第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

スポーツ2

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM 第12会場 (5F 502)

座長:小柳磨毅(大阪電気通信大学医療福祉工学部)

運動器 口述

[0131] 前十字靱帯再建術後症例におけるジョギング許可直後の運動解析

構井健二1, 小川卓也1, 倉持由惟1, 椎木孝幸1, 横谷祐一郎1, 松尾高行2, 木村佳記3, 境隆弘4, 小柳磨毅5, 中川滋人6 (1.行岡病院リハビリテーション科, 2.大阪行岡医療大学医療学部, 3.大阪大学医学部附属病院リハビリテーション部, 4.大阪保健医療大学保健医療学部, 5.大阪電気通信大学医療福祉工学部, 6.行岡病院スポーツ整形外科)

Keywords:ACL, ジョギング, 運動解析

【はじめに,目的】
前十字靭帯(以下:ACL)再建術後の走動作については,術後半年から1年以上経過した症例を対象とした報告が散見される。しかし,ジョギングを開始した時期に走動作の非対称性を認めることが多く,我々が渉猟し得た範囲ではこの時期の分析を行った研究は見られない。本研究の目的は,ジョギング許可直後の矢状面におけるジョギング動作の運動学的分析を行い,その運動特性を明らかにすることとした。
【方法】
対象は,当院にて骨付き膝蓋腱(BTB)を用いた解剖学的ACL再建術を施行され,ジョギングが許可された10例(男性9名,女性1名,年齢21.5±3.3歳,身長170.4±4.9cm,体重72.8±10.4kg)とした。術後3ヶ月よりジョギングを許可しているが,動作解析時の術後経過期間は100.5±14.9日であった。再建術後はVelcro strap式の膝伸展位装具にて膝関節を軽度屈曲位で10日間固定した後,関節可動域トレーニングを開始した。荷重プログラムは術後14日目から1/3荷重,21日目から2/3荷重,28日目から全荷重とした。動作解析時の膝関節角度は0-135°であり,heel height difference(HHD)は0.5±1.0cmであった。運動課題は,8kg/hでのトレッドミル(Sports Art FITNESS社製T650)上のジョギングとし,2台のビデオカメラ(Panasonic社製NV-GS320)を用いて両側方から撮影した。撮影動画を二次元動作解析システム(東総システム社製ToMoCo-Lite)を用いて,Foot strike(以下:FS),Mid support(以下:MS),Take off(以下:TO),Forward swing(以下:FSw)の各位相における股,膝,足の関節角度と,Support phaseにおける大転子の移動量を解析した。統計学的検定は対応のあるt検定を用いて,有意水準5%未満にて健常側と再建側の比較を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,本研究の主旨と目的を説明し同意を得た。
【結果】
再建側は健常側と比較してFSの膝関節屈曲角度(健常側19.5±5.3°,再建側22.5±4.8°)及び足関節底屈角度(健常側3.1±6.3°,再建側9.2±6.3°)が有意に大きかった(p<0.05)。一方,MSでの膝関節屈曲角度(健常側42.2±5.5°,再建側37.6±6.4°)及び足関節背屈角度(健常側18.1±4.3°,再建側12.6±5.3°)は有意に小さかった(p<0.01)。また,再建側の大転子の垂直方向への移動量(6.3±1.7cm)は,健常側(7.9±1.0cm)と比較し,有意に低値を示した(p<0.01)。FSwにおける膝関節屈曲角度は,健常側(76.0±9.5°)と比較し,再建側(82.1±7.4°)が有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
FSにおいて再建側の膝関節屈曲角度及び足関節底屈角度が大きく,膝関節伸展可動域には健患に差がなかったことから,矢状面の床反力垂直成分を膝関節軸に近づけ,膝伸展モーメントを減少させていると考えられた。さらに,MSにおいて健常側と比較し再建側の膝関節屈曲角度が小さく,大転子の垂直方向への移動量も低値を示したことから膝伸展筋による衝撃吸収能力が低下していると考えられた。先行研究において,ACL再建術後のランニング時における衝撃吸収能力と大腿四頭筋の筋力低下には関連が報告されており,本症例でも膝伸展筋の筋力低下や伸展域での遠心性収縮不全が要因と考えられた。また,MSにおいて足関節背屈が小さかったことから,下腿三頭筋の筋力低下によるankle locker機能の低下も要因と考えられた。FSwにて膝関節屈曲が増大した原因として,健常側支持期の重心位置が低いことから健側よりもRecovery phaseでの膝関節屈曲が必要となったことが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
ACL再建術後症例におけるジョギング許可時期での動作解析により,これまで明らかでなかったSupport phaseにおける膝関節伸展減少と衝撃吸収作用の低下が示唆された。術後早期から再建靭帯への負荷を回避しつつ膝関節伸展域での膝伸展筋の筋力回復と下腿前傾を抑制する足関節底屈筋の機能回復を図ることがパフォーマンスの改善に繋がる可能性があると考えられた。