第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防3

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:加藤智香子(中部大学生命健康科学部)

生活環境支援 ポスター

[0158] 行動科学の理論を応用した運動指導が地域在住高齢者の運動実施に与える影響

細井俊希, 新井智之, 丸谷康平, 藤田博曉 (埼玉医科大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:行動変容, 運動指導, 地域在住高齢者

【目的】行動科学の理論・モデルに基づく指導は,対象者の行動変容を促すことが明らかとなっている。なかでも,自己決定理論を用いた介入は,精神的健康(うつ・不安・QOLの向上)や身体的健康(禁煙・運動・体重減少・血糖コントロール)に関する行動変容に効果があるとされている。本研究の目的は,自己決定理論を応用した運動指導が,地域在住高齢者の運動の採択と継続に与える影響について明らかにすることである。
【方法】S県M町の老人福祉センターで実施されている健康教室に通う地域在住高齢女性で,週2回以上の運動習慣のない36名(年齢73.4±4.0歳,身長150.7±5.3cm,体重50.9±6.4kg)を対象とした。初回の運動指導から1ヵ月ごと,計7回のセッションを6ヵ月間実施し,1年後フォローアップを行った。評価は,初回と6ヵ月後に,筋力(アウター),筋力(インナー),柔軟性,バランス,持久力の5項目の運動能力チェック,E-SAS(生活のひろがり,転ばない自信,人とのつながり),および健康状態について調査した。また,効果への期待,楽しさ,覚えやすさ,習慣化,継続する自信について,5-リッカートスケールで調査した。計7回のセッションのうち,初回,2回目・4回目・6回目には運動能力チェックを行い,結果をフィードバックした。運動指導は,初回・3回目・5回目に実施した。毎回,筋力(アウター),筋力(インナー),柔軟性,バランス,持久力の5項目について1つずつ,計5つ,総計15の運動を紹介し,運動方法を示した図を配布し,方法を確認しながら行った。対象者には,自己決定理論の要素のひとつである「自律性」の向上を目的とし,紹介した運動の中から継続できそうなものを選択するよう促した。具体的には,「自分が続けられそうな運動を選んで,なるべく毎日実施してください」と説明した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき実施した。また,本研究は,研究者が所属する機関の倫理審査委員会の承認を受けて実施した。本研究対象者には,説明文書を用いて説明し,署名をもって同意を得た。
【結果】6ヵ月後には,96.7%が週2回以上の運動を実施しており,86.7%が週3回以上,36.7%がほぼ毎日運動を行っていた。1年後には,週3回以上の運動実施率は減少したものの,全員が週2回以上の運動を実施していた。運動指導直後,97.2%が効果が期待できると回答していた。また,初回時に比べ6ヵ月後に,覚えやすさ,継続する自信,転ばない自信,人とのつながり,健康状態が向上していた。運動能力もすべての項目で開始時を上回っていた。運動実施率を従属変数,楽しさ,覚えやすさ,習慣化,継続する自信を独立変数として重回帰分析を行った結果,継続する自信のみが抽出された。
【考察】本研究で用いた自己決定理論を応用した運動指導は,高齢者の運動採択ならびに運動実施率の向上に寄与したといえる。また,運動を実施することで,運動能力の向上にもつながったと考える。評価において,初回に比べ6ヵ月後向上した項目は,覚えやすさ,継続する自信,転ばない自信,人とのつながり,健康状態→自らが続けられそうな運動を選択することで運動の継続につながり,それに伴い継続する自信,転ばない自信,健康状態や人とのつながりも向上したと考える。重回帰分析の結果,継続する自信が抽出されたことから,継続する自信を向上することが運動実施率の向上につながると考える。
【理学療法学研究としての意義】介護予防事業や退院時指導で高齢者に運動を指導しても,指導した運動が継続されないことも多い。理学療法士が,行動科学の理論を理解し,それに基づいて運動指導することは,対象者の自主的な運動継続につながり,ひいては医療費の削減につながると考えられる。本研究は,行動科学の理論のひとつである自己決定理論を応用し運動指導することで,地域在住高齢者の運動実施率を向上させた。本研究で実施した運動指導は,理学療法士が運動指導する際に取り入れやすいと思われるため,本研究の意義は大きいと考える。