[0134] 低栄養が脳卒中患者の歩行自立に与える影響
キーワード:低栄養, 歩行自立, 回復期リハビリテーション病棟
【はじめに,目的】
脳卒中後では,抑うつ状態や摂食・嚥下障害のため栄養補給が不十分となり,体力の低下などをきたす場合がある。急性期病院では入院患者の3~8割程度に栄養障害を認め,急性期に栄養状態が悪いと,肺炎・褥瘡を起こす割合が有意に高く,発症後6ヵ月の生命予後と機能予後が悪いとされている。そこで本研究では,回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟入院時に低栄養状態であった脳卒中患者を対象として,低栄養状態と自立歩行獲得との関係性及びそれに関係する因子について検討した。
【方法】
対象は平成23年11月1日から25年3月31日迄に当院回復期リハ病棟を退院した脳卒中患者415名のうち,65歳以上の低栄養状態にある82名と年齢・性別でマッチングしたコントロール群82名の計164名(年齢77.0±7.0歳,男性90名,女性74名)とした。低栄養状態の定義として,Mini Nutritional Assessment-Short Form(以下,MNA-SF)7点以下かつ血清アルブミン3.5g/dl以下とした。調査項目は以下の4項目について診療録より調査を行った。1)属性:年齢,性別,発症から入院迄の期間,入院期間など,2)入院時評価:認知症,高次脳機能障害,嚥下障害,経口摂取の可否,尿失禁,麻痺重症度,深部感覚障害,握力など,3)栄養評価:入院時のBody Mass Index(以下,BMI)・血清ヘモグロビン,入退院時の体重減少・MNA-SF重症度の変化,4)関連項目:退院時の歩行能力,病棟歩行自立到達時期(以下,自立到達時期)。尚,認知症の有無はMMSE23点以下,嚥下障害の有無は藤島の摂食・嚥下能力のグレードでGr.9以下を有とし,BMIは18.5kg/m2,血清ヘモグロビンは10g/dl,体重減少は体重減少率3%をカットオフとしてカテゴリ化した。統計解析は,低栄養群とコントロール群についてt検定,χ2検定,Kaplan-Meier法(以下,KM法)によるログランク検定で比較分析を行った。さらに低栄養群の歩行自立か否かを目的変数として,ロジステック回帰分析を行った。変数の選択は,ステップワイズ法による変数増減法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,文部科学省・厚生労働省による「疫学研究に関する倫理指針」における「既存資料等のみを用いる観察研究」であり,「研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを必ずしも要しない」場合に該当する。以上のことも踏まえて当院倫理委員会の承諾を受けた。
【結果】
低栄養群とコントロール群の比較では,属性において発症から入院迄の期間と入院期間において低栄養群が有意に長くなっていた。また認知症,嚥下障害,尿失禁,深部感覚障害,麻痺重症度などで有意差を認めた。KM法によるログランク検定の結果では,低栄養群とコントロール群で有意差を認め(p<.0001),低栄養群の自立到達時期が有意に長くなり(低栄養群59.7±40.0日,コントロール群33.1±28.9日),その差は約2倍であった。自立獲得率も低栄養群が低値であった(低栄養群26.8%,コントロール群59.8%)。低栄養群において歩行が自立するか否かに影響する因子としては,深部感覚障害(p値0.0005,オッズ比21.9,95%CI 3.6-228.2),尿失禁(p値0.0244,オッズ比7.5,95%CI 1.3-56.3),認知症(p値0.0330,オッズ比5.9,95%CI 1.2-35.6),嚥下障害(p値0.0356,オッズ比6.0,95%CI 1.1-52.5)の4つの因子が選択された。
【考察】
結果より,低栄養状態が脳卒中患者の歩行自立・自立到達時期に影響を及ぼすことが確認された。脳卒中後に低栄養状態となった患者の自立獲得率は約3割にとどまっており,低栄養でない者の約6割に比べてかなり少ない割合であった。さらに,自立到達時期には低栄養の者は低栄養でない者に比べて約2倍もの期間を要していた。また,従来脳卒中の歩行自立に関係していると報告されている認知症,尿失禁,深部感覚障害の関与は本研究においても示されたが,嚥下障害の寄与が確認されたことは興味深い結果となった。横山らは,嚥下障害では正常嚥下と比較して低栄養が多く,運動・認知機能,ADLが有意に低いと報告している。回復期リハ病棟入院時に嚥下機能に問題がなければ,その後の栄養状態及び全身状態の改善が自立歩行獲得に関係すると推察され,早期からの嚥下障害への介入の必要性を支持する結果となった。
【理学療法研究としての意義】
