[0147] 動作イメージを伴う他者の把持動作観察時の手指筋支配M1興奮性に対する指尖体性感覚刺激の影響について
キーワード:動作イメージ, 経頭蓋磁気刺激(TMS), 多感覚統合
【はじめに,目的】
前回大会において,他者の摘み動作観察時にタイミングを合わせて観察者の手指体性感覚を刺激し,視覚と体性感覚という異なる感覚入力を同時に刺激した場合の観察者の手指筋支配M1の興奮性変化について報告した。
本研究では,他者の摘み動作観察時に積極的に一人称動作イメージを想起させる条件を加え,摘み動作にタイミングを合わせて観察者の手指体性感覚を刺激し,観察者の手指筋支配M1の興奮性変化について検討した。
【方法】
被験者は健常成人10名(22-29歳)とし,安静座位でテーブルに両手を回内位で置き,眼前1mに設置された映像モニターを注目させ,他者が右手の示指と母指で水平U字鋼の摘み動作を行う映像を観察する際に,観察者である被検者の右手第一背側骨間筋(FDI)支配の一次運動野(M1)に8の字コイルを用いて経頭蓋磁気刺激(TMS)を与え運動誘発電位(MEP)を記録した。提示映像は,被験者にとって摘み動作が一人称視点になるように設定し,ビデオカメラで撮影してリアルタイムで被験者の眼前約1mに置いたモニターに映した。水平U字鋼には歪みゲージを貼付し,摘み動作と同期したトリガー信号を導出し,電気刺激(ES)及びTMSを与えた。TMSは各条件で約10秒毎に与えMEP10例を記録した。TMS強度はFDIの安静時閾値の1.2倍とした。ESは示指と母指の指先にバータイプ電極の陰極を当て,1ms矩形波を5ms間隔で5発与えた。ES強度は感覚閾値の約1.3倍とした。ESによる体性感覚の中枢到達時間を考慮し,水平U字鋼の摘み時点から25ms後にTMSを与えた。
映像を見ない安静control条件に加え,体性感覚刺激条件として,1)ESを伴わない他者動作の観察(OBS)条件,2)ESを伴う他者動作の観察(OBS+ES)条件を実施した。また,イメージ条件として,1)他者動作を観察するだけの条件(No-IMAG),2)他者動作の観察時に一人称動作イメージを想起する条件(IMAG)を実施した。イメージ想起の成否については,7名の被験者において条件施行後,6段階のvisual-analog scale(VAS)を用いて内省報告させた。
統計処理は,paired t-test,繰り返しのある2要因分散分析(体性感覚刺激条件×イメージ条件)及びpost-hoc testとしてBonferroni testによる多重比較を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,所属研究機関の倫理委員会の承認を得て実施した。また,被験者には十分な説明を行い書面にて同意を得た。
【結果】
分散分析の結果,体性感覚刺激条件に主効果は見られなかったが(F1,18=0.01,p=0.92),イメージ条件に主効果が認められた(F1,18=8.74,p<0.01)。交互作用は見られなかった(F1,18=2.84,p=0.11)。多重比較の結果,IMAG条件下においてOBS条件-OBS+ES条件間に有意差が認められた(p<0.001)。尚,IMAG条件下のVASはOBS条件,OBS+ES条件間に有意差は認められなかった(t=0.68,p=0.52)。
【考察】
他者の動作観察(視覚)と観察者の体性感覚刺激という異なる感覚入力を同時に刺激した場合,イメージ想起を伴わない観察では,体性感覚を付加しても観察者の手指筋支配M1の興奮性増大は見られなかったが,イメージ想起を伴う観察では体性感覚の付加によってM1の興奮性が高まることが示唆された。この結果は,動作イメージ想起時には動作イメージだけでなく,動作に伴う感覚イメージも動員されるという先行研究の報告を支持するものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
動作の観察模倣に関わる脳内メカニズムが明らかとなることで,より効率的な模倣が可能となる。これは患者だけでなく理学療法士にとっても有意義なことである。本研究はその基礎的知見となるものと思われる。
前回大会において,他者の摘み動作観察時にタイミングを合わせて観察者の手指体性感覚を刺激し,視覚と体性感覚という異なる感覚入力を同時に刺激した場合の観察者の手指筋支配M1の興奮性変化について報告した。
本研究では,他者の摘み動作観察時に積極的に一人称動作イメージを想起させる条件を加え,摘み動作にタイミングを合わせて観察者の手指体性感覚を刺激し,観察者の手指筋支配M1の興奮性変化について検討した。
【方法】
被験者は健常成人10名(22-29歳)とし,安静座位でテーブルに両手を回内位で置き,眼前1mに設置された映像モニターを注目させ,他者が右手の示指と母指で水平U字鋼の摘み動作を行う映像を観察する際に,観察者である被検者の右手第一背側骨間筋(FDI)支配の一次運動野(M1)に8の字コイルを用いて経頭蓋磁気刺激(TMS)を与え運動誘発電位(MEP)を記録した。提示映像は,被験者にとって摘み動作が一人称視点になるように設定し,ビデオカメラで撮影してリアルタイムで被験者の眼前約1mに置いたモニターに映した。水平U字鋼には歪みゲージを貼付し,摘み動作と同期したトリガー信号を導出し,電気刺激(ES)及びTMSを与えた。TMSは各条件で約10秒毎に与えMEP10例を記録した。TMS強度はFDIの安静時閾値の1.2倍とした。ESは示指と母指の指先にバータイプ電極の陰極を当て,1ms矩形波を5ms間隔で5発与えた。ES強度は感覚閾値の約1.3倍とした。ESによる体性感覚の中枢到達時間を考慮し,水平U字鋼の摘み時点から25ms後にTMSを与えた。
映像を見ない安静control条件に加え,体性感覚刺激条件として,1)ESを伴わない他者動作の観察(OBS)条件,2)ESを伴う他者動作の観察(OBS+ES)条件を実施した。また,イメージ条件として,1)他者動作を観察するだけの条件(No-IMAG),2)他者動作の観察時に一人称動作イメージを想起する条件(IMAG)を実施した。イメージ想起の成否については,7名の被験者において条件施行後,6段階のvisual-analog scale(VAS)を用いて内省報告させた。
統計処理は,paired t-test,繰り返しのある2要因分散分析(体性感覚刺激条件×イメージ条件)及びpost-hoc testとしてBonferroni testによる多重比較を行った。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,所属研究機関の倫理委員会の承認を得て実施した。また,被験者には十分な説明を行い書面にて同意を得た。
【結果】
分散分析の結果,体性感覚刺激条件に主効果は見られなかったが(F1,18=0.01,p=0.92),イメージ条件に主効果が認められた(F1,18=8.74,p<0.01)。交互作用は見られなかった(F1,18=2.84,p=0.11)。多重比較の結果,IMAG条件下においてOBS条件-OBS+ES条件間に有意差が認められた(p<0.001)。尚,IMAG条件下のVASはOBS条件,OBS+ES条件間に有意差は認められなかった(t=0.68,p=0.52)。
【考察】
他者の動作観察(視覚)と観察者の体性感覚刺激という異なる感覚入力を同時に刺激した場合,イメージ想起を伴わない観察では,体性感覚を付加しても観察者の手指筋支配M1の興奮性増大は見られなかったが,イメージ想起を伴う観察では体性感覚の付加によってM1の興奮性が高まることが示唆された。この結果は,動作イメージ想起時には動作イメージだけでなく,動作に伴う感覚イメージも動員されるという先行研究の報告を支持するものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
動作の観察模倣に関わる脳内メカニズムが明らかとなることで,より効率的な模倣が可能となる。これは患者だけでなく理学療法士にとっても有意義なことである。本研究はその基礎的知見となるものと思われる。