[0167] 修正歩行異常性尺度の下位項目と転倒リスクの検討
Keywords:地域高齢者, 歩行異常性尺度, 転倒予防
【目的】
修正歩行異常性尺度(GARS-M)は,録画映像を用いて歩行の異常性を0~21点で評定するものである。本邦における本尺度の信頼性と妥当性は検証済であり,これの地域在住高齢者に対する転倒リスク判別能はTimed Up and Go Test(TUG-T)に匹敵する(小林ら2010)。原田ら(2013)は,前向き研究によって,転倒に関する本尺度のカットオフ値が13点以上になることを明らかとした。GARS-Mは歩行分析の観点から採点するので,TUG-T等と比較して,理学療法プランが立てやすいという利点をもっている。今回,地域在住高齢者にGARS-Mを実施した過去のデータ(第45~47回大会で報告)を新たな観点から解析することによって,項目ごとの特性を明らかとし,転倒予防に資する運動療法のあり方を考察したので報告する。
【方法】
対象の包含基準はA病院外来診療の利用者のうち65歳以上で10mの歩行が可能な者とした。除外基準は,1)重度な四肢の麻痺を有する者,2)認知力が低下し意思の疎通に支障があると考えられる者,3)研究の同意が得られない者とした。最終的に26名(平均年齢73.9±5.8歳)を研究にエントリーした。疾患の内訳は骨関節疾患13名,脳血管疾患7名,骨折3名,その他3名であった。データ収集期間は2009年6~7月であった。歩行映像の記録は直線7.6mごとの直行した歩行路を作り,歩行の側面像と前後像が撮影できる位置にデジタルビデオ(69万画素)を置いて行った。歩行は通常のスピードで2つの歩行路それぞれで1往復させ,危険防止のため理学療法士が必ず横についた。動画映像についてGARS-Mによる評価を,対象者と面識のない理学療法士3名によって実施し,総合点および各項目の3者の平均点を解析データとした。総合点によって,0以上9点未満を転倒リスク小群(n=8),9以上13点未満を転倒リスク中群(n=8),13点以上を転倒リスク大群(n=10)として,それぞれの群ごとに,7つの下位項目点の差の比較をおこなった。また,項目ごとに3群の差の比較もおこなった。解析ソフトにはR2.8.1に基づく改変Rコマンダー(http://www.hs.hirosaki-u.ac.jp/~pteiki/)を用い,有意水準は0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究計画は所属施設の倫理審査委員会の承認(#08-19)を得た。また本研究の実施に先立って,対象者に,本研究の意義・方法・不利益等を文書で説明し,文書による同意を得た。
【結果】
群ごとの比較では,どの群も,シャピロ・ウィルク検定で何れかの項目で正規性が棄却されたので,フリードマン検定を行った。リスク小群では,フリードマン検定で有意差が認められたが,ウィルコクソン検定(ホルムの修正)では,項目間で有意差は認められなかった。箱ひげ図を書くと項目3が他よりも点数が高く,項目4と5が他よりも低い傾向にあった。リスク中群でも,同様の結果であった。リスク大群では,フリードマン検定で有意差が認められなかった。項目ごとの比較では,すべての項目で何れかの群で正規性が棄却され,クラスカルワリス検定を行い,すべての項目で有意差が認められた。そのためSteel-Dwass検定で多重比較を実施し,項目2と4と5において,リスク小と中の間でもリスク中と大の間でも有意な差を認めた。
【考察】
転倒リスクが小さい段階から項目3の側方への「よろめき」が悪化する傾向があることがわかった。また,項目2の「勢いのなさ」と項目4の「足の接地」,項目5の「股関節の運動範囲」はリスクの程度を判別するのに有用性があると考えられる。特に,項目4と5は原田ら(2013)のおこなったRasch分析において,悪化の起こりにくい項目であることが明らかにされていて,ここを落とさないことが,転倒リスクを回避するポイントであるとも考えられる。以上より,歩行時の推進力が保たれている間は,主に側方バランスのトレーニングが重要であり,歩行の推進力が低下してきた時点で,前方への重心移動を視点に据えたトレーニングに転換する必要があると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
歩容の評価は,理学療法士に独特な技術の一つである。我々の研究によって,修正歩行異常性尺度を使用すれば,総得点によって転倒リスクを判別するとともに,理学療法のあり方が示唆されることがわかった。本研究は理学療法診断の進展に寄与するものと考えられる。