低栄養の脳卒中患者は,自立歩行獲得に悪影響を及ぼすこと,これには入院時の嚥下機能も関与していることが示唆された。これは回復期リハ病棟の低栄養患者への介入視点として有益な情報となりうると考える。
脳卒中後では,抑うつ状態や摂食・嚥下障害のため栄養補給が不十分となり,体力の低下などをきたす場合がある。急性期病院では入院患者の3~8割程度に栄養障害を認め,急性期に栄養状態が悪いと,肺炎・褥瘡を起こす割合が有意に高く,発症後6ヵ月の生命予後と機能予後が悪いとされている。そこで本研究では,回復期リハビリテーション(以下,リハ)病棟入院時に低栄養状態であった脳卒中患者を対象として,低栄養状態と自立歩行獲得との関係性及びそれに関係する因子について検討した。
【方法】
対象は平成23年11月1日から25年3月31日迄に当院回復期リハ病棟を退院した脳卒中患者415名のうち,65歳以上の低栄養状態にある82名と年齢・性別でマッチングしたコントロール群82名の計164名(年齢77.0±7.0歳,男性90名,女性74名)とした。低栄養状態の定義として,Mini Nutritional Assessment-Short Form(以下,MNA-SF)7点以下かつ血清アルブミン3.5g/dl以下とした。調査項目は以下の4項目について診療録より調査を行った。1)属性:年齢,性別,発症から入院迄の期間,入院期間など,2)入院時評価:認知症,高次脳機能障害,嚥下障害,経口摂取の可否,尿失禁,麻痺重症度,深部感覚障害,握力など,3)栄養評価:入院時のBody Mass Index(以下,BMI)・血清ヘモグロビン,入退院時の体重減少・MNA-SF重症度の変化,4)関連項目:退院時の歩行能力,病棟歩行自立到達時期(以下,自立到達時期)。尚,認知症の有無はMMSE23点以下,嚥下障害の有無は藤島の摂食・嚥下能力のグレードでGr.9以下を有とし,BMIは18.5kg/m2,血清ヘモグロビンは10g/dl,体重減少は体重減少率3%をカットオフとしてカテゴリ化した。統計解析は,低栄養群とコントロール群についてt検定,χ2検定,Kaplan-Meier法(以下,KM法)によるログランク検定で比較分析を行った。さらに低栄養群の歩行自立か否かを目的変数として,ロジステック回帰分析を行った。変数の選択は,ステップワイズ法による変数増減法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,文部科学省・厚生労働省による「疫学研究に関する倫理指針」における「既存資料等のみを用いる観察研究」であり,「研究対象者からインフォームド・コンセントを受けることを必ずしも要しない」場合に該当する。以上のことも踏まえて当院倫理委員会の承諾を受けた。
【結果】
低栄養群とコントロール群の比較では,属性において発症から入院迄の期間と入院期間において低栄養群が有意に長くなっていた。また認知症,嚥下障害,尿失禁,深部感覚障害,麻痺重症度などで有意差を認めた。KM法によるログランク検定の結果では,低栄養群とコントロール群で有意差を認め(p<.0001),低栄養群の自立到達時期が有意に長くなり(低栄養群59.7±40.0日,コントロール群33.1±28.9日),その差は約2倍であった。自立獲得率も低栄養群が低値であった(低栄養群26.8%,コントロール群59.8%)。低栄養群において歩行が自立するか否かに影響する因子としては,深部感覚障害(p値0.0005,オッズ比21.9,95%CI 3.6-228.2),尿失禁(p値0.0244,オッズ比7.5,95%CI 1.3-56.3),認知症(p値0.0330,オッズ比5.9,95%CI 1.2-35.6),嚥下障害(p値0.0356,オッズ比6.0,95%CI 1.1-52.5)の4つの因子が選択された。
【考察】
結果より,低栄養状態が脳卒中患者の歩行自立・自立到達時期に影響を及ぼすことが確認された。脳卒中後に低栄養状態となった患者の自立獲得率は約3割にとどまっており,低栄養でない者の約6割に比べてかなり少ない割合であった。さらに,自立到達時期には低栄養の者は低栄養でない者に比べて約2倍もの期間を要していた。また,従来脳卒中の歩行自立に関係していると報告されている認知症,尿失禁,深部感覚障害の関与は本研究においても示されたが,嚥下障害の寄与が確認されたことは興味深い結果となった。横山らは,嚥下障害では正常嚥下と比較して低栄養が多く,運動・認知機能,ADLが有意に低いと報告している。回復期リハ病棟入院時に嚥下機能に問題がなければ,その後の栄養状態及び全身状態の改善が自立歩行獲得に関係すると推察され,早期からの嚥下障害への介入の必要性を支持する結果となった。
【理学療法研究としての意義】
低栄養の脳卒中患者は,自立歩行獲得に悪影響を及ぼすこと,これには入院時の嚥下機能も関与していることが示唆された。これは回復期リハ病棟の低栄養患者への介入視点として有益な情報となりうると考える。