第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

脳損傷理学療法2

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM 第13会場 (5F 503)

座長:松﨑哲治(専門学校麻生リハビリテーション大学校理学療法学科)

神経 口述

[0135] 脳卒中片麻痺患者における足関節他動背屈時の痙縮の定量的評価

濵田裕幸1,2, 松野大樹1, 長井亮祐1, 吉田雅宣1, 石井大典3, 小林準1, 髙橋修1, 赤星和人1 (1.市川市リハビリテーション病院, 2.千葉大学大学院認知行動生理学, 3.木更津病院)

Keywords:痙縮, 足関節, 定量的評価

【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者の足関節における痙縮の評価は,臨床での定量的な評価方法は不明確であり,他動背屈運動時の抵抗トルク値や速度に依存した筋活動の変化量は明らかとなっていない。そこで我々は,等速度運動装置を用い,健常者の足関節の他動背屈時の抵抗トルク値を測定し,再現性と複数回の連続測定においてもデータ変動がないことを報告した。本研究では,等速度運動装置と表面筋電図を用いて,脳卒中片麻痺患者の足関節他動背屈時の抵抗トルク値を測定し,痙縮を定量的に検出することを目的とした。
【方法】
対象は脳卒中片麻痺患者11名(男性10名,年齢65.3±5.8歳,発症からの期間117.5±58.6日,Brunnstrom stage 中央値4:範囲3から5,Stroke Impairment Assessment Set 運動機能の下肢遠位 中央値3:範囲1から4,Modified Ashworth Scale 中央値1:範囲0-2)と健常者11名(男性9名,年齢31.8±6.2歳)。機器は筋機能評価運動装置(Biodex社製Biodexシステム3)を使用し,麻痺側足関節の他動運動時の抵抗トルク値を3種類の角速度(10・60・120°/秒)にて計測した。計測時の足関節の運動範囲は各被験者の関節可動域に合わせ,最大抵抗トルク値を計測した。測定は5回行い,最大抵抗トルク値の平均値を算出したものをデータとして採用した。同時に,腓腹筋(GC)と前脛骨筋(TA)の他動背屈時の最大筋活動(背景筋活動と痙縮による筋活動)を表面筋電図にて測定した。また,腓腹筋の値は,内側と外側の両筋の平均値を採用した。
統計処理は,抵抗トルク値の角速度間の比較に一元配置分散分析を行い,多重比較検定のBonferroni法を用いた。筋活動の角速度間の比較には,Wilcoxonの順位和検定(Bonferroni補正)を用いた。いずれも有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は市川市リハビリテーション病院の倫理審査委員会に審査を申請し,実験の実施に承認を得た。また,被験者には実験内容を説明し,同意を得て実験を行った。
【結果】
健常者群の平均最大抵抗トルク値は,10°/秒では6.8±1.7N・m,60°/秒では7.1±1.7 N・m,120°/秒では7.2±1.5N・mとなり,各角速度間に有意差は認められなかった。GCの筋活動は,10°/秒では0.22±0.07μv,60°/秒では0.17±0.08μv,120°/秒では0.21±0.13μv,TAの筋活動は10°/秒では0.24±0.16μv,60°/秒では0.21±0.15μv,120°/秒では0.22±0.16μvとなり,各角速度間の比較に両者とも有意差は認められなかった。
脳卒中片麻痺患者群の平均最大抵抗トルク値は,10°/秒では9.9±4.2N・m,60°/秒では11.9±5.3N・m,120°/秒では14.8±6.3N・mとなり,120°/秒と他の角速度間に有意差を認めた(p<0.05)。GCの筋活動は,10°/秒では0.92±0.72μv,60°/秒では1.35±1.39μv,120°/秒では1.92±1.63μvとなり,120°/秒が有意な高値を示した(p<0.05)。TAの筋活動は,10°/秒では1.03±1.9μv,60°/秒では0.97±2.26μv,120°/秒では0.84±1.51μvとなり,有意差は認められなかった。
【考察】
今回の測定方法により,脳卒中片麻痺患者の足関節の痙縮(速度に依存した緊張性伸張反射の亢進状態)を定量的に評価することが可能であった。また,患者群の抵抗トルク値とGCの筋活動ともに60°/秒と120°/秒の間に,差の乖離が大きくなった。これは,筋紡錘からの求心性線維の興奮性上昇が,60°/秒以上の角速度でより高まる可能性が示唆される。今後,角速度間をより狭めた状態での比較や個人差を左右する因子に関して,詳細に調査していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
健常者と脳卒中片麻痺患者の足関節他動背屈時の抵抗トルク値を比較し,定量的な方法を用いて,痙縮の検出が可能であることが確認された。痙縮の病態を明らかにすることや治療法の検討のために,定量的な評価法の確立は不可欠な要素であり,測定法の吟味・検証は非常に重要であると考える。