[0146] 振動刺激による運動錯覚惹起までの脳神経活動に関する時間的解析の試み
キーワード:振動刺激, 運動錯覚, Microstate segmentation 解析
【はじめに】ニューロリハビリテーションにおいて,振動刺激がもたらす感覚運動情報により惹起される運動錯覚は,運動学習や運動制御システムの再編成へ非常に重要なものとなる。我々は第47回本学術大会にて,実際の運動と運動錯覚が脳機能に及ぼす影響について,脳波μ波成分を神経生理学的指標としたeLORETA解析により神経活動領域と機能的結合に関する検証を行い,感覚運動関連領域に機能的相異を認めたことを報告した。しかし,運動錯覚をもたらす脳内神経ネットワークを詳細に解明する上では,運動錯覚時の脳神経活動を捉えることのみでなく,神経線維連絡で結ばれている遠隔脳領域間に,刺激直後から運動錯覚惹起までの間,どのように“機能的情報の流れ(やり取り)”が行われているのかを時間的側面から脳神経活動を捉えていくことが重要である。さらにこれらの神経活動性と,運動錯覚の程度に影響を及ぼすとされる運動イメージ想起能力との関連性を検証することで,運動錯覚創出のネットワークを解明することができるものと考える。本研究では,振動刺激により運動錯覚が惹起されるまでの脳神経活動をMicrostate segmentation method(Microstate解析)を用いて明らかにするとともに,運動イメージ想起能力との関連性について検討した。
【方法】対象は運動障害・感覚障害を有していない健常者14名(男性8名,女性6名,平均年齢20.2±1.4歳)であった。実験課題条件として,被験者の右上腕二頭筋腱に振動刺激(91.7Hz)を加え(始点),運動錯覚が惹起された時点(終点)で被験者自身にてボタンを押してもらった。始点から終点までの期間(時間)(illusioning duration:ID)計測および脳波計測を行った。脳波記録は日本光電社製Neurofaxを使用し,国際10-20法に基づき両耳朶を基準電極とした18部位よりサンプリング周波数1024Hzにて導出した。課題回数は3回実施し,運動錯覚のaftereffectを考慮し施行間には5分間の休息を取った。IDにおける脳波データを算出し,脳内情報処理過程に伴い脳神経活動の異なった段階を反映する機能的微少状態(microstate)を捉えるMicrostate解析とeLORETA解析を用いて,運動錯覚が惹起されるまでの脳神経活動について時間的空間的解析を行った。さらに,課題前に,Japanese movement imagery questionnaire-revised(以下,JMIQ-R)を用いて運動イメージ想起能力評価を行い,Microstate解析により同定された脳神経活動領域の神経活動性とIDおよびJMIQ-Rとの関連性を検討した。
【説明と同意】対象者全員に対して本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,文章にて同意を得た。
【結果】先行研究に従い運動錯覚が惹起されるまでの時間が長かった2名を除いた12名に対して解析を行った。その結果,IDにおいて機能的情報の流れとして8つのmicrostateが確認され,前頭前野,感覚運動領野,補足運動野,頭頂葉領域における有意に高い神経活動性を認めた。また活動領域とIDおよびJMIQ-Rの関連性において,運動野,補足運動野および頭頂葉の神経活動性とIDの間に有意な負の相関を認め,また補足運動野の神経活動性とJMIQ-Rの間に有意な正の相関を認めた。IDとJMIQ-Rの間には有意な相関を認めなかった。
【考察】Microstate解析により運動錯覚惹起までの脳神経活動を検証した結果,先行研究における実際の運動実行時に関連する活動領域と類似していたが,8つのmicrostateのうち3つに運動野,補足運動野を中心とした神経活動性を認め,さらに頭頂葉との間に特異的な機能的情報の流れを呈したことが明らかとなり機能的差異が存在する可能性が示唆された。補足運動野がJMIQ-Rと正の相関を認めたことに関して,運動イメージは運動錯覚惹起に重要な運動感覚プログラムを貯蔵するとされる本領域に関与することから,運動イメージ想起能力は運動錯覚惹起過程の神経活動に影響を及ぼす可能性が示唆された。また,IDは,JMIQ-Rとの間には相関を認めなかったが,運動野,補足運動野および頭頂葉領域の神経活動性との間には負の相関を認めた。これは補足運動野や運動野などの神経活動を中心とした神経ネットワークが,運動錯覚惹起における機能的情報の流れに関する神経基盤となっている可能性を示唆した。
