[0169] 理学療法学を学ぶ学生の職業意識に関する調査研究~医療系と福祉系職場の比較を通して~
キーワード:職業意識, 医療系職場, 福祉系職場
【はじめに】
近年,介護保険領域での理学療法士(以下,PT)のニーズは高まっている。今後は,維持期(介護保険領域)での需要が大多数を占めることが予測されているが,現状では70%以上のPTが病院・診療所に勤めている。この状況下で新たに免許を取得したPTが病院・診療所等に就職することは,より一層厳しい時代になってくると考えられる。こうした中で理学療法学を学んでいる学生の職業意識を理解しておくことは,養成校として就職につながる効果的な理学療法教育を遂行する上で重要だと考えられる。本調査は,学生が持っている医療系職場と福祉系職場についての職業意識の相違点の学年ごとの傾向を把握することを目的とした。
【方法】
対象は,K大学理学療法専攻1年生(男性20名,女性21名),4年生(男性14名,女性28名)を対象とした。方法は,質問紙を用いた横断的調査を2013年9月24日~10月1日の期間に実施した。職業意識については,若林らによって作成された職業志向尺度(1983)を活用し,合わせて学年及び性別を調査内容とした。この尺度は仕事の条件や期待,好みが概念的内容となっているもので,本調査では仕事のやりがい等の職務挑戦・専門職意識14項目と給与,職場環境等の労働条件の7項目に着目し,質問項目ごとに4段階尺度で評定するように設定した。そして1,4年生それぞれの学年における医療系職場と福祉系職場の2条件間での比較のために,各職場に対して同様の質問項目を用いて回答を求めた。なお,本調査では1年生の理解を考慮し,医療系職場を急性期や回復期の病院および診療所,福祉系職場は介護保険領域下での職域として訪問及び通所リハビリテーション,介護老人保健施設,介護老人福祉施設を位置づけた。統計学的解析には,1,4年生の各学年ごとの医療系職場と福祉系職場の2条件間での職業意識に関する傾向と差異を明らかにするために,各質問項目に対してWilcoxonの符号順位検定を行なった。なお,解析には,SPSS Statistics ver.20 for Macを使用した。
【倫理的配慮】
各対象者には事前に口頭および文書にて本調査の趣旨と目的を説明し,同意が得られた場合のみ回答を求めた。本調査は,演者の所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:413)。
【結果】
1年生では,職務挑戦・専門職意識の「自分の力で何かを成し遂げる」や「仕事を通じ勉強し成長する機会」等の5項目と労働条件の「安定した会社や勤め先であること」等の5項目にて医療系職場と福祉系職場に有意差は認められなかった。しかし,「仕事上の責任の重さ」や「仕事の専門性」,「仕事に対する周囲の期待」等の職務挑戦・専門職意識9項目と労働条件の「高い給与やボーナス」は医療系職場が有意に高値であった。また,労働条件の「仕事の気楽さ」のみ福祉系職場が有意に高値であった。
4年生では,職務挑戦・専門職意識の「自分の力で何かを成し遂げる」等の3項目と労働条件の「休日の数・勤務時間の短さ」にて職場間での有意差は認められなかった。しかし,1年生の結果でみられた9項目と「仕事を通じ勉強し成長する機会」を合わせた職務挑戦・専門職意識10項目及び「高い給与やボーナス」「安定した会社や勤め先であること」等の労働条件の5項目は医療系職場が有意に高値であった。また,「仕事が自由に任される機会」と「仕事の気楽さ」のみ福祉系職場が有意に高値であった。職業挑戦・専門職意識,労働条件ともに医療系職場についての職業意識が高い傾向を示しているが,4年生にその傾向が強く,労働条件の質問項目にて顕著であった。
【考察】
1,4年生ともに職務挑戦・専門職意識について,福祉系職場に比べて医療系職場の職業意識が高い傾向が示され,医療系職場は仕事の専門性や将来性,責任があり,福祉系職場は仕事が自由で気楽だと学生は捉えていることも明らかとなった。さらに4年生では,特に福祉系職場の給与や環境,評判等の労働条件に関する職業意識が低いことが分かった。4年生は大学での講義・実習を多く経験し,臨床実習も経ているため,各職場における職業意識が明確化し,差異も大きくなったのではないかと考えられる。今後の職域別の需要を考慮すると,医療系と福祉系職場の職業意識の差異を小さくするために,カリキュラムや実習施設,実習形態の検討,学生に対する福祉系職場の具体的な情報提供等が必要だと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法学を学んでいる学生の学年ごとの職場の違いによる職業意識の相違と傾向を把握することができた。理学療法教育を実践する上で意義があると考えられる。
