第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防4

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:中森寛(社会福祉法人よつば会特別養護老人ホーム風和里)

生活環境支援 ポスター

[0164] 自宅退院を控える入院高齢患者の転倒恐怖感と全般性自己効力感尺度の関連

服部玄徳1, 安井友里1, 松井沙也加1, 吉田祐次1, 西野隆彬1, 林伸嘉1, 中村竜大1, 松本龍也1, 村田明大1, 川村富美1, 上田哲也1, 片田理恵1, 野村日呂美1, 安井美代子2, 當麻俊彦3 (1.八尾徳洲会総合病院リハビリテーション科, 2.八尾徳洲会総合病院看護部, 3.八尾徳洲会総合病院整形外科)

Keywords:自宅退院, 転倒恐怖感, 自己効力感

【はじめに,目的】
近年,高齢者の転倒に関連する問題の一つとして転倒恐怖感が注目されている。高齢者における転倒恐怖感の存在はQOLや身体活動量の低下を引き起こし廃用症候群の原因になると言われている。また,最近では転倒恐怖感を軽減させるため精神心理的・身体的ケアへの関心が高まっている。
入院高齢患者では,自宅退院後の生活が本人の意志によって左右されやすいため,転倒恐怖感の影響を受けやすいと言われている。鈴木らは自宅退院する高齢者の97%に転倒恐怖感が認められたと報告しており,転倒恐怖感は一般的な心理的問題であると述べている。また,PatrellaはADLの変化と転倒恐怖感の変化は独立していたと報告し,従来のリハビリテーションに加えて精神心理面への介入が必要であると述べている。近年,転倒恐怖感の改善には身体機能やADLを高めると同時に精神心理面にも介入することが重要であると言われている。
最近の知見では転倒恐怖感は歩行やバランス能力など様々な身体機能との関連があると報告されている。一方,精神心理機能に関しては抑うつとの関連は報告されているが,その他の精神心理機能との関連性についての報告は少ない。
そこで,本研究の目的は自宅退院を控えた入院高齢患者における,転倒恐怖感と精神心理機能に関連する要因を検討することとする。
【方法】
本研究の対象者は2013年9月15日~11月15日の間に急性期病院から自宅退院し,入院中に理学療法が処方された整形外科疾患を有する65歳以上の高齢者とする。なお,認知機能低下がある者(MMSE 23点以下),入院前に自助具の有無を問わず10m以上の歩行に介助を要した者,研究に対する同意が得られなかった者は除外対象とした。
転倒恐怖感の測定にはModified Falls Efficacy Scale(MFES)を用い,先行研究に従いアンケートによる聞き取りにて実施した。MFESは数ある転倒恐怖感尺度の中で屋内活動に加え屋外活動も評価対象としているため自宅退院を控える本研究の対象者の評価に適していると判断した。また,精神心理機能として気分,自信,意欲の評価を行った。気分は抑うつ尺度(Geriatric Depression Scale短縮版;GDS15),自信は全般性自己効力感尺度(General Self-Efficacy Scale;GSES),意欲は意欲評価尺度(Vitality Index;VI)を用いて,先行研究に従い測定した。なお,これらの評価は主治医の判断により決定した自宅退院日の1~3日前に実施した。
統計学的処理はMFESの得点とGDS15,GSES,VIの関係性をSpearmanの順位相関分析を用いて検討し,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【結果】
本研究の対象者は21名(内女性18名,平均年齢79.2±7.2歳)であった。疾患別による人数の内訳は脊柱疾患8名,上肢骨折1名,下肢骨折6名,人工関節置換術4名,下肢打撲2名であった。
MFESとGSESの得点とに有意な正の相関(r=0.60,p<0.01)がみられた。またGDS15とは有意な負の相関(r=-0.53,p<0.05)を認めた。VIの得点とは有意な相関(r=0.14,p=0.54)はみられなかった。
【考察】
MFESとGDS15との相関は先行研究と同様の結果となった。MFESとGSESに相関がみられたことから転倒恐怖感を軽減させる要因として全般性自己効力感に焦点をあてることが有効と示唆された。近年,身体機能の向上に加えて行動科学的視点から精神心理面へ介入することが転倒恐怖感の改善に有効であると言われており,本研究はこれらを支持する結果となった。
安藤らが行った高齢者の転倒予防に対する個人特性の研究ではGSESが高い人は転倒を肯定的に受け止める傾向,すなわち転倒に対して積極的に取り組もうとする傾向が認められたと報告している。また,岩城らはGSESと運動イメージの正確性に相関があると報告しており,GSESが高いほど運動イメージの正確性が高いと述べている。これらのことからも全般性自己効力感と転倒恐怖感には密接な関係があると考えられる。
一方,VIとは相関がみられなかった。これに関してはVIの点数に天井効果が認められたため,本研究に適切な評価項目ではなかったと考えられる。
本研究の対象者は18名が女性であり性別による検討はできなかった。また,本研究では対象者を整形外科疾患のみとしており,その他の疾患との比較はできなかった。性別や疾患別に比較・検討することで今後さらなる発展の余地があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
転倒恐怖感と精神心理機能との関連性を検討することで転倒恐怖感に対する新たな介入法を考察する。
高齢者のリハビリテーションにおける精神心理機能面への介入の重要性を示し,今後のリハビリテーション発展の一助とする。