[0138] 他動的な運動による触覚識別課題が皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響
Keywords:他動的運動, 触角識別課題, 皮質脊髄路
【目的】近年,ブレイン・マシン・インターフェースなどの新たな試みが,重度な運動麻痺を呈した患者をいかに回復させるかという視点に立脚して実施され,その効果も散見される。運動麻痺の回復には,フィードバックの与え方が重要であり,その方法によって一次運動野(M1)を含む皮質脊髄路(CST)の興奮性が変化することが報告されている(Sharma 2012)。そのため,臨床において理学療法士が患者の四肢を操作する際には,その操作の仕方とどのようなフィードバックを与えるかを考慮する必要がある。感覚入力と運動関連領域との関係性については,皮膚電気刺激によるM1の興奮性増加(都丸2003),接触の有無と運動イメージとの関係におけるM1の興奮性増加(Mizuguchi 2011),触覚識別の有無における感覚運動野の活性化(村上2008)などの報告がある。しかし,他動的に四肢を動かして,知覚対象とCSTの興奮性の変化について検討した報告は少ない。本研究は,健常成人を対象に手指を他動的に動かし,触覚情報を識別させる課題がCSTの活動動態に及ぼす影響について,経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を用いて検討した。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年齢25.3±3.6歳)とした。被験者は,椅子座位とし,両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位で安静を保持するよう指示した。課題は,表面素材が異なる4種類の平面パネルを使用し,各課題前に被験者に提示した上で記憶するように指示した。課題は,検者が被験者の右第3指を保持してすべて他動的に動かして実施した。課題1は,1種類のパネルを触れさせる課題とした。課題2は,4種類のパネルからランダムに検者が選択し,被験者にどの素材を触れたか識別させることを要求した。また課題中は,被験者から右手が見えないように台を用いて視覚遮蔽下にて実施した。TMSは,各課題において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは,誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。刺激のタイミングは,筋電図モニターにて筋放電がないことを確認後,対象物に触れさせ他動的に動かし始めてから約2秒後に左M1の手指領域の直上を刺激した。左M1への刺激は,被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Resarch Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定し実施した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時及び各課題中のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各課題時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値を算出した。統計学的処理は,各課題のMEP振幅比の値を対応のあるt検定を用いて比較し,安静時および各課題を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析を用いて比較し,有意な差が得られた場合は,Tukey,s HSD検定を用いて比較した。危険率は,5%を有意性の基準とした。
【説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意の得られた対象者に実験を行った。
【結果】MEP振幅比は,課題1;1.7±0.8,課題2;2.7±0.7であり,課題2は課題1に比較して有意な高い値を示した(P<0.05)。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;75.4±26.4,課題1;100.0±27.2,課題2;100.3±35.0であり,安静時及び各課題間に有意な変化は認められなかった(F(2,24)=2.07,p=0.15)。
【考察】本研究では,他動的に動かし触覚情報を識別させる課題がCSTの興奮性増大に影響することが示唆された。CSTの興奮性変化は,末梢からの感覚入力によって変化することは多数報告されており,単なる入力よりも識別を要求させることがより効率良くCSTの興奮性を変化させる可能性が推察された。一方,背景筋放電量は安静時及び各課題間に有意な差は認めないものの,課題時において高い傾向を示したことは,保持の仕方や動かし方の影響が考えられ,臨床においては考慮する必要性が示唆された。
【理学療法研究としての意義】本研究は,触覚識別の有無が皮質脊髄路の興奮性の変化を検討したものであり,今後の中枢神経疾患における皮質脊髄路の活動動態を検討する上で基礎的な指標となる。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年齢25.3±3.6歳)とした。被験者は,椅子座位とし,両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位で安静を保持するよう指示した。課題は,表面素材が異なる4種類の平面パネルを使用し,各課題前に被験者に提示した上で記憶するように指示した。課題は,検者が被験者の右第3指を保持してすべて他動的に動かして実施した。課題1は,1種類のパネルを触れさせる課題とした。課題2は,4種類のパネルからランダムに検者が選択し,被験者にどの素材を触れたか識別させることを要求した。また課題中は,被験者から右手が見えないように台を用いて視覚遮蔽下にて実施した。TMSは,各課題において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは,誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。刺激のタイミングは,筋電図モニターにて筋放電がないことを確認後,対象物に触れさせ他動的に動かし始めてから約2秒後に左M1の手指領域の直上を刺激した。左M1への刺激は,被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Resarch Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定し実施した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時及び各課題中のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各課題時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値を算出した。統計学的処理は,各課題のMEP振幅比の値を対応のあるt検定を用いて比較し,安静時および各課題を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析を用いて比較し,有意な差が得られた場合は,Tukey,s HSD検定を用いて比較した。危険率は,5%を有意性の基準とした。
【説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意の得られた対象者に実験を行った。
【結果】MEP振幅比は,課題1;1.7±0.8,課題2;2.7±0.7であり,課題2は課題1に比較して有意な高い値を示した(P<0.05)。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;75.4±26.4,課題1;100.0±27.2,課題2;100.3±35.0であり,安静時及び各課題間に有意な変化は認められなかった(F(2,24)=2.07,p=0.15)。
【考察】本研究では,他動的に動かし触覚情報を識別させる課題がCSTの興奮性増大に影響することが示唆された。CSTの興奮性変化は,末梢からの感覚入力によって変化することは多数報告されており,単なる入力よりも識別を要求させることがより効率良くCSTの興奮性を変化させる可能性が推察された。一方,背景筋放電量は安静時及び各課題間に有意な差は認めないものの,課題時において高い傾向を示したことは,保持の仕方や動かし方の影響が考えられ,臨床においては考慮する必要性が示唆された。
【理学療法研究としての意義】本研究は,触覚識別の有無が皮質脊髄路の興奮性の変化を検討したものであり,今後の中枢神経疾患における皮質脊髄路の活動動態を検討する上で基礎的な指標となる。