[0180] 人工股関節全関節置換術術後患者の股関節への意識の程度を評価するための日本語版Forgotten joint Scoreの再現性と妥当性
Keywords:人工股関節全置換術, 股関節への意識, 評価尺度
【はじめに,目的】
近年,人工関節置換術術後患者において,患者立脚型アウトカムを用いた評価が主流となってきた。Behrendら(2012)は,日常生活で手術した関節を意識しないでいることが「究極のゴール」であるとし,人工膝・股関節置換術術後患者に対する評価尺度としてForgotten joint score(FJS-12)を開発した。我々は,日本においても手術した関節を意識せずに生活できていることは,臨床成績において着目するべき点であると考え,日本語版FJS-12(JFJS-12)を作成した。そして,本邦の人工膝関節置換術術後患者における高い再現性と妥当性について報告した(古谷,2012)。本研究目的は人工股関節全置換術(THA)術後患者におけるJFJS-12の適用性を判断するために,身体機能や,生活の質(QOL)に対する満足度との関連を含め,再現性と妥当性を検討した。
【方法】
JFJS-12は就寝時,歩行,階段昇降,床からの立ち上がり,スポーツ活動中などの12項目の日常生活動作について,「手術した股関節をどのくらい気にしていますか?」という質問に対し,5段階のリッカートスケールを用いて回答させる質問票である。合計得点を100点に換算し,得点が高いほど意識していないことを示す。対象の取り込み基準は,変形性股関節症または大腿骨骨頭壊死症により片側又は両側の初回THAを施行し,術後2ヶ月を経過した患者とした。除外基準は,重篤な心疾患,中枢神経疾患,股関節以外の骨・関節の手術既往を有する者,認知障害を有する者とした。予備調査として,適格基準を満たした31名を対象とし,文章表現,回答の負担についてコメントさせ,回答にかかる時間を測定した。再現性の検討については,2週間以内に同一患者に再調査を行った。統計解析は,級内相関係数とBland-Altman plotを用いて系統誤差の有無を判断した。妥当性の検討については,2013年5月から10月の期間において横断的に調査を行った。外的基準は,1)日本語版High-Activity Arthroplasty Score(JHAAS),2)日本語版Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index疼痛項目(WOMAC-P),身体項目(WOMAC-F),3)最大等尺性股関節外転筋トルク(外転筋トルク),4)股関節可動域(屈曲・伸展・外転・内転・外旋),5)QOL満足度とした。調査方法は日本語版WOMAC,外転筋トルク,股関節可動域を測定した後,JFJS-12,JHAAS,QOL満足度の質問票を手渡し,2週間以内に返送させた。JHAASは身体活動を歩行,走行,階段昇降,余暇活動の4つのドメインに分け,自身が達成できる最も高いレベルの身体活動を回答させる質問票で,高い活動性を評価できる。3)はハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社,μ Tas-F1)を用いて測定した。4)は東大式角度計を用い5度刻みで測定した。5)は11段階のglobal rating scaleを用いた。統計解析はJFJS-12のヒストグラムを描画してデータの分布を確認した。さらに,JFJS-12とJHAAS,日本語版WOMAC,外転筋トルク,股関節可動域,QOL満足度の関連をみるためにピアソンの積率相関係数を用い,相関分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には事前に研究の趣旨を説明し,同意を得た。
【結果】
質問票を133名から回収した(回収率88.7%)。対象者の属性は,男性17名,女性116名,変形性股関節症122名,大腿骨骨頭壊死症11名,片側116名,両側17名,年齢[平均値±標準偏差(範囲)]65.6±9.7(43-86)歳,BMI 24.6±4.6(11.3-42.6)kg/m2,術後経過月数は2-45ヶ月であった。再現性について,級内相関係数は0.79-0.94であり,Bland-Altman plotからも系統誤差は確認されなかった。回答に要する時間は1-3分であった。ヒストグラムから天井効果,床効果は認められず,正規分布が確認できた。相関分析の結果,JHAAS(r=0.49),WOMAC-P(r=0.41),WOMAC-F(r=0.53),外転筋トルク(r=0.21),股関節屈曲(r=0.28),伸展(r=0.21),外転(r=0.31),内転(r=0.24),外旋(r=0.27)可動域,QOL満足度(r=0.46)において相関を認めた。
【考察】
今回,JFJS-12は本邦のTHA術後患者においても適用でき,再現性と妥当性を兼ね備えた評価尺度であることが示された。また,疼痛が少なく,活動性が高く,股関節可動域,外転筋トルクが良好な患者において,日常生活で手術した股関節を意識しないで生活できており,QOLに対し満足していることが確認された。さらに,JFJS-12は短時間で実施でき,無回答者が少ないことから,実用性が高い尺度であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
