第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動制御・運動学習3

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM ポスター会場 (基礎)

座長:山口智史(慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室)

基礎 ポスター

[0140] 対象物の視覚提示の有無が運動イメージに及ぼす影響(第二報)

水口雅俊, 大植賢治, 竹内奨, 湯川喜裕, 平本美帆, 富永孝紀 (医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション科)

Keywords:運動イメージ, 経頭蓋磁気刺激, 運動誘発電位

【目的】運動イメージとは,過去の経験に基づいて想起される感覚フィードバックを伴わない脳内の心的シミュレーションとされている。運動イメージは,実際の運動実行と同等な運動関連領野が賦活することや皮質脊髄路の興奮性を高める(Kasai 1996)ことが報告されている。また,皮質脊髄路の興奮性の変化については,触覚刺激の入力(Mizuguchi 2011)や,手指の筋収縮をイメージした際に運動誘発電位(MEP)の振幅が増大(Izumi 1995)し,体性感覚などの感覚モダリティの影響を受けるといわれている。しかし,対象物の視覚情報によって運動イメージにどのような影響を及ぼすかについての報告は少ない。今回,接触を想起する物体の視覚提示の有無が運動イメージに与える影響について,経頭蓋磁気刺激(TMS)によるMEPを用いて検討した。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年齢25.3±3.6歳)とした。被験者は,椅子座位とし,両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位で安静を保持するよう指示した。課題は,表面素材の異なる4種類の平面パネルを用いた。検者がパネルの中からランダムに1つ選択し,被験者に提示した後,指腹でパネルに触れた時に得られる感覚と,右中指を内外転させながら触れている時の運動イメージを想起させた。条件は,被験者が提示されたパネルを注視しながらイメージした条件(条件A)と,パネルを被験者に提示し,被験者が確認後にパネルを取り除いた状態でイメージした条件(条件B)の2条件に設定した。また課題中は,被験者からは右手が見えないように台を設置して実施した。TMSは,各課題において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。筋放電がないことをモニターにて確認後,運動イメージを開始するための言語教示から約2秒後に左一次運動野(M1)の手指領域の直上を刺激し測定した。刺激部位は,被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Research Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に決定した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時及び各課題中のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各課題時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値を算出した。統計学的処理は,各課題のMEP振幅比の値を対応のあるt検定を用いて比較し,安静時および各条件を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析と,Tukey,s HSD検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意の得られた被験者に実験を行った。
【結果】MEP振幅比は,条件A:2.0±0.6,条件B:1.6±0.6であった。条件AにおけるMEP振幅比は,条件Bに比較して有意に高い値を示した(p<0.001)。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;83.8±38.3,条件A;96.9±38.6,条件B;96.9±48.2であり,安静時及び各条件間に有意な変化は認められなかった(F(2,27)=0.32,p=0.73)。
【考察】今回,刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値を算出したところ,安静時及び各条件間に有意な変化は認められなかった。また,想起する運動イメージに含まれる対象物の視覚情報が提示された条件Aにおいて,MEP振幅比が高い値を示した。本研究の結果から,対象物の視覚的表象により,運動イメージに必要な触覚や運動感覚といった情報が補完され,短期記憶の負荷を軽減させた状態で運動イメージが想起された結果,皮質脊髄路の興奮性増大に影響を及ぼしたと考えられた。Sharma(2009)は,運動機能を回復させるための条件の一つに皮質脊髄路の興奮性増大を挙げている。そのため,運動イメージを臨床導入する際には,効率よく皮質脊髄路の興奮性を変化させることを目的に,どのように視覚情報を用いるかを考慮する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究において,対象物の視覚情報の入力が,運動イメージ時の皮質脊髄路の興奮性を高めることが示唆された。対象物の視覚情報の入力は短期記憶の負荷を軽減させ,運動イメージをより想起しやすい状態となる可能性が考えられ,臨床において有用であると考えられる。