第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防3

2014年5月30日(金) 11:45 〜 12:35 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:加藤智香子(中部大学生命健康科学部)

生活環境支援 ポスター

[0160] 男性高齢者の歩行時間と外出目的地との関連

藤堂恵美子1,2, 樋口由美1, 今岡真和1, 北川智美1, 平島賢一1, 石原みさ子1, 上田哲也1, 安藤卓1, 水野稔基1 (1.大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科, 2.医療法人マックシール巽病院訪問看護ステーション)

キーワード:男性高齢者, 歩行時間, 外出

【はじめに,目的】
歩行は健康維持・増進に関連する重要な身体活動である。歩行時間の延長には,自宅周辺の近隣環境が歩きやすいことや,外出の目的地を有していることが関連すると報告されている。定年退職後の男性高齢者は外出の目的地が少なく,配偶者以外の他者との交流が乏しいと指摘されており,地域活動や社会活動の参加頻度低下や歩行時間短縮の可能性が考えられる。そこで本研究は,地域在住の男性高齢者を対象に,歩行時間延長の関連要因を検討することを目的とした。
【方法】
大阪府南部に位置するニュータウン一地区内の賃貸集合住宅全戸(1,100世帯)に,無記名自記式の質問紙を配布した。配布時期は平成24年5月,回収期間は平成24年6月から7月であった。調査項目には,1日の合計歩行時間,年齢,居住年数,家族構成,就労の有無,年収,学歴,管理職経験の有無,外出頻度,外出目的地,運動習慣,健康状態,将来意向,生活機能(老研式活動能力指標),友人数や交流頻度,自宅や近隣の環境を含み,それぞれの回答は選択式とした。回収率は59.4%(女性の白紙票を含む),65歳以上の男性高齢者の有効回答数は109であった。
分析は,1日の合計歩行時間別に30分未満群と30分以上群の2群に再分類し,検討項目とクロス集計し,χ2検定を行った。外出目的地は,他者と交流できる目的地(趣味・地域活動,散歩,外食,友人と会う)を「他者と交流できる外出目的地」と定義した。更に,歩行時間延長の関連要因を明らかにするために,歩行時間を目的変数,単変量解析で有意な関連が認められたものを説明変数とし,強制投入したロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とし,全ての統計解析にはSPSS Statistics 20を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究への協力は対象者の自由意志によることを説明し,回収の際は個人が特定されることのないように配慮した。本研究は大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科研究倫理委員会の承認を得た。
【結果】
1日の合計歩行時間が30分未満群は35名(32%),30分以上群が74名(68%)であった。
1人で外出できる者は30分以上群が96%に対し30分未満群は85%で,30分以上群は外出自立者が有意に多かった。老研式活動能力指標の社会的役割項目が4点満点の者は,30分以上群が42%に対し30分未満群は21%で,30分以上群は有意に点数が高かった。外出目的地がある者は30分以上群が87%に対し30分未満群は54%で,30分以上群は外出目的地を有する者が有意に多かった。外出をほぼ毎日している者は30分以上群が88%に対し30分未満群は71%で,30分以上群は外出頻度が有意に高かった。平成23年度税込年収が196~695万円以下の者は30分以上群が49%に対し30分未満群は25%で,30分以上群の所得は有意に高かった。老後の不安を感じている者は30分以上群が74%に対し30分未満群の91%で,30分以上群は不安を感じていない者の割合が有意に高かった。その他の項目は有意差を認めなかった。
歩行時間延長に対するロジスティック回帰分析は,単変量解析で有意であった上記6項目を説明変数とした結果,他者と交流できる外出目的地があることのみが有意な独立関連因子であった(オッズ比3.46,95%信頼区間1.13―10.58)。
【考察】
外出する能力や外出頻度,暮らしぶり(経済性)に関係なく,男性高齢者の歩行時間延長には,「他者と交流できる外出目的地があること」が有意な関連要因であった。そのため,男性高齢者の歩行時間延長に対しては,外出の自立のみを目標とするのではなく,具体的な外出目的地を把握することが重要と考えられた。特に男性高齢者は定年退職後より外出範囲の狭小化が生じている可能性が高いため,地域と連携しながら外出目的地を増やすよう働きかける必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
地域高齢者の歩行時間延長の関連要因を明らかにすることは,生活期リハビリテーションを展開するための重要な知見である。厚生労働省の調査によると,訪問によるリハビリテーションの利用者は身体機能が改善しても,通所系サービス以外の地域活動や社会参加に繋がることが少ないとの指摘がある。外出目的地までの移動方法確立を目標とした多面的なアプローチを行うことができれば,男性高齢者の地域活動や社会参加に結びつくことが期待される。