[0139] 触覚識別課題における入力方法の相違が皮質脊髄路の興奮性に及ぼす影響
キーワード:触覚識別, 経頭蓋磁気刺激, 運動誘発電位
【目的】近年,手指への触覚刺激の入力に伴う感覚運動野(SMC)の応答性増加が寄与し(Schaechter 2011),麻痺側への体性感覚入力が運動機能回復に関与する(Sharma 2012)ことが報告されている。よって,脳損傷患者の手指に対する課題では,対象物との接触を通して一次運動野(M1)を含めた運動関連領域の活性化を伴う課題設定が必要である。他動的な触覚の入力には,固定させた身体に対象物を動かす方法と,固定させた対象物に身体を動かす方法がある。前者の方法では,前頭-頭頂連合野,小脳などの賦活に比べて,M1の賦活が不十分である(Haradaら2004)。一方,後者の方法では,脳活動の検討および前者の方法と比較した報告が少なく,身体を動かす方法が,対象物を動かす方法よりもM1を含めた運動関連領域の賦活に寄与すると仮説立てた。本研究では,健常成人を対象に,他動的な手指への触覚識別課題における入力方法の相違が,皮質脊髄路(CST)の神経活動動態に及ぼす影響について経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を用いて検討した。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年齢25.3±3.6歳)とした。被験者は,椅座位とし,両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位で安静を保持するよう指示した。課題は,表面素材が異なる4種類の平面パネルを使用し,各課題前に被験者に提示して記憶するように指示した。また,検者は素材パネルまたは被験者の右中指DIP関節を把持した状態で中指を他動的に動かし,ランダムに選択した4種類のパネルから,どの素材に触れたか識別することを被験者に要求した。条件Aでは,検者は固定した被験者の指腹に素材パネルを接触させて動かし,どの素材パネルが触れたか識別することを要求した。条件Bでは,検者は固定した素材パネルに被験者の指腹を接触させて動かし,どの素材パネルが触れたか識別することを要求した。課題中は,被験者から右手が見えないように台を用いて視覚遮蔽下にて実施した。TMSは,各課題において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは,誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。刺激のタイミングは,筋電図モニターにて筋放電がないことを確認後,対象物に触れさせ他動的に動かし始めてから約2秒後に左M1の手指領域の直上を刺激した。左M1への刺激は,被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Resarch Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定し実施した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時および各課題中のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各課題時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値を算出した。統計学的処理は,各課題のMEP振幅比の値を対応のあるt検定を用いて比較し,安静時および各課題を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析と,Tukey,s HSD検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした。
【説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意の得られた対象者に実験を行った。
【結果】MEP振幅比は,条件A;1.8±1.2,条件B;2.7±0.7であり,条件Bは条件Aに比較して有意な高い値を示した(p<0.05)。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;74.6±25.0,条件A;91.1±42.3,条件B;115.8±59.0であり,安静時および各条件間に有意な変化は認められなかった(F(2,27)=2.18,p=0.13)。
【考察】条件Aよりも,条件BでMEP振幅比に高い値を示したことについて,自動および他動運動による運動覚の入力課題において,SMCが賦活する(Weiller 1996)ことから,条件Bでは,条件Aに比べてMEP振幅比の増加が認められたと考えられた。さらに,条件Bで,各条件よりも背景筋放電量に有意な差を認めないにもかかわらず,よりCSTの神経活動動態の興奮性が増加したことは,運動覚の入力を伴いながら触覚を識別するという能動的な接触状況が寄与したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,入力方法の相違によって触覚識別課題におけるCSTの神経活動動態の興奮性が変化することを示唆した報告であり,重度な運動麻痺を呈した症例への触覚を用いた課題展開の一助となる。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年齢25.3±3.6歳)とした。被験者は,椅座位とし,両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位で安静を保持するよう指示した。課題は,表面素材が異なる4種類の平面パネルを使用し,各課題前に被験者に提示して記憶するように指示した。また,検者は素材パネルまたは被験者の右中指DIP関節を把持した状態で中指を他動的に動かし,ランダムに選択した4種類のパネルから,どの素材に触れたか識別することを被験者に要求した。条件Aでは,検者は固定した被験者の指腹に素材パネルを接触させて動かし,どの素材パネルが触れたか識別することを要求した。条件Bでは,検者は固定した素材パネルに被験者の指腹を接触させて動かし,どの素材パネルが触れたか識別することを要求した。課題中は,被験者から右手が見えないように台を用いて視覚遮蔽下にて実施した。TMSは,各課題において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは,誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。刺激のタイミングは,筋電図モニターにて筋放電がないことを確認後,対象物に触れさせ他動的に動かし始めてから約2秒後に左M1の手指領域の直上を刺激した。左M1への刺激は,被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Resarch Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定し実施した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時および各課題中のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各課題時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値を算出した。統計学的処理は,各課題のMEP振幅比の値を対応のあるt検定を用いて比較し,安静時および各課題を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析と,Tukey,s HSD検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした。
【説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意の得られた対象者に実験を行った。
【結果】MEP振幅比は,条件A;1.8±1.2,条件B;2.7±0.7であり,条件Bは条件Aに比較して有意な高い値を示した(p<0.05)。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;74.6±25.0,条件A;91.1±42.3,条件B;115.8±59.0であり,安静時および各条件間に有意な変化は認められなかった(F(2,27)=2.18,p=0.13)。
【考察】条件Aよりも,条件BでMEP振幅比に高い値を示したことについて,自動および他動運動による運動覚の入力課題において,SMCが賦活する(Weiller 1996)ことから,条件Bでは,条件Aに比べてMEP振幅比の増加が認められたと考えられた。さらに,条件Bで,各条件よりも背景筋放電量に有意な差を認めないにもかかわらず,よりCSTの神経活動動態の興奮性が増加したことは,運動覚の入力を伴いながら触覚を識別するという能動的な接触状況が寄与したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,入力方法の相違によって触覚識別課題におけるCSTの神経活動動態の興奮性が変化することを示唆した報告であり,重度な運動麻痺を呈した症例への触覚を用いた課題展開の一助となる。