[0141] 手指の他動的な形状識別の有無が皮質脊髄路の興奮性に及ぼす変化について(第II報)
Keywords:他動的運動, 形状識別, 皮質脊髄路
【はじめに】脳損傷後の機能回復には,麻痺肢の使用頻度に依存することが明らかとされている(Jaillard A 2005)が,臨床では重度な運動麻痺を呈する脳卒中患者に対して,早期から随意的に筋出力を求めた課題を実施出来ないことが多い。近年では,脳損傷後の機能回復に感覚フィードバックが重要視されており(E Lackner 2003),筋への電気刺激(TFES)や振動刺激による運動錯覚が皮質脊髄路の興奮性に増大を認めた報告(Barsi 2008,Forner 2008)などから,随意運動が困難な脳卒中患者に対する臨床展開は拡大を見せている。我々は健常成人を対象に,手指の他動的な対象物への接触に伴う形状識別課題において,皮質脊髄路の神経活動動態に有意な増大を認めたことを経頭蓋磁気刺激装置(TMS)と運動誘発電位(MEP)を用いて報告した(竹内2013)。しかし,課題直前の筋収縮の有無が皮質脊髄路に及ぼした影響を考慮出来ていなかったことが考えられた。本研究では,健常成人において,他動的な形状識別の有無が皮質脊髄路の神経活動動態に及ぼす変化について,TMSによるMEPを用いて検討した。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年25.3±3.6歳)とした。被験者は,椅子座位で両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位とし,安静を保持するように指示した。課題は,形状が異なる4種類の対象物を使用し,各条件前に被験者に提示した上で記憶するように指示した。その後,検者が被験者の右第3指を他動的に動かして,形状に触れさせた。条件Aは,形状を1種類のみ触れさせた。条件Bは,形状が異なる4種類の対象物からランダムに検者が選択し,被験者にどの形状を触れたか識別させることを要求した。課題中は,被験者から右手が見えないように台を設置して実施した。TMSは,各条件において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。対象物に触れさせ,右第3指を他動的に動かしてから約2秒後に左一次運動野の手指領域直上を刺激した。被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Research Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定して実施した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時及び各課題中のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各条件時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電の積分値を算出した。統計学的処理は,各条件のMEP振幅比の値を対応のあるt検定を用いて比較し,安静時および各条件を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析と,Tukey,s HSD検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした。
【説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意の得られた被験者に実験を行った。
【結果】MEP振幅比は,条件A;1.8±0.7,条件B;2.9±1.3であり,条件Bは条件Aに比較して有意な高い値を示した(p<0.01)。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;72.0±24.7,条件A;108.3±45.8,条件B;120.0±64.8であり,安静時及び各課題間に有意な変化は認められなかった(F(2,27)=2.72,p=0.08)。
【考察】条件Aに比較して条件Bにおいて,MEP振幅比は有意に高い値を示した。このことは,条件Aにおいて他動的に手指を対象物に接触させる単なる感覚刺激の入力よりも,形状といった触覚と深部感覚に基づく空間的特徴の識別が要求される条件Bにおいて能動的触覚(アクティブタッチ)の要素が付加されたことで皮質脊髄路の神経活動動態の興奮性を増大させたことが示唆された。一方,背景筋放電は安静時及び各課題間に有意な差は認められなかったものの,課題時において高い傾向を示した。このことは,身体保持の行なわせ方の影響が考えられるため,今後さらに考慮する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究の意義として,単なる他動的な感覚刺激の入力よりも,体性感覚に基づく形状識別課題が皮質脊髄路の神経活動動態の興奮性に関与することから,随意運動が困難な脳卒中患者に対する臨床展開の指標となることが推察された。
【方法】対象は,健常成人10名(男性3名,女性7名,年25.3±3.6歳)とした。被験者は,椅子座位で両上肢は正面に設置したテーブル上に前腕回内位,手指軽度屈曲位とし,安静を保持するように指示した。課題は,形状が異なる4種類の対象物を使用し,各条件前に被験者に提示した上で記憶するように指示した。その後,検者が被験者の右第3指を他動的に動かして,形状に触れさせた。条件Aは,形状を1種類のみ触れさせた。条件Bは,形状が異なる4種類の対象物からランダムに検者が選択し,被験者にどの形状を触れたか識別させることを要求した。課題中は,被験者から右手が見えないように台を設置して実施した。TMSは,各条件において磁気刺激装置(日本光電;SMN-1200)と8の字平型コイルを用い,MEPは誘発電位・筋電図検査装置(日本光電;Neuropack MEB-9400)にて,右第1背側骨間筋から記録した。対象物に触れさせ,右第3指を他動的に動かしてから約2秒後に左一次運動野の手指領域直上を刺激した。被験者のMRI画像より脳表3次元画像を作成し,光学系ナビゲーションシステム(Rouge Research Inc;Brainsight2)を用いて,解剖学的に正確に刺激部位を決定して実施した。刺激強度は,安静時運動閾値の110%とし,安静時及び各課題中のMEPを10~15回ずつ記録すると同時に,刺激直前50ms間の背景筋放電も記録した。MEPの振幅値をもとに安静時に対する各条件時のMEP振幅比と刺激直前50ms間の背景筋放電の積分値を算出した。統計学的処理は,各条件のMEP振幅比の値を対応のあるt検定を用いて比較し,安静時および各条件を要因とした背景筋放電量の積分値を一元配置の分散分析と,Tukey,s HSD検定を用いて比較し,危険率5%を有意性の基準とした。
【説明と同意】本研究は,村田病院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て,被験者に十分な説明を実施し,同意書にて同意の得られた被験者に実験を行った。
【結果】MEP振幅比は,条件A;1.8±0.7,条件B;2.9±1.3であり,条件Bは条件Aに比較して有意な高い値を示した(p<0.01)。刺激直前50ms間の背景筋放電量の積分値は,安静時;72.0±24.7,条件A;108.3±45.8,条件B;120.0±64.8であり,安静時及び各課題間に有意な変化は認められなかった(F(2,27)=2.72,p=0.08)。
【考察】条件Aに比較して条件Bにおいて,MEP振幅比は有意に高い値を示した。このことは,条件Aにおいて他動的に手指を対象物に接触させる単なる感覚刺激の入力よりも,形状といった触覚と深部感覚に基づく空間的特徴の識別が要求される条件Bにおいて能動的触覚(アクティブタッチ)の要素が付加されたことで皮質脊髄路の神経活動動態の興奮性を増大させたことが示唆された。一方,背景筋放電は安静時及び各課題間に有意な差は認められなかったものの,課題時において高い傾向を示した。このことは,身体保持の行なわせ方の影響が考えられるため,今後さらに考慮する必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究の意義として,単なる他動的な感覚刺激の入力よりも,体性感覚に基づく形状識別課題が皮質脊髄路の神経活動動態の興奮性に関与することから,随意運動が困難な脳卒中患者に対する臨床展開の指標となることが推察された。