPは足長で除した値を用いた。計測回数はスピアマンブラウンの公式から3回に決定した。分析方法は,健患及び術前後の2要因による分割プロット分散分析を用いて各関節モーメントの変化を検討した。さらに全ての指標における健患差及び術前後の変化をt検定で検討した。また各関節角度とCOPにおいては術前後変化量(変化量)を算出し,膝伸展モーメントの変化量との相関を求めた。統計処理ソフトにはR-2.8.1を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理審査会(番号:2011-4)にて承認を得ている。対象者と保護者には説明し書面にて同意を得た。
【結果】全ての関節モーメントは健患差と術前後の2要因に主効果を認めたものの,交互作用は認めなかった。健患側の比較について,術前では患側が健側に比べて膝伸展モーメントが小さく,股伸展モーメントと足底屈モーメントが大きかった。術前後の変化では,健患側ともに膝伸展モーメントが低下し,足底屈モーメントが増加した。各関節角度は健患差及び術前後に変化が無かった。COPは術前で患側が健側よりも前方位であった。術前後の変化は,健側のみ前方に変位した。COPの変化量(前方を正)と膝伸展モーメントの変化量に負の相関(患側r=-0.71,健側r=-0.62)を認めた。
【考察】健患側ともに術後にスクワット中の膝伸展モーメントが減少しており,手術による患側への影響は明確でない。しかし術前では患側のCOPは健側よりも前方にあり,術後では健側のみがCOPの前方化を認めたことから,患側の影響が健側にまで及ぶと考えた。健患側のCOP変化量と膝伸展モーメント変化量との間にそれぞれ相関を認めたことから,術後の膝伸展モーメント低下はCOPが前方へ変位した影響であると考える。つまり,健側ではCOPが前方へ変化することに伴い膝伸展モーメントの低下に繋がったと考えられる。しかし患側でもCOP変化量と膝伸展モーメント変化量の相関が強いにも関わらず術後にCOPの変化を認めなかった。これは,術前からCOPが前方位にある為,変化量は小さくなったことが起因していると考えた。術後の膝伸展モーメント低下現象は,再建靭帯に負荷の掛かる膝前方動揺を抑制する上で重要である一方,長期的に継続することは膝伸展筋力トレーニング効果の観点からも良い影響とはいえない。今後は,後方へのCOP(重心位置)のコントロールを考慮したスクワット法の導入時期を検討することが課題である。
【理学療法学研究としての意義】膝伸展モーメントの低下現象は再建靭帯の保護というリスク管理の点からも有利であると考えられる。本研究成果は,再建靭帯が未成熟である術後早期での理学療法プログラムの安全性を考える上で重要な情報を提示している。