第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 教育・管理理学療法 ポスター

臨床教育系2

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM ポスター会場 (教育・管理)

座長:加藤宗規(了德寺大学健康科学部理学療法学科)

教育・管理 ポスター

[0173] 長期臨床実習を控えた学生の目標に関する意識調査

中前喬也, 静間久晴 (北大阪警察病院リハビリテーション技術科)

Keywords:臨床実習, 学生, 目標

【はじめに,目的】
ブルームら米国の心理学者たちは,教育活動を通じて追求される教育目標を認知領域・情意領域・精神運動領域に分け,体系化している。理学療法士養成校のカリキュラムにおける臨床実習は,精神運動領域の時間配分が圧倒的に大きい(2007,中川)と述べられている。しかし,現行の臨床実習では課題を一つ一つ消化しなければ次に進めない,いわゆる「積み上げ式教育」(2007,中川)や,患者担当制による学生の経験不足,実習内容の知識偏重型が多い(2013,射場)ことが言われており,学生に精神運動領域を習得させる体制が十分とは言えない。
この原因として,臨床実習指導者がその習得のための臨床実習を展開する意識や,学生がそれを習得しようとする意識が低い可能性がある。そこで,今回は学生側へ臨床実習に対する意識を調査することにした。
【方法】
当院が臨床実習施設となっている養成校のうち,研究協力を依頼し,了承のあった養成校に所属する学生と当院で臨床実習を受けている学生に質問紙調査を自由記載方式にて行った。
調査期間は2013年5月31日~同年8月20日までであった。
質問紙調査票を各養成校に郵送し,マニュアルをもとに教員が学生に調査を実施した。当院で臨床実習を受けている学生には,実習初日に筆頭演者が調査を実施した。調査内容は学生が考える臨床実習の目標とした。
分析は,ベレルソンの内容分析の手法を用い,当院に所属する理学療法士1名によるカテゴリー分類への一致率をスコットの式にて算出し,分析結果の信頼性を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本調査は無記名・自由記載による調査であることや,仮に不参加となった場合も不利益を被らないという説明を通して,対象者の匿名性と任意の参加を保証した。
【結果】
配布した107部の質問紙のうち,回収されたのは100部(回収率93.5%,有効回答100部)であった。このうち最終実習前あるいは最終実習初日にアンケートを実施した89部(男性60名,女性29名,平均年齢男性24.7±4.5歳,女性22.4±1.3歳,全体の平均23.9±3.9歳)を抽出した。
その記述は,268記録単位に分割され,除外対象を除く212記録単位を分析対象とした。分析の結果,26カテゴリーが形成された。カテゴリー分類への一致率は73.5%であり,26カテゴリーは信頼性を確保していることを示した。
カテゴリーの内訳は,適切な治療プログラムの立案・実施ができる13.2%,患者・職員とのコミュニケーション能力の向上12.7%,臨床思考能力の向上9.9%,認知領域の向上9.4%,評価能力の向上7.5%,動作観察・分析から問題点や評価項目を挙げる7.1%,理学療法プロセスが実施できる7.1%,評価・治療技術の向上5.2%,自身の積極性の改善3.3%,治療の効果判定と治療の再立案2.8%,リスク管理ができる2.8%,患者に寄り添って物事を考える2.8%,学生の帰宅後の自己管理の徹底2.4%,患者に触れる機会を多くもつ2.4%,実習先の特徴に合わせて学習する1.9%,実習を継続すること1.4%,医療従事者としての態度の改善1.4%,同じ誤り・失敗は繰り返さない努力0.9%,積極的に見学をする0.9%,現在まで培った経験・知識を次の実習で生かす0.9%,良好な対人関係を確立する0.9%,患者とセラピストの距離間をつかむ0.9%,理学療法士の理想像を追求する努力0.5%,介助技術の向上0.5%,周囲への配慮の徹底0.5%,患者に必要とされたい0.5%であった。
【考察】
臨床実習教育の手引き(第5版)によると,精神運動領域は一般的には技術と言われている。今回,形成されたカテゴリーの中で技術に相当するのは,適切な治療プログラムの立案・実施ができる,評価能力の向上,理学療法プロセスが実施できる,評価・治療技術の向上,患者に触れる機会を多くもつ,介助技術の向上であり,総記録単位の35.9%を占めた。約4割が精神運動領域についての記録単位であり,臨床実習が精神運動領域の習得に比重をおいたカリキュラムにも関わらず,その領域に対する学生の意識が低い可能性が示された。また,理学療法のプロセス全体を学ぼうとする記録単位は7.1%のみであり,理学療法の流れを経験しようとする意識も低いことが示唆された。学生には理学療法の流れを意識させた上で,患者診療を経験させるクリニカル・クラークシップの臨床実習教育方法が必要と思われる。
今回の調査結果より得られた学生の意識がどのような教育の背景によって生まれているのか,臨床実習指導者や養成校の臨床実習教育方針など,学内外を含めた全体的な調査が今後必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
学生の臨床実習に対する意識を明らかにすることで,よりよい学内教育方法や臨床実習教育方法を模索することができる。