[0163] 家族同居の有無が高齢者の転倒恐怖感と外出状況に及ぼす影響
キーワード:転倒恐怖感, 外出状況, 家族同居
【目的】
平成25年度版高齢社会白書によると,65歳以上の高齢者のいる世帯は全体の4割を占めている。また近年,子との同居は大幅に減少しており,男女ともに独居高齢者が増加傾向を示している。高齢者が住みなれた地域で生活し,周囲との関わりを持ち続けていくためには社会参加の継続が不可欠である。なかでも外出行動は,身体機能の維持のために重要な活動であり,地域保健指導においても重視されている。一方,転倒恐怖感は高齢者にとって一般的な心理的問題であり,身体機能のみならず,社会参加に対しても影響を与えることが報告されている。同居者の有無といった家族背景は,転倒恐怖感を抱える高齢者が外出をする際の重要な要素のひとつであると考えられる。本研究の目的は,地域高齢者における家族同居の有無と転倒恐怖感および外出状況との関連性について検討することである。
【方法】
対象は,認知機能に問題がなく,週1回以上の外出を継続している地域高齢者40名(男性7名・女性33名,平均年齢79.0±6.7歳)とした。同居は,「子またはその家族と同一家屋内に居住していること」と定義し,その有無から対象者を独居群21名と非独居群19名に分類した。日中の同居時間については規定しなかった。転倒恐怖感の測定は,日本語版fall efficacy scale(以下,FES)を用いた。外出状況は,外出頻度:「最近1週間での外出日数」と外出レベル:「最近6カ月間での活動範囲」について,それぞれ4段階の順序尺度により評価した。なお,外出は同伴者の有無を問わないこととした。分析は,両群のFESと外出頻度および外出レベルをMann-Whitney検定により比較した。また,各群におけるFESと外出頻度および外出レベルとの関係についてSpearman順位相関係数を用いて検討した。統計処理にはSPSS ver.12を使用し,いずれも有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
対象者には事前に口頭および書面にて本研究の趣旨および個人情報の保護について説明し,十分な理解を確認した後,書面で承諾を得て実施した。
【結果】
FESは独居群35.7±2.4点,非独居群32.2±4.9点であり有意な差が認められた(P<0.01)。また,外出頻度について両群に差はなかったが,外出レベルについては有意な差が認められ(P<0.05),非独居群は独居群よりも転倒恐怖感は強いが外出レベルは高かった。各群におけるFESと外出頻度/外出レベルとの相関係数は,独居群:外出頻度r=0.64(P<0.01)/外出レベルr=0.71(P<0.01),非独居群:外出頻度r=0.73(P<0.01)/外出レベルr=0.55(P<0.05)であり,すべてにおいて有意な相関が認められた。
【考察】
群間比較の結果,非独居群は独居群よりも転倒恐怖感が強かった。独居群においては,生活維持のため当然家庭内での役割は多く,活動性も高いことがうかがえる。しかし,非独居群においては家庭内での役割は分担されていることが多い。さらに危険を伴う動作については制限されている可能性もあるため,よりダイナミックな動作に対しては恐怖感が強くなると考えられた。外出頻度は両群ともに差はなかったが,外出レベルについては非独居群が有意に高値を示した。非独居群においては,同居家族の存在により外出の機会が増えやすいことに加え,転倒恐怖感が存在していても家族の同伴などによって遠方への外出が可能となっていると推察される。一方,独居群は,非独居群よりも転倒恐怖感と外出レベルとの相関が高く,転倒恐怖感が強いほど外出レベルはより低くなることが示唆された。つまり,独居群においては転倒恐怖感を抱えていても生活維持のための買い物など近隣レベルでの外出は継続されているが,遠方への外出には消極的な傾向にあるということである。本研究より,家族同居の有無は高齢者の転倒恐怖感および外出レベルに影響を及ぼしていることが明らかにされた。高齢者においては,閉じこもりや廃用症候群を予防するために高頻度かつ広範囲での外出が推奨されている。外出行動の促進を検討する際は,家族同居の有無,家族構成,介護者などの家族背景についても熟慮することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】
今後更なる高齢化の一途を辿る本邦において,介護予防や健康増進,そして社会参加に携わる我々理学療法士は,身体機能や動作能力だけでなく外出といった活動面にも着目していかなければならない。活動範囲の狭小化や社会参加の制約などの予防のために外出行動に対してアプローチする際には,家族背景および転倒恐怖感についても適切な介入の必要性があることが示されたことは意義が大きいと思われる。
