第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

スポーツ2

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM 第12会場 (5F 502)

座長:小柳磨毅(大阪電気通信大学医療福祉工学部)

運動器 口述

[0129] 歩行時における前十字靭帯再建膝の三次元動作解析

大角侑平1, 井野拓実1, 小竹諭1, 上原桐乃1, 吉田俊教1, 前田龍智2, 鈴木航2, 川上健作3, 鈴木昭二4, 大越康充2 (1.悠康会函館整形外科クリニックリハビリテーション科, 2.悠康会函館整形外科クリニック整形外科, 3.函館工業高等専門学校生産システム工学科, 4.公立はこだて未来大学システム情報科学部複雑系知能学科)

Keywords:前十字靱帯再建術, 三次元動作解析, 歩行

【はじめに,目的】
膝前十字靭帯(ACL)再建術後の長期経過における関節症変化の発生が報告されており,その一因として膝関節の異常運動が指摘されている。動作時における運動学・運動力学的解析は膝関節に生じる機械的ストレスを検討する上で有用であり,関節症変化の発生メカニズム解明の一助になると期待されている。先行研究において,Georgoulisらは歩行時におけるACL再建膝の脛骨回旋角度,膝屈伸角度および内外反角度は健常膝と較べ有意差が認められなかった事を報告した。一方,Websterらは歩行立脚中期におけるACL再建膝の脛骨内旋角度と外的膝内反モーメントは健側と較べ減少していた事を報告した。このようにACL再建膝における運動学・運動力学的変化について統一した見解は得られておらず,特に脛骨の回旋動態については解明されていない。本研究の目的は三次元動作解析装置を用いて歩行時におけるACL再建膝の運動学・運動力学的特徴を明らかにする事である。
【方法】
平成20年4月から平成22年3月までの期間に当院にてACL再建術を実施した症例のうち,術後1年以上が経過し疼痛および膝関節不安定感の自覚がなくスポーツ復帰を果たした19例の再建側と健側を対象とした。ACL再建の術式は全例自家半腱様筋腱を用いた解剖学的一束再建術であった。内訳は男性7例,女性12例,年齢26.4±11.8歳,手術から動作解析実施までの期間は13.7±7.3ヵ月,KT1000における徒手最大ストレス患健差は1.1±0.9mm,そして動作解析と同時期に計測されたACL再建側の等尺性膝伸展筋力は健側比95.2±17.7%,等尺性膝屈曲筋力は健側比87.1±15.8%であった。また健常成人ボランティア20例の40膝を対照群とした。内訳は男性10例,女性10例,年齢26.0±5.7歳であった。全ての対象者はAndriacchiらの方法に準じて体表マーカが貼付され,赤外線カメラ(120Hz)と床反力計(120Hz)により定常歩行が計測された。得られたデータはQualisys Track Manager 3Dにて処理し,ポイントクラスター法により膝関節の6自由度運動を算出した。なお膝完全伸展位の自然立位をゼロ点とした。また逆動力学計算により膝関節の外的モーメント(屈伸,回旋,内外反)を算出した。算出された関節モーメントは対象者ごとに身長と体重で標準化した。得られた各パラメーターは立脚期を100%として時系列を揃え,ACL再建側,健側そして対照群の3群間で波形のピーク値,変化量について比較検討した(Bonferroni法:P<0.017)。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は生命倫理委員会の承認を受けヘルシンキ宣言に準拠し実施された。また全ての対象者に対して本研究に関する説明を口頭および文書で十分に行ったうえ,署名同意を得た。
【結果】
全てのパラメーターにおいてACL再建側の波形は対照群と近似していた。しかし,立脚終期の脛骨内旋モーメントにおいてACL再建側0.025±0.012Nm/Bw×Htは対照群0.042±0.033Nm/Bw×Htに較べ有意に小さかった(P=0.015)。またこの時の膝屈曲角度においてACL再建側12.8±5.9°は対照群9.3±5.2°に較べ大きい傾向が認められた(P=0.032)。荷重応答期の脛骨後方並進移動量はACL再建側,健側ともに1.2±0.7cmであり対照群0.8±0.5cmに較べ大きい傾向が認められた(P=0.026,0.019)。
【考察】
演者らは先行研究により,ACL不全膝の歩行時における適応的代償動作として荷重応答期における膝屈曲角度の減少,立脚期における膝屈伸角度変化量の減少および脛骨後方偏位,立脚終期における脛骨内旋モーメントの減少および膝屈曲角度の増大が認められた事を報告した。本研究結果より,ACL再建側の膝屈伸動態および膝伸展モーメントがほぼ正常化していた事から再建術や術後リハビリテーションの効果がこれらの改善に寄与していた事が考えられた。しかし立脚終期においてACL再建側に認められた脛骨内旋モーメントの減少と膝屈曲角度の増大傾向は演者らのACL不全膝に関する先行研究やFuentesらが報告したACL不全膝に認められるpivot-shift avoidance gaitと同様の所見であった。以上よりACL再建術後も術前の代償動作の一部が残存している可能性が考えられた。また立脚終期における膝屈曲角度の増大傾向と荷重応答期における脛骨後方並進移動量の増大傾向は大腿脛骨関節の軟骨接点を変化させ長期経過における関節症変化の一因となる可能性があると推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果は歩行時におけるACL再建膝の運動学・運動力学的特徴を示した。また再建術後も術前の代償動作の一部が残存する可能性が示唆された。本所見は長期経過における関節症変化の一因となる可能性があり,ACL再建術後のリハビリテーションにおいては歩行動態の正常化にも留意する必要性が示された。