修正歩行異常性尺度(GARS-M)は,録画映像を用いて歩行の異常性を0~21点で評定するものである。本邦における本尺度の信頼性と妥当性は検証済であり,これの地域在住高齢者に対する転倒リスク判別能はTimed Up and Go Test(TUG-T)に匹敵する(小林ら2010)。原田ら(2013)は,前向き研究によって,転倒に関する本尺度のカットオフ値が13点以上になることを明らかとした。GARS-Mは歩行分析の観点から採点するので,TUG-T等と比較して,理学療法プランが立てやすいという利点をもっている。今回,地域在住高齢者にGARS-Mを実施した過去のデータ(第45~47回大会で報告)を新たな観点から解析することによって,項目ごとの特性を明らかとし,転倒予防に資する運動療法のあり方を考察したので報告する。
【方法】
対象の包含基準はA病院外来診療の利用者のうち65歳以上で10mの歩行が可能な者とした。除外基準は,1)重度な四肢の麻痺を有する者,2)認知力が低下し意思の疎通に支障があると考えられる者,3)研究の同意が得られない者とした。最終的に26名(平均年齢73.9±5.8歳)を研究にエントリーした。疾患の内訳は骨関節疾患13名,脳血管疾患7名,骨折3名,その他3名であった。データ収集期間は2009年6~7月であった。歩行映像の記録は直線7.6mごとの直行した歩行路を作り,歩行の側面像と前後像が撮影できる位置にデジタルビデオ(69万画素)を置いて行った。歩行は通常のスピードで2つの歩行路それぞれで1往復させ,危険防止のため理学療法士が必ず横についた。動画映像についてGARS-Mによる評価を,対象者と面識のない理学療法士3名によって実施し,総合点および各項目の3者の平均点を解析データとした。総合点によって,0以上9点未満を転倒リスク小群(n=8),9以上13点未満を転倒リスク中群(n=8),13点以上を転倒リスク大群(n=10)として,それぞれの群ごとに,7つの下位項目点の差の比較をおこなった。また,項目ごとに3群の差の比較もおこなった。解析ソフトにはR2.8.1に基づく改変Rコマンダー(http://www.hs.hirosaki-u.ac.jp/~pteiki/)を用い,有意水準は0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究計画は所属施設の倫理審査委員会の承認(#08-19)を得た。また本研究の実施に先立って,対象者に,本研究の意義・方法・不利益等を文書で説明し,文書による同意を得た。
【結果】
群ごとの比較では,どの群も,シャピロ・ウィルク検定で何れかの項目で正規性が棄却されたので,フリードマン検定を行った。リスク小群では,フリードマン検定で有意差が認められたが,ウィルコクソン検定(ホルムの修正)では,項目間で有意差は認められなかった。箱ひげ図を書くと項目3が他よりも点数が高く,項目4と5が他よりも低い傾向にあった。リスク中群でも,同様の結果であった。リスク大群では,フリードマン検定で有意差が認められなかった。項目ごとの比較では,すべての項目で何れかの群で正規性が棄却され,クラスカルワリス検定を行い,すべての項目で有意差が認められた。そのためSteel-Dwass検定で多重比較を実施し,項目2と4と5において,リスク小と中の間でもリスク中と大の間でも有意な差を認めた。
【考察】
転倒リスクが小さい段階から項目3の側方への「よろめき」が悪化する傾向があることがわかった。また,項目2の「勢いのなさ」と項目4の「足の接地」,項目5の「股関節の運動範囲」はリスクの程度を判別するのに有用性があると考えられる。特に,項目4と5は原田ら(2013)のおこなったRasch分析において,悪化の起こりにくい項目であることが明らかにされていて,ここを落とさないことが,転倒リスクを回避するポイントであるとも考えられる。以上より,歩行時の推進力が保たれている間は,主に側方バランスのトレーニングが重要であり,歩行の推進力が低下してきた時点で,前方への重心移動を視点に据えたトレーニングに転換する必要があると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
歩容の評価は,理学療法士に独特な技術の一つである。我々の研究によって,修正歩行異常性尺度を使用すれば,総得点によって転倒リスクを判別するとともに,理学療法のあり方が示唆されることがわかった。本研究は理学療法診断の進展に寄与するものと考えられる。