第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法2

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM 第13会場 (5F 503)

座長:松﨑哲治(専門学校麻生リハビリテーション大学校理学療法学科)

神経 口述

[0133] 急性期脳梗塞患者における自律神経系活動とバイタルサインの関連

金居督之1,2, 久保宏紀1, 北村友花1, 島田真一3, 間瀬教史4, 小野くみ子2, 安藤啓司2 (1.伊丹恒生脳神経外科病院リハビリテーション部, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.伊丹恒生脳神経外科病院脳神経外科, 4.甲南女子大学看護リハビリテーション学部)

Keywords:脳梗塞, 自律神経, バイタルサイン

【はじめに,目的】
急性期脳梗塞患者のリハビリテーションでは十分なリスク管理のもとに,早期離床を行うことが重要なプログラムの一つである。離床を行う際には,特に血圧管理を行うことが重要である。その理由として,急性期脳梗塞患者では脳血流の自動調節能が破綻し,脳血流は血圧に依存すること,血圧調節の一つの因子である自律神経系活動が障害を受けることが挙げられる。急性期脳梗塞患者は安静時より交感神経系活動が優位な状態となり,この状態が続くことによって心血管合併症や転帰不良となるリスクが増加すると報告されている。また,急性期脳梗塞患者の早期離床のリスク管理という側面からみると,安静時の自律神経系活動の異常だけではなく,離床に伴う変化や,それに伴う血圧(BP),心拍数(HR)の変化についての検討が必要であると考えられる。そこで,本研究では比較的早期に離床させる可能性が高い,急性期脳梗塞患者軽症例の安静時の自律神経系活動と離床時の自律神経系活動およびバイタルサインの関連について観察し,安静時の自律神経系活動が早期離床のリスク管理の参考資料となり得るかどうかを検討することを目的とした。
【方法】
対象は医師よりリハビリテーションの離床プログラムが処方された初発のテント上脳梗塞患者14名(年齢:74.7±9.6歳,発症4.0±1.4日,病型:アテローム血栓性8名,ラクナ6名)とした。対象者の重症度は,NIH Stroke Scale(NIHSS)で平均4.6±2.3点であった。測定は安静背臥位(安静時)を3分測定した後,離床時3分(端座位-立位-端座位,それぞれ1分)を測定した。携帯心電計EP-301(Parama-Tech社製)を用いて心電図,HRを経時的に測定した。得られた心電図をコンピュータに取り込み,Lab Chart Pro Heart Rate Variability(AD Instruments社製)により副交感神経系活動の指標であるlnHF,自律神経系活動のバランスの指標であるLF/HFを求めた。また,離床による%変化率(ΔlnHF,ΔLF/HF)を算出した。BPは自動血圧計にて1分毎に測定し,平均血圧を(MAP)を算出した。また,対象者は,自律神経系活動に影響を及ぼす可能性のある服薬や糖尿病性神経障害の既往がなく,心拍変動解析時に問題となる不整脈を認めなかった。統計解析は,対応のあるt検定,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。統計処理には,統計解析ソフト(SPSS Statistics 20)を使用し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言の趣旨に従って研究の目的,方法,予想される結果およびその意義について説明を行い,対象者またはその家族に書面にて同意を得た上で実施した。また,本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た後に実施した。
【結果】
自律神経系活動指標では,lnHFは安静時と比較して離床時が有意に低値を示し(p<0.01),LF/HFは安静時と比較して離床時が有意に高値を示した(p<0.05)。バイタルサインでは,HRは安静時と比較して離床時が有意に高値を示した(p<0.001)が,MAPは有意差を認めなかった。安静時lnHFは離床時lnHFと有意な正の相関を認め(r=0.77,p<0.001),離床時LF/HFと有意な負の相関を認め(r=-0.54,p<0.05),さらに,ΔLF/HFと有意な正の相関を認めた(r=0.80,p<0.001)。また,安静時lnHFは安静時および離床時HRと有意な負の相関を認め(安静時:r=-0.73,離床時:r=-0.71,p<0.01),離床時MAPと有意な負の相関を認めた(r=-0.55,p<0.05)。安静時LF/HFは離床時LF/HFと有意な正の相関を認めた(r=0.94,p<0.001)が,その他の指標との関連は認められなかった。
【考察】
本研究の結果,副交感神経系活動の指標であるlnHFの安静時の値と,離床時lnHF・LF/HFおよびΔLF/HFとの関連が明らかとなり,安静時の副交感神経系活動が高いものほど離床時の副交感神経系活動は高く,離床に伴い交感神経系活動が亢進するが,安静時の副交感神経系活動が低いものは,離床時も低いまま推移することが示唆された。また,離床に伴う自律神経系活動を反映する指標であることが分かった。さらに,安静時lnHFは,離床時HR・MAPと負の相関関係が認められ,安静時の副交感神経系活動が高いものほど,離床時の血圧,心拍数が低値を示すことが分かった。これらの結果から,安静時の自律神経系活動は,離床時のバイタルサインを反映する指標となる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
急性期脳梗塞患者を対象にした離床時の自律神経系活動の評価を行った報告は少ないため,今回のデータを基盤として追跡調査を行うことで,自律神経系活動の障害を呈す可能性のある患者の特定,離床に伴う血圧変動の予測を行う一助となる資料を獲得できることに繋がると考えられる。