近年,介護保険領域での理学療法士(以下,PT)のニーズは高まっている。今後は,維持期(介護保険領域)での需要が大多数を占めることが予測されているが,現状では70%以上のPTが病院・診療所に勤めている。この状況下で新たに免許を取得したPTが病院・診療所等に就職することは,より一層厳しい時代になってくると考えられる。こうした中で理学療法学を学んでいる学生の職業意識を理解しておくことは,養成校として就職につながる効果的な理学療法教育を遂行する上で重要だと考えられる。本調査は,学生が持っている医療系職場と福祉系職場についての職業意識の相違点の学年ごとの傾向を把握することを目的とした。
【方法】
対象は,K大学理学療法専攻1年生(男性20名,女性21名),4年生(男性14名,女性28名)を対象とした。方法は,質問紙を用いた横断的調査を2013年9月24日~10月1日の期間に実施した。職業意識については,若林らによって作成された職業志向尺度(1983)を活用し,合わせて学年及び性別を調査内容とした。この尺度は仕事の条件や期待,好みが概念的内容となっているもので,本調査では仕事のやりがい等の職務挑戦・専門職意識14項目と給与,職場環境等の労働条件の7項目に着目し,質問項目ごとに4段階尺度で評定するように設定した。そして1,4年生それぞれの学年における医療系職場と福祉系職場の2条件間での比較のために,各職場に対して同様の質問項目を用いて回答を求めた。なお,本調査では1年生の理解を考慮し,医療系職場を急性期や回復期の病院および診療所,福祉系職場は介護保険領域下での職域として訪問及び通所リハビリテーション,介護老人保健施設,介護老人福祉施設を位置づけた。統計学的解析には,1,4年生の各学年ごとの医療系職場と福祉系職場の2条件間での職業意識に関する傾向と差異を明らかにするために,各質問項目に対してWilcoxonの符号順位検定を行なった。なお,解析には,SPSS Statistics ver.20 for Macを使用した。
【倫理的配慮】
各対象者には事前に口頭および文書にて本調査の趣旨と目的を説明し,同意が得られた場合のみ回答を求めた。本調査は,演者の所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:413)。
【結果】
1年生では,職務挑戦・専門職意識の「自分の力で何かを成し遂げる」や「仕事を通じ勉強し成長する機会」等の5項目と労働条件の「安定した会社や勤め先であること」等の5項目にて医療系職場と福祉系職場に有意差は認められなかった。しかし,「仕事上の責任の重さ」や「仕事の専門性」,「仕事に対する周囲の期待」等の職務挑戦・専門職意識9項目と労働条件の「高い給与やボーナス」は医療系職場が有意に高値であった。また,労働条件の「仕事の気楽さ」のみ福祉系職場が有意に高値であった。
4年生では,職務挑戦・専門職意識の「自分の力で何かを成し遂げる」等の3項目と労働条件の「休日の数・勤務時間の短さ」にて職場間での有意差は認められなかった。しかし,1年生の結果でみられた9項目と「仕事を通じ勉強し成長する機会」を合わせた職務挑戦・専門職意識10項目及び「高い給与やボーナス」「安定した会社や勤め先であること」等の労働条件の5項目は医療系職場が有意に高値であった。また,「仕事が自由に任される機会」と「仕事の気楽さ」のみ福祉系職場が有意に高値であった。職業挑戦・専門職意識,労働条件ともに医療系職場についての職業意識が高い傾向を示しているが,4年生にその傾向が強く,労働条件の質問項目にて顕著であった。
【考察】
1,4年生ともに職務挑戦・専門職意識について,福祉系職場に比べて医療系職場の職業意識が高い傾向が示され,医療系職場は仕事の専門性や将来性,責任があり,福祉系職場は仕事が自由で気楽だと学生は捉えていることも明らかとなった。さらに4年生では,特に福祉系職場の給与や環境,評判等の労働条件に関する職業意識が低いことが分かった。4年生は大学での講義・実習を多く経験し,臨床実習も経ているため,各職場における職業意識が明確化し,差異も大きくなったのではないかと考えられる。今後の職域別の需要を考慮すると,医療系と福祉系職場の職業意識の差異を小さくするために,カリキュラムや実習施設,実習形態の検討,学生に対する福祉系職場の具体的な情報提供等が必要だと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法学を学んでいる学生の学年ごとの職場の違いによる職業意識の相違と傾向を把握することができた。理学療法教育を実践する上で意義があると考えられる。