健康な関節と同様,日常生活で意識されていない関節は術後患者のQOL満足度につながり,科学的根拠に基づき作成された評価尺度を用いることは,臨床成績,治療効果を判定する上で意義は深いと考える。
近年,人工関節置換術術後患者において,患者立脚型アウトカムを用いた評価が主流となってきた。Behrendら(2012)は,日常生活で手術した関節を意識しないでいることが「究極のゴール」であるとし,人工膝・股関節置換術術後患者に対する評価尺度としてForgotten joint score(FJS-12)を開発した。我々は,日本においても手術した関節を意識せずに生活できていることは,臨床成績において着目するべき点であると考え,日本語版FJS-12(JFJS-12)を作成した。そして,本邦の人工膝関節置換術術後患者における高い再現性と妥当性について報告した(古谷,2012)。本研究目的は人工股関節全置換術(THA)術後患者におけるJFJS-12の適用性を判断するために,身体機能や,生活の質(QOL)に対する満足度との関連を含め,再現性と妥当性を検討した。
【方法】
JFJS-12は就寝時,歩行,階段昇降,床からの立ち上がり,スポーツ活動中などの12項目の日常生活動作について,「手術した股関節をどのくらい気にしていますか?」という質問に対し,5段階のリッカートスケールを用いて回答させる質問票である。合計得点を100点に換算し,得点が高いほど意識していないことを示す。対象の取り込み基準は,変形性股関節症または大腿骨骨頭壊死症により片側又は両側の初回THAを施行し,術後2ヶ月を経過した患者とした。除外基準は,重篤な心疾患,中枢神経疾患,股関節以外の骨・関節の手術既往を有する者,認知障害を有する者とした。予備調査として,適格基準を満たした31名を対象とし,文章表現,回答の負担についてコメントさせ,回答にかかる時間を測定した。再現性の検討については,2週間以内に同一患者に再調査を行った。統計解析は,級内相関係数とBland-Altman plotを用いて系統誤差の有無を判断した。妥当性の検討については,2013年5月から10月の期間において横断的に調査を行った。外的基準は,1)日本語版High-Activity Arthroplasty Score(JHAAS),2)日本語版Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index疼痛項目(WOMAC-P),身体項目(WOMAC-F),3)最大等尺性股関節外転筋トルク(外転筋トルク),4)股関節可動域(屈曲・伸展・外転・内転・外旋),5)QOL満足度とした。調査方法は日本語版WOMAC,外転筋トルク,股関節可動域を測定した後,JFJS-12,JHAAS,QOL満足度の質問票を手渡し,2週間以内に返送させた。JHAASは身体活動を歩行,走行,階段昇降,余暇活動の4つのドメインに分け,自身が達成できる最も高いレベルの身体活動を回答させる質問票で,高い活動性を評価できる。3)はハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社,μ Tas-F1)を用いて測定した。4)は東大式角度計を用い5度刻みで測定した。5)は11段階のglobal rating scaleを用いた。統計解析はJFJS-12のヒストグラムを描画してデータの分布を確認した。さらに,JFJS-12とJHAAS,日本語版WOMAC,外転筋トルク,股関節可動域,QOL満足度の関連をみるためにピアソンの積率相関係数を用い,相関分析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象には事前に研究の趣旨を説明し,同意を得た。
【結果】
質問票を133名から回収した(回収率88.7%)。対象者の属性は,男性17名,女性116名,変形性股関節症122名,大腿骨骨頭壊死症11名,片側116名,両側17名,年齢[平均値±標準偏差(範囲)]65.6±9.7(43-86)歳,BMI 24.6±4.6(11.3-42.6)kg/m2,術後経過月数は2-45ヶ月であった。再現性について,級内相関係数は0.79-0.94であり,Bland-Altman plotからも系統誤差は確認されなかった。回答に要する時間は1-3分であった。ヒストグラムから天井効果,床効果は認められず,正規分布が確認できた。相関分析の結果,JHAAS(r=0.49),WOMAC-P(r=0.41),WOMAC-F(r=0.53),外転筋トルク(r=0.21),股関節屈曲(r=0.28),伸展(r=0.21),外転(r=0.31),内転(r=0.24),外旋(r=0.27)可動域,QOL満足度(r=0.46)において相関を認めた。
【考察】
今回,JFJS-12は本邦のTHA術後患者においても適用でき,再現性と妥当性を兼ね備えた評価尺度であることが示された。また,疼痛が少なく,活動性が高く,股関節可動域,外転筋トルクが良好な患者において,日常生活で手術した股関節を意識しないで生活できており,QOLに対し満足していることが確認された。さらに,JFJS-12は短時間で実施でき,無回答者が少ないことから,実用性が高い尺度であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
健康な関節と同様,日常生活で意識されていない関節は術後患者のQOL満足度につながり,科学的根拠に基づき作成された評価尺度を用いることは,臨床成績,治療効果を判定する上で意義は深いと考える。