【理学療法学研究としての意義】非侵襲的脳機能計測法であるMicrostate解析を用いて,振動刺激による運動錯覚創出までの機能的情報の流れを時間的空間的側面から解析し明らかにした。本研究は,神経活動部位のみならず,時系列的にどのように脳内で機能的情報が流れていくのかをネットワークとして捉えそのメカニズムを明らかにしようとするものであり,振動刺激を用いたニューロリハビリテーション介入効果に関する基礎的研究として意義深いと考える。
【方法】対象は運動障害・感覚障害を有していない健常者14名(男性8名,女性6名,平均年齢20.2±1.4歳)であった。実験課題条件として,被験者の右上腕二頭筋腱に振動刺激(91.7Hz)を加え(始点),運動錯覚が惹起された時点(終点)で被験者自身にてボタンを押してもらった。始点から終点までの期間(時間)(illusioning duration:ID)計測および脳波計測を行った。脳波記録は日本光電社製Neurofaxを使用し,国際10-20法に基づき両耳朶を基準電極とした18部位よりサンプリング周波数1024Hzにて導出した。課題回数は3回実施し,運動錯覚のaftereffectを考慮し施行間には5分間の休息を取った。IDにおける脳波データを算出し,脳内情報処理過程に伴い脳神経活動の異なった段階を反映する機能的微少状態(microstate)を捉えるMicrostate解析とeLORETA解析を用いて,運動錯覚が惹起されるまでの脳神経活動について時間的空間的解析を行った。さらに,課題前に,Japanese movement imagery questionnaire-revised(以下,JMIQ-R)を用いて運動イメージ想起能力評価を行い,Microstate解析により同定された脳神経活動領域の神経活動性とIDおよびJMIQ-Rとの関連性を検討した。
【説明と同意】対象者全員に対して本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,文章にて同意を得た。
【結果】先行研究に従い運動錯覚が惹起されるまでの時間が長かった2名を除いた12名に対して解析を行った。その結果,IDにおいて機能的情報の流れとして8つのmicrostateが確認され,前頭前野,感覚運動領野,補足運動野,頭頂葉領域における有意に高い神経活動性を認めた。また活動領域とIDおよびJMIQ-Rの関連性において,運動野,補足運動野および頭頂葉の神経活動性とIDの間に有意な負の相関を認め,また補足運動野の神経活動性とJMIQ-Rの間に有意な正の相関を認めた。IDとJMIQ-Rの間には有意な相関を認めなかった。
【考察】Microstate解析により運動錯覚惹起までの脳神経活動を検証した結果,先行研究における実際の運動実行時に関連する活動領域と類似していたが,8つのmicrostateのうち3つに運動野,補足運動野を中心とした神経活動性を認め,さらに頭頂葉との間に特異的な機能的情報の流れを呈したことが明らかとなり機能的差異が存在する可能性が示唆された。補足運動野がJMIQ-Rと正の相関を認めたことに関して,運動イメージは運動錯覚惹起に重要な運動感覚プログラムを貯蔵するとされる本領域に関与することから,運動イメージ想起能力は運動錯覚惹起過程の神経活動に影響を及ぼす可能性が示唆された。また,IDは,JMIQ-Rとの間には相関を認めなかったが,運動野,補足運動野および頭頂葉領域の神経活動性との間には負の相関を認めた。これは補足運動野や運動野などの神経活動を中心とした神経ネットワークが,運動錯覚惹起における機能的情報の流れに関する神経基盤となっている可能性を示唆した。
【理学療法学研究としての意義】非侵襲的脳機能計測法であるMicrostate解析を用いて,振動刺激による運動錯覚創出までの機能的情報の流れを時間的空間的側面から解析し明らかにした。本研究は,神経活動部位のみならず,時系列的にどのように脳内で機能的情報が流れていくのかをネットワークとして捉えそのメカニズムを明らかにしようとするものであり,振動刺激を用いたニューロリハビリテーション介入効果に関する基礎的研究として意義深いと考える。