[0162] 障害高齢女性における転倒後の恐怖動作と身体能力の関連について
Keywords:障害者, 転倒恐怖感, 運動機能
【はじめに,目的】
わが国における地域高齢者の転倒率は柴田らより約10-20%と報告し,Vellasらは転倒により32%の高齢者が転倒恐怖感を抱く。この恐怖はWalkerらより日常の中で高い恐怖感であり,発生頻度はVellasらより地域在住高齢者では32%で女性の方が高いと報告している。そのため,黒柳は転倒により転倒恐怖感を招き,活動量が低下し,転倒しやすい状態を指摘している。しかし,転倒によってどのような動作において恐怖感が増加し,また,その転倒恐怖動作により身体能力にどのような影響を及ぼすかは明らかではない。そのため,地域在住の障害高齢女性に対して,転倒の有無による恐怖動作と身体能力への関連について調査を実施した。
【方法】
2008年11月から2010年11月までの外来患者およびデイケア利用の女性42名を対象者とした。調査項目は,一般情報として年齢,性別,BMI,要介護度,主要疾患,ADL評価のBarthel Index(BI),過去1年間の転倒歴,転倒恐怖感,IADLは,老研式活動能力指標を使用,身体能力評価としてHHDによる膝伸展筋力(アニマ社製ミュースターF-1を使用),快適・最大歩行速度,開眼片脚保持時間(OLS),Functional Reach Test(FRT)およびTime up & go Test(TUG)とした。転倒恐怖感は,Modified Falls Efficacy Scale(MFES)を用い,14動作を転ぶことなく行う自信の程度を調査した。統計的処理としては,転倒歴の有無による各評価項目の比較においてはt検定,構成比比較にはχ2検定,転倒歴の有無別におけるMFESの14動作転倒恐怖感指標と身体能力の相関はPearsonの相関係数を用い,その有意水準は危険率5%以下とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究内容と方法について口頭および書面にて十分に説明を行った後に書面にて同意を得た。なお本研究の内容は,かなめ病院倫理委員会にて承認を受けた。
【結果】
過去1年間の転倒歴の有無により,MFESと身体能力の快適・最大歩行速度およびFRTにおいて有意差を認めるとともに,MFESの動作転倒恐怖感指標において「軽い買い物を行う」,「バスや電車を利用する」および「玄関や勝手口の段差を超す」に有意差を認めた。また,転倒歴の有無における動作転倒恐怖感指標と身体能力の相関では,非転倒群においてMFES総合評点では膝伸展筋力以外の身体能力項目との有意な相関を認めるとともに,その動作項目2,6,7および8を除いた10動作において快適・最大歩行速度およびTUGと相関を認めた。一方,転倒群ではMFES総合評点と最大歩行速度およびTUGとの間で有意な相関を認めたが,わずかに動作項目4,11の転倒恐怖感指標においてほぼ同様の身体能力との有意な相関を認めたこと以外は,相関は認められなかった。
【考察】
本調査より,障害高齢女性では,転倒により転倒恐怖感が増加し,快適・最大歩行速度およびFRTの低下することを認めたが,Liddleらの「転倒恐怖感は転倒歴がある高齢者に強い」とした報告を支持するものであった。また,過去1年の転倒経験が,外出関連の3動作「軽い買い物を行う」,「バスや電車を利用する」および「玄関や勝手口の段差を越す」の転倒恐怖感が有意に大きい値を示した。これらの結果は,転倒恐怖感の増加・残存が,社会的交流の減少,QOL低下,身体活動量低下,ひいては廃用症候群の原因となるとするDeshpandeらの指摘のように,障害高齢女性は転倒により外出関連動作に対して恐怖感が増加し,これにより活動量が低下し,身体活動量の低下を引き起こす可能性が示唆された。今後は,転倒により転倒恐怖感が増加した障害高齢女性に対して,外出関連動作の能力向上介入による恐怖感の改善効果の検証が必要である。また,本研究結果は,転倒歴の有無にかかわらず最大歩行速度とTUGにおいて関連性を認めたが,田井中らの最大歩行速度は転倒と強く関連する,Shumway-CookらのTUGの総合転倒予測率は90%と高感度であるとする報告を支持するものであった。したがって,転倒経験により身体能力や動作に対する自信低下の早期改善のため,転倒恐怖感と関連が高い歩行と複合バランス能力向上が重要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究のような障害高齢女性において,過去1年以内の転倒経験が与える転倒恐怖感の増加する動作および身体能力に与える影響を明らかにした報告は見当たらない。今後の障害高齢女性の転倒,引きこもりおよび廃用予防対策における有用な知見となると考えられる。