平成25年度版高齢社会白書によると,65歳以上の高齢者のいる世帯は全体の4割を占めている。また近年,子との同居は大幅に減少しており,男女ともに独居高齢者が増加傾向を示している。高齢者が住みなれた地域で生活し,周囲との関わりを持ち続けていくためには社会参加の継続が不可欠である。なかでも外出行動は,身体機能の維持のために重要な活動であり,地域保健指導においても重視されている。一方,転倒恐怖感は高齢者にとって一般的な心理的問題であり,身体機能のみならず,社会参加に対しても影響を与えることが報告されている。同居者の有無といった家族背景は,転倒恐怖感を抱える高齢者が外出をする際の重要な要素のひとつであると考えられる。本研究の目的は,地域高齢者における家族同居の有無と転倒恐怖感および外出状況との関連性について検討することである。
【方法】
対象は,認知機能に問題がなく,週1回以上の外出を継続している地域高齢者40名(男性7名・女性33名,平均年齢79.0±6.7歳)とした。同居は,「子またはその家族と同一家屋内に居住していること」と定義し,その有無から対象者を独居群21名と非独居群19名に分類した。日中の同居時間については規定しなかった。転倒恐怖感の測定は,日本語版fall efficacy scale(以下,FES)を用いた。外出状況は,外出頻度:「最近1週間での外出日数」と外出レベル:「最近6カ月間での活動範囲」について,それぞれ4段階の順序尺度により評価した。なお,外出は同伴者の有無を問わないこととした。分析は,両群のFESと外出頻度および外出レベルをMann-Whitney検定により比較した。また,各群におけるFESと外出頻度および外出レベルとの関係についてSpearman順位相関係数を用いて検討した。統計処理にはSPSS ver.12を使用し,いずれも有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
対象者には事前に口頭および書面にて本研究の趣旨および個人情報の保護について説明し,十分な理解を確認した後,書面で承諾を得て実施した。
【結果】
FESは独居群35.7±2.4点,非独居群32.2±4.9点であり有意な差が認められた(P<0.01)。また,外出頻度について両群に差はなかったが,外出レベルについては有意な差が認められ(P<0.05),非独居群は独居群よりも転倒恐怖感は強いが外出レベルは高かった。各群におけるFESと外出頻度/外出レベルとの相関係数は,独居群:外出頻度r=0.64(P<0.01)/外出レベルr=0.71(P<0.01),非独居群:外出頻度r=0.73(P<0.01)/外出レベルr=0.55(P<0.05)であり,すべてにおいて有意な相関が認められた。
【考察】
群間比較の結果,非独居群は独居群よりも転倒恐怖感が強かった。独居群においては,生活維持のため当然家庭内での役割は多く,活動性も高いことがうかがえる。しかし,非独居群においては家庭内での役割は分担されていることが多い。さらに危険を伴う動作については制限されている可能性もあるため,よりダイナミックな動作に対しては恐怖感が強くなると考えられた。外出頻度は両群ともに差はなかったが,外出レベルについては非独居群が有意に高値を示した。非独居群においては,同居家族の存在により外出の機会が増えやすいことに加え,転倒恐怖感が存在していても家族の同伴などによって遠方への外出が可能となっていると推察される。一方,独居群は,非独居群よりも転倒恐怖感と外出レベルとの相関が高く,転倒恐怖感が強いほど外出レベルはより低くなることが示唆された。つまり,独居群においては転倒恐怖感を抱えていても生活維持のための買い物など近隣レベルでの外出は継続されているが,遠方への外出には消極的な傾向にあるということである。本研究より,家族同居の有無は高齢者の転倒恐怖感および外出レベルに影響を及ぼしていることが明らかにされた。高齢者においては,閉じこもりや廃用症候群を予防するために高頻度かつ広範囲での外出が推奨されている。外出行動の促進を検討する際は,家族同居の有無,家族構成,介護者などの家族背景についても熟慮することが必要である。
【理学療法学研究としての意義】
今後更なる高齢化の一途を辿る本邦において,介護予防や健康増進,そして社会参加に携わる我々理学療法士は,身体機能や動作能力だけでなく外出といった活動面にも着目していかなければならない。活動範囲の狭小化や社会参加の制約などの予防のために外出行動に対してアプローチする際には,家族背景および転倒恐怖感についても適切な介入の必要性があることが示されたことは意義が大きいと思われる。