[0182] 人工股関節置換術後患者における退院時の独歩獲得に影響する因子
キーワード:人工股関節置換術, 独歩, 運動機能
【はじめに,目的】
質の向上と効率化を目的として医療の分野でもクリティカルパスが導入され,一定の効果をあげている。人工股関節置換術(以下,THA)後においてもクリティカルパスの使用でADLの早期自立や在院日数の短縮に効果をあげている。患者の杖なしで歩きたいというニーズは多く,在院日数の短縮により短期間で歩行能力をより向上させることが求められる。THA後の杖歩行獲得については年齢や術前の運動機能との関連性が報告されているが独歩獲得に関与する因子を検討した報告は少ない。THA後の患者では杖なしで歩きたいという希望や家屋内移動,家事動作や社会復帰などでの独歩のニーズは高い。本研究ではTHA後の独歩獲得に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
【方法】
本研究は診療録を後方視的に調査して行った。対象は当院において2012年5月~2013年9月にTHAを施行された者のうち,合併症等でクリティカルパスから大きく逸脱した者,再置換術例を除いた106名(男性16名,女性90名)であった。術式は全例後側方侵入,セメントレスで行われた。クリティカルパスは術後2日目より車椅子移乗,4日目より可及的全荷重にて歩行練習開始,T字杖歩行もしくは独歩可能となって3~4週で退院となっている。診療録からの調査項目は,年齢,性別,疾患,手術から退院時評価までの日数(以下,術後日数),退院時の両側股関節可動域(以下,ROM),両側下肢筋力,独歩の可否,歩行時疼痛であった。退院時に1m/sec.の独歩が可能な群(以下,独歩群),不可能な群(以下,杖歩行群)に分類し,群間で調査項目について統計学的に比較し分析した。統計は対応のないt検定,カイ二乗検定用い,有意水準は5%未満とした。有意差が出た項目を独立変数,独歩の可否を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,当院倫理規定に基づいて実施された。
【結果】
独歩群57名(男性13名,女性44名,59.4±10.9歳,57.8±9.0kg,術後日数23.1±3.6日),杖歩行群49名(男性3名,女性46名,65.9±9.6歳,57.8±10.3kg,術後日数23.3±4.1日)となった。カイ二乗検定,対応のないt検定を用い,抽出された変数は年齢,性別,股関節屈曲(両側)・伸展(非術側)・外転(術側)・外旋(術側)ROM,両側の股関節屈曲・外転・膝関節伸展筋力,歩行時疼痛だった(p<0.05)。これを独立変数として投入したロジスティック回帰分析の結果,退院時の独歩獲得の可否を予測する因子として年齢,股関節外転ROM,股関節外転筋力が抽出された(p<0.05)。
【考察】
THA術後患者における,1m/sec.の退院時独歩獲得に影響を与える因子として年齢と股関節外転ROM・筋力が抽出された。60歳以上になると健常者でも歩行速度は顕著に低下するといわれている。杖歩行群では年齢による生理的因子に加え,罹患期間が長かったことにより,術前の関節症の進行やそれに伴う運動機能の障害が大きかったことが考えられる。
THA術後患者は健常者と比較して明らかな歩行速度の低下とエネルギー消費効率が悪いとされる。その理由として荷重支持機能の低下に加え歩行時の体幹側方動揺や重心の上下・左右方向の動きが影響している。外転ROMや筋力は歩行立脚期における骨盤-大腿骨の安定に作用し,トレンデレンブルグ徴候などの跛行の原因のひとつである。それらの低下は下肢の荷重支持能力の低下や跛行を助長し,結果として歩行速度の低下を招く。今回の結果から実用レベルの独歩獲得のためには,外転ROMの拡大や外転筋力向上による歩容の安定が必要だと考えられる。杖なしで歩きたいという希望を持ちながらも,術後約23日の時点では獲得していない者もいる。今回の結果を術後リハビリテーションや退院時のホームエクササイズなどに活かし,今後は退院後の独歩獲得時期や長期的な運動機能の評価を行っていきたい。
【理学療法学的研究としての意義】
THA術後患者において退院時の独歩獲得に影響する因子が明らかになることで,より患者のニーズに合った,エビデンスの高いリハビリテーションプログラムの提供が可能になる。
質の向上と効率化を目的として医療の分野でもクリティカルパスが導入され,一定の効果をあげている。人工股関節置換術(以下,THA)後においてもクリティカルパスの使用でADLの早期自立や在院日数の短縮に効果をあげている。患者の杖なしで歩きたいというニーズは多く,在院日数の短縮により短期間で歩行能力をより向上させることが求められる。THA後の杖歩行獲得については年齢や術前の運動機能との関連性が報告されているが独歩獲得に関与する因子を検討した報告は少ない。THA後の患者では杖なしで歩きたいという希望や家屋内移動,家事動作や社会復帰などでの独歩のニーズは高い。本研究ではTHA後の独歩獲得に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。
【方法】
本研究は診療録を後方視的に調査して行った。対象は当院において2012年5月~2013年9月にTHAを施行された者のうち,合併症等でクリティカルパスから大きく逸脱した者,再置換術例を除いた106名(男性16名,女性90名)であった。術式は全例後側方侵入,セメントレスで行われた。クリティカルパスは術後2日目より車椅子移乗,4日目より可及的全荷重にて歩行練習開始,T字杖歩行もしくは独歩可能となって3~4週で退院となっている。診療録からの調査項目は,年齢,性別,疾患,手術から退院時評価までの日数(以下,術後日数),退院時の両側股関節可動域(以下,ROM),両側下肢筋力,独歩の可否,歩行時疼痛であった。退院時に1m/sec.の独歩が可能な群(以下,独歩群),不可能な群(以下,杖歩行群)に分類し,群間で調査項目について統計学的に比較し分析した。統計は対応のないt検定,カイ二乗検定用い,有意水準は5%未満とした。有意差が出た項目を独立変数,独歩の可否を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,当院倫理規定に基づいて実施された。
【結果】
独歩群57名(男性13名,女性44名,59.4±10.9歳,57.8±9.0kg,術後日数23.1±3.6日),杖歩行群49名(男性3名,女性46名,65.9±9.6歳,57.8±10.3kg,術後日数23.3±4.1日)となった。カイ二乗検定,対応のないt検定を用い,抽出された変数は年齢,性別,股関節屈曲(両側)・伸展(非術側)・外転(術側)・外旋(術側)ROM,両側の股関節屈曲・外転・膝関節伸展筋力,歩行時疼痛だった(p<0.05)。これを独立変数として投入したロジスティック回帰分析の結果,退院時の独歩獲得の可否を予測する因子として年齢,股関節外転ROM,股関節外転筋力が抽出された(p<0.05)。
【考察】
THA術後患者における,1m/sec.の退院時独歩獲得に影響を与える因子として年齢と股関節外転ROM・筋力が抽出された。60歳以上になると健常者でも歩行速度は顕著に低下するといわれている。杖歩行群では年齢による生理的因子に加え,罹患期間が長かったことにより,術前の関節症の進行やそれに伴う運動機能の障害が大きかったことが考えられる。
THA術後患者は健常者と比較して明らかな歩行速度の低下とエネルギー消費効率が悪いとされる。その理由として荷重支持機能の低下に加え歩行時の体幹側方動揺や重心の上下・左右方向の動きが影響している。外転ROMや筋力は歩行立脚期における骨盤-大腿骨の安定に作用し,トレンデレンブルグ徴候などの跛行の原因のひとつである。それらの低下は下肢の荷重支持能力の低下や跛行を助長し,結果として歩行速度の低下を招く。今回の結果から実用レベルの独歩獲得のためには,外転ROMの拡大や外転