わが国における地域高齢者の転倒率は柴田らより約10-20%と報告し,Vellasらは転倒により32%の高齢者が転倒恐怖感を抱く。この恐怖はWalkerらより日常の中で高い恐怖感であり,発生頻度はVellasらより地域在住高齢者では32%で女性の方が高いと報告している。そのため,黒柳は転倒により転倒恐怖感を招き,活動量が低下し,転倒しやすい状態を指摘している。しかし,転倒によってどのような動作において恐怖感が増加し,また,その転倒恐怖動作により身体能力にどのような影響を及ぼすかは明らかではない。そのため,地域在住の障害高齢女性に対して,転倒の有無による恐怖動作と身体能力への関連について調査を実施した。
【方法】
2008年11月から2010年11月までの外来患者およびデイケア利用の女性42名を対象者とした。調査項目は,一般情報として年齢,性別,BMI,要介護度,主要疾患,ADL評価のBarthel Index(BI),過去1年間の転倒歴,転倒恐怖感,IADLは,老研式活動能力指標を使用,身体能力評価としてHHDによる膝伸展筋力(アニマ社製ミュースターF-1を使用),快適・最大歩行速度,開眼片脚保持時間(OLS),Functional Reach Test(FRT)およびTime up & go Test(TUG)とした。転倒恐怖感は,Modified Falls Efficacy Scale(MFES)を用い,14動作を転ぶことなく行う自信の程度を調査した。統計的処理としては,転倒歴の有無による各評価項目の比較においてはt検定,構成比比較にはχ2検定,転倒歴の有無別におけるMFESの14動作転倒恐怖感指標と身体能力の相関はPearsonの相関係数を用い,その有意水準は危険率5%以下とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究内容と方法について口頭および書面にて十分に説明を行った後に書面にて同意を得た。なお本研究の内容は,かなめ病院倫理委員会にて承認を受けた。
【結果】
過去1年間の転倒歴の有無により,MFESと身体能力の快適・最大歩行速度およびFRTにおいて有意差を認めるとともに,MFESの動作転倒恐怖感指標において「軽い買い物を行う」,「バスや電車を利用する」および「玄関や勝手口の段差を超す」に有意差を認めた。また,転倒歴の有無における動作転倒恐怖感指標と身体能力の相関では,非転倒群においてMFES総合評点では膝伸展筋力以外の身体能力項目との有意な相関を認めるとともに,その動作項目2,6,7および8を除いた10動作において快適・最大歩行速度およびTUGと相関を認めた。一方,転倒群ではMFES総合評点と最大歩行速度およびTUGとの間で有意な相関を認めたが,わずかに動作項目4,11の転倒恐怖感指標においてほぼ同様の身体能力との有意な相関を認めたこと以外は,相関は認められなかった。
【考察】
本調査より,障害高齢女性では,転倒により転倒恐怖感が増加し,快適・最大歩行速度およびFRTの低下することを認めたが,Liddleらの「転倒恐怖感は転倒歴がある高齢者に強い」とした報告を支持するものであった。また,過去1年の転倒経験が,外出関連の3動作「軽い買い物を行う」,「バスや電車を利用する」および「玄関や勝手口の段差を越す」の転倒恐怖感が有意に大きい値を示した。これらの結果は,転倒恐怖感の増加・残存が,社会的交流の減少,QOL低下,身体活動量低下,ひいては廃用症候群の原因となるとするDeshpandeらの指摘のように,障害高齢女性は転倒により外出関連動作に対して恐怖感が増加し,これにより活動量が低下し,身体活動量の低下を引き起こす可能性が示唆された。今後は,転倒により転倒恐怖感が増加した障害高齢女性に対して,外出関連動作の能力向上介入による恐怖感の改善効果の検証が必要である。また,本研究結果は,転倒歴の有無にかかわらず最大歩行速度とTUGにおいて関連性を認めたが,田井中らの最大歩行速度は転倒と強く関連する,Shumway-CookらのTUGの総合転倒予測率は90%と高感度であるとする報告を支持するものであった。したがって,転倒経験により身体能力や動作に対する自信低下の早期改善のため,転倒恐怖感と関連が高い歩行と複合バランス能力向上が重要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究のような障害高齢女性において,過去1年以内の転倒経験が与える転倒恐怖感の増加する動作および身体能力に与える影響を明らかにした報告は見当たらない。今後の障害高齢女性の転倒,引きこもりおよび廃用予防対策における有用な知見となると考えられる。