[0166] 在宅での転倒予防に対する理学療法の再考
Keywords:転倒予防, 妥当性, 二重課題
【はじめに,目的】
厚生労働省の国民生活基礎調査によると要支援・要介護が必要になった原因の第1位は脳卒中(23.3%)であり,骨折・転倒は9.3%を占める1)。脳卒中患者の転倒による大腿骨頸部骨折の受傷者数は年間約1万件,必要な医療費や在宅サービスなどの費用は年間約1900億円と推計されており2),我が国の社会保障費負担も非常に大きいと考えられる。当院回復期リハビリテーション(以下,回復期リハ)病棟では365日体制でリハビリテーション(以下,リハ)を提供している。その中で院外練習や家屋調査等行なってきたが,退院した患者が在宅で転倒・骨折し,再入院するケースをみかける。このような現状を受け,我々が提供する理学療法が転倒予防に繋がっていないのではないかと思われた。このため,本研究では在宅生活者の転倒状況と転倒の帰結に対しての各種要因を検討し,当院回復期リハスタッフの理学療法プログラムとの適合性を検証した。
【方法】
対象:当院訪問リハ利用の在宅患者(以下,対象者)207名,当院回復期リハスタッフ23名とした。対象者へは質問紙法による無記名式アンケート及びカルテ情報より,1.年齢,2.性別,3.疾患名,4.Functional Independence Measure(以下,FIM)総得点,5.移動手段(以下,1~5項目を基礎情報とする),6.退院後の期間,7.何をしようとして転倒したのかの主に7項目を調査した。また回復期リハスタッフには質問紙による無記名式アンケートにて,在宅復帰後の転倒予防に繋がる理学療法の工夫について調査した。次に退院後1年以内の対象者を研究の対象とし,退院後1年以内の転倒群(35例)と非転倒群(34例)に群分けを行った。対象属性を以下に示す。年齢(転倒群:81.1±8.4歳,非転倒群:80.2±7.8歳),性別(転倒群:男性16例,女性19例,非転倒群:男性16例,女性18例),疾患名(転倒群:脳卒中11例,パーキンソン病4例,その他20例,非転倒群:脳卒中10例,パーキンソン病3例,その他21例),FIM総得点(転倒群:99.1±19.6点,非転倒群:91.8±22.7点),移動手段(転倒群:独歩15例,歩行器6例,その他14例,非転倒群:独歩12例,歩行器4例,その他18例)であった。基礎情報について単変量解析(マン・ホイットニーのU検定,ピアソンのカイ二乗検定)を用い,2群間の比較を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者,及び当院回復期リハスタッフには研究の趣旨を説明し,同意を得た。また当院倫理委員会の承認及び指示に従い研究を行った。
【結果】
基礎情報では転倒群と非転倒群において有意差を認める項目は存在しなかった。対象者へのアンケートの「何をしようとして転倒したのか」の問いでは,ベッド,イスから歩行器,洋服などに手を伸ばす際に転倒しているケースが多く,次に台所での作業中や食器を運ぶ時,扉の開閉動作に転倒するというケースが続いた。次に回復期リハスタッフへの調査で「在宅復帰後の転倒予防に繋がる理学療法の工夫」についての回答は,対象者の転倒理由で多かった内容に対し,即している意見は少数だった。
【考察】
在宅での転倒の帰結における要因は今回調査した内容では抽出されなかった。今回の研究において在宅での転倒は,年齢,性別,疾患,日常生活動作能力,移動手段に影響さている可能性は低いことが示唆される。そこで対象者の転倒内容と回復期リハスタッフの転倒防止に繋がる理学療法の工夫を比較したところ妥当性が低い結果となっていた。在宅生活は応用動作が中心であり,在宅での転倒は二重課題の要素を含む動作が多い状況である。転倒リスクが高い患者では二重課題能力低下を認めるとの報告があり,3-4)今回の調査でも物に手を伸ばして転倒する,物を操作しながらの移動など,在宅の転倒ではその傾向を認めたが,回復期リハでの転倒予防に対する理学療法の工夫は二重課題の要素を含んだプログラムが少なかった。このことが,退院後に転倒し,再入院するケースに繋がっているのではないかと考える。現在,転倒予測の評価はTimed Up and Go TestやFunctional Balance Scale,筋力などが存在している。今後はこれらの評価スケールを用いながら,二重課題能力低下に対した理学療法計画を再考する事が必要であり,これが在宅生活の転倒予防に繋がると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
転倒に関し,院内での理学療法介入方法を再検討し視点を変えていくことで,在宅生活での転倒予防対策に繋げていけるのではないかと考える。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると要支援・要介護が必要になった原因の第1位は脳卒中(23.3%)であり,骨折・転倒は9.3%を占める1)。脳卒中患者の転倒による大腿骨頸部骨折の受傷者数は年間約1万件,必要な医療費や在宅サービスなどの費用は年間約1900億円と推計されており2),我が国の社会保障費負担も非常に大きいと考えられる。当院回復期リハビリテーション(以下,回復期リハ)病棟では365日体制でリハビリテーション(以下,リハ)を提供している。その中で院外練習や家屋調査等行なってきたが,退院した患者が在宅で転倒・骨折し,再入院するケースをみかける。このような現状を受け,我々が提供する理学療法が転倒予防に繋がっていないのではないかと思われた。このため,本研究では在宅生活者の転倒状況と転倒の帰結に対しての各種要因を検討し,当院回復期リハスタッフの理学療法プログラムとの適合性を検証した。
【方法】
対象:当院訪問リハ利用の在宅患者(以下,対象者)207名,当院回復期リハスタッフ23名とした。対象者へは質問紙法による無記名式アンケート及びカルテ情報より,1.年齢,2.性別,3.疾患名,4.Functional Independence Measure(以下,FIM)総得点,5.移動手段(以下,1~5項目を基礎情報とする),6.退院後の期間,7.何をしようとして転倒したのかの主に7項目を調査した。また回復期リハスタッフには質問紙による無記名式アンケートにて,在宅復帰後の転倒予防に繋がる理学療法の工夫について調査した。次に退院後1年以内の対象者を研究の対象とし,退院後1年以内の転倒群(35例)と非転倒群(34例)に群分けを行った。対象属性を以下に示す。年齢(転倒群:81.1±8.4歳,非転倒群:80.2±7.8歳),性別(転倒群:男性16例,女性19例,非転倒群:男性16例,女性18例),疾患名(転倒群:脳卒中11例,パーキンソン病4例,その他20例,非転倒群:脳卒中10例,パーキンソン病3例,その他21例),FIM総得点(転倒群:99.1±19.6点,非転倒群:91.8±22.7点),移動手段(転倒群:独歩15例,歩行器6例,その他14例,非転倒群:独歩12例,歩行器4例,その他18例)であった。基礎情報について単変量解析(マン・ホイットニーのU検定,ピアソンのカイ二乗検定)を用い,2群間の比較を実施した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者,及び当院回復期リハスタッフには研究の趣旨を説明し,同意を得た。また当院倫理委員会の承認及び指示に従い研究を行った。
【結果】
基礎情報では転倒群と非転倒群において有意差を認める項目は存在しなかった。対象者へのアンケートの「何をしようとして転倒したのか」の問いでは,ベッド,イスから歩行器,洋服などに手を伸ばす際に転倒しているケースが多く,次に台所での作業中や食器を運ぶ時,扉の開閉動作に転倒するというケースが続いた。次に回復期リハスタッフへの調査で「在宅復帰後の転倒予防に繋がる理学療法の工夫」についての回答は,対象者の転倒理由で多かった内容に対し,即している意見は少数だった。
【考察】
在宅での転倒の帰結における要因は今回調査した内容では抽出されなかった。今回の研究において在宅での転倒は,年齢,性別,疾患,日常生活動作能力,移動手段に影響さている可能性は低いことが示唆される。そこで対象者の転倒内容と回復期リハスタッフの転倒防止に繋がる理学療法の工夫を比較したところ妥当性が低い結果となっていた。在宅生活は応用動作が中心であり,在宅での転倒は二重課題の要素を含む動作が多い状況である。転倒リスクが高い患者では二重課題能力低下を認めるとの報告があり,3-4)今回の調査でも物に手を伸ばして転倒する,物を操作しながらの移動など,在宅の転倒ではその傾向を認めたが,回復期リハでの転倒予防に対する理学療法の工夫は二重課題の要素を含んだプログラムが少なかった。このことが,退院後に転倒し,再入院するケースに繋がっているのではないかと考える。現在,転倒予測の評価はTimed Up and Go TestやFunctional Balance Scale,筋力などが存在している。今後はこれらの評価スケールを用いながら,二重課題能力低下に対した理学療法計画を再考する事が必要であり,これが在宅生活の転倒予防に繋がると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
転倒に関し,院内での理学療法介入方法を再検討し視点を変えていくことで,在宅生活での転倒予防対策に繋げていけるのではないかと考える。