第49回日本理学療法学術大会

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運動制御・運動学習4

2014年5月30日(金) 11:45 〜 12:35 ポスター会場 (基礎)

座長:平岡浩一(大阪府立大学総合リハビリテーション学部総合リハビリテーション学研究科地域保健学域)

基礎 ポスター

[0145] 二次体性感覚野への経頭蓋直流電気刺激は触覚方位弁別能力を向上する

藤本修平1, 山口智史2, 今法子3, 大須理英子4, 大高洋平1,2, 近藤国嗣1, 田中悟志5 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.慶應義塾大学, 3.京都大学大学院, 4.国際電気通信基礎技術研究所, 5.浜松医科大学)

キーワード:感覚障害, 脳刺激, 体性感覚野

【はじめに,目的】経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は,頭蓋上に貼付した電極から微弱な直流電流を与えることで,非侵襲的に電極下の皮質興奮性を修飾することができる。我々は昨年,一次体性感覚野(S1)へのtDCSが,対側手指の触覚方位弁別能力を向上させることを報告した(Fujimoto et al.,2013)。一方,高次体性感覚野であり頭頂弁蓋部に位置する二次体性感覚野(S2)は,S1と同様に触覚弁別に重要な役割を果たすことが知られている(例えばStevem et al.,2002)。したがって,S2に対してtDCSを適用することで,触覚方位弁別能力を向上できる可能性がある。本研究では,S2へのtDCSによる触覚方位弁別能力向上の可能性について,健常成人を対象とした実験により検討した。
【方法】右利きの健常成人10名(男性7名,女性3名,平均年齢24.9±1.3歳)が実験に参加した。研究デザインは,二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験とし,検査者および参加者には刺激条件をマスクした。触覚方位弁別課題はGrating Orientation Task(GOT)を用いた(Johnson and Phillips,1981)。GOTは,異なる幅(1.5,1.2,1.0,0.75,0.5mm)の縞が刻まれたドーム状の機器(ミユキ技研社製)を用い,検査者がその縞が縦または横となるように被験者の指に当て,参加者は閉眼状態で縦か横かを答える課題である。評価指標はGOTの閾値とした。下降系列で各幅の正答率を求め,規定の式を用いて,75%の正答率を最初に下回った幅から閾値を算出した(Ragert et al.,2008)。tDCSによる刺激条件は,1)陽極電極を左半球S2直上に設置した条件(L-anode),2)陽極電極を右半球S2直上に設置した条件(R-anode),3)偽刺激(Sham)の3条件とし,L-anodeおよびR-anodeでは対側のS2直上に陰極を設置した。偽刺激は,L-anodeと同様の配置で電極を設置した。これらの各条件について,左右の示指のGOTの閾値を評価した。刺激条件の順序および左右示指の評価順序は,順序効果を相殺するためにブロック化した。各刺激条件は,最低3日間以上の間隔をあけて実施した。直流刺激は,DC-Stimulator(NeuroConn社製,電極25cm2)を用いた。L-anode及びR-anodeの刺激強度は2mA,刺激時間は15分とし,Shamは最初の15秒間のみ刺激を行った。各刺激条件で,GOTを刺激前,刺激中,刺激終了後10分に検査した。S2の刺激部位は,光学ナビゲーションシステム(Brainsight2,Rogue Research社製)を用いて個人のMRI解剖画像から同定した。統計解析は,刺激条件と時間経過を要因とした2要因の反復測定分散分析を行い,post-hoc比較に対応のあるt検定(ボンフェローニ補正)を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理審査会の承認後,ヘルシンキ宣言に則り,対象には事前に研究内容を十分に説明し書面にて同意を得た上で,研究を遂行した。
【結果】左右の示指ともに,刺激前では,刺激条件間に差が認められなかった。右示指について,刺激中ではL-anodeはR-anode(p<0.001)およびSham(p<0.001)と比較して有意に閾値が低くなった。刺激終了後10分においても,L-anodeはSham(p=0.028)と比較して有意に閾値が低かった。左示指について,刺激中ではR-anodeはL-anode(p<0.001)およびSham(p<0.001)と比較して有意に閾値が低くなったが,刺激終了後10分ではいずれの刺激条件間にも有意差が認められなかった。
【考察】右半球S2への陽極刺激により左示指の触覚方位弁別能力が向上し,一方左半球S2への陽極刺激により右示指の触覚方位弁別能力が向上するという二重乖離が観察された。今回の実験結果は,1)S2直上へのtDCSは触覚方位弁別能力を向上させること,2)初期感覚野であるS1と同様に高次感覚野であるS2においても触覚弁別に関して大脳半球の対側支配が認められること,の2つの新しい知見をもたらした点で重要である。対側S2直上へのtDCSはS2の皮質興奮性を促進し,その結果として触覚方位弁別能力を向上させたと考えられる。本研究は健常成人を対象としたため,臨床応用を考えるうえで,今後は感覚障害を呈した脳卒中患者などを対象に検討を行っていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】本研究成果は,二次体性感覚野へのtDCSが触覚方位弁別能力を向上させる初めての報告である。tDCSが感覚障害に対する理学療法の一手段として選択できる可能性を示唆した点で意義がある。