第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸2

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:渡邉文子(公立陶生病院中央リハビリテーション部)

内部障害 ポスター

[0150] COPD患者における安静時PaO2と歩行中Desaturationの関係と在宅酸素療法導入基準についての検討

藤本由香里1, 沖侑大郎1, 松村拓郎1, 高橋一揮1,2, 金子弘美3, 大平峰子4, 石川朗1 (1.神戸大学大学院保健学研究科, 2.東北文化学園大学医療福祉学部, 3.訪問看護ステーション嫩草, 4.独立行政法人国立病院機構東長野病院)

Keywords:慢性閉塞性肺疾患, 6分間歩行試験, Desaturation

【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者数は世界的に増加している。日本ではCOPDの急性増悪による入院回数および期間の増加による医療費の圧迫が深刻な問題となっており,COPD患者の在宅における適切なケアが望まれる。
COPDの主症状の一つに労作時の低酸素があげられるが,在宅酸素療法(HOT)の保険適応は安静時のPaO2が基準となっている。今回はCOPD患者におけるHOT導入の状況と,6分間歩行試験(6MWT)後のDesaturationとHOT適応基準の関係の調査を目的とした。
【方法】
HOTを導入していない男性COPD患者38名の肺機能,血液ガス,6MWTの結果について解析を実施した。
まず,HOTの適応基準値であるPaO255Torrで対象者を分類した。さらに,6MWT後のDesaturationを歩行終了時のSpO2≦90%と定義し,それぞれの群について分類した。
次に,6MWT後のDesaturationの有無で対象者を分類し,2群間で年齢,BMI,肺機能(VC,%VC,実測FEV1,予測FEV1,FEV1%,%FEV1),血液ガス(pH,PaCO2,PaO2,A-aDO2,SaO2),6MWT(歩行前後の心拍数・修正Borgscale・SpO2,⊿SpO2)の結果について比較した。
統計解析にはSPSS ver.17を使用し,2群間比較にはMann-Whitney U検定を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者全員に研究内容を説明し,書面にて同意を得た。また,調査協力病院の倫理委員会の承認を得た。
【結果】
HOT非導入の38名の平均値は年齢76.0±6.7歳,BMI21.2±3.3,%FEV150.5±20.9%であった。
HOT非導入の38名のうち,11名(29%)がPaO2<55Torrであり,そのうち8名が6MWT後にDesaturationに陥っていた。また,PaO2≧55Torrの27名(71%)のうち,10名が6MWT後にDesaturaitonに陥っていた。
また,18名(47%)が6MWT後にDesaturationに陥り(以下D90群),20名(53%)が6MWT後にDesaturationに陥らなかった(以下ND90群)。2群間の比較(D90群vsND90群,p value)では,%FEV1(48.0±21.4% vs 52.8±20.8%,p=0.047),PaO2(56.3±8.5Torr vs 69.9±12.3Torr,p=0.001),A-aDO2(40.0±12.6Torr vs 29.2±12.5Torr,p=0.014),SaO2(87.8±5.3% vs 92.9±5.5%,p=0.002),歩行前SpO2(94.1±2.1% vs 96.0±1.8%,p=0.005),歩行後SpO2(84.8±4.7% vs 93.9±2.2%,p<0.000),⊿SpO2(9.3±5.0% vs 2.2±2.3%,p<0.000)であり,その他の項目では有意差はなかった。
【考察】
HOT非導入38名のうち安静時のPaO2<55Torrである者が11名存在した。つまり,HOT非導入群の約30%においてHOTの保険適応基準に当てはまるにも関わらず,HOTが導入されておらず,そのうち8名が歩行後にDesaturationに陥っていた。また,PaO2≧55Torrの27名においても,10名が歩行後にDesaturationに陥っており,安静時のPaO2が保たれている場合でも労作時に著しく低酸素の状態になっているケースが多いことが明らかになった。
ND90群20名と比較するとD90群18名のPaO2は有意に低い結果となったが,D90群の平均安静時PaO2は56.3±8.5Torrであり,そのうち10名はPaO2≧55Torrであった。しかし,D90群の歩行後のSpO2の平均値は84.8±4.7%であり,酸素解離曲線にあてはめPaO2に換算すると50Torr前後まで低下していることになる。
また,酸素化の指標であるA-aDO2が2群間で有意差を認め,安静時のPaO2の値に関わらず,A-aDO2が大きいと労作時にDesaturationに陥りやすい可能性が示唆された。
一方で,D90群とND90群間に年齢,BMI,歩行前後の息切れ,6分間歩行距離に有意差はなかったことから,労作時の低酸素状態は自覚症状に乏しい可能性がある。
今回の調査により,安静時のPaO2が保たれている場合でも労作時には著しく低酸素に陥る例が多いことが明らかとなり,加えて,安静時にPaO2が低下していても労作時には低下がない例も見受けられた。よって,安静時のPaO2のみの評価でHOT導入の適切な処方は困難であると思われる。
労作時のDesaturationは症状が乏しく,COPD患者の多くが日常的に低酸素状態に陥っており,肺高血圧症や肺性心などを引き起こし急性増悪の原因の一つになっている可能性もある。本邦では,現在医療費削減のため病院での長期的なフォローが困難な状況である。そのため,訪問リハビリテーションや外来診療など定期的なフォロー時を設け,理学療法士が運動負荷試験を実施することで適切なHOT導入および酸素流量の設定によって,急性増悪の予防,入院回数・期間の減少など費用対効果につながると考える。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法士は一定時間以上の労作時の生理的反応を評価できる唯一の職種として,適切なHOT適応や酸素流量設定のための重要な役割を果たすことができる。本研究は理学療法士が活躍するフィールドの拡大の一端となると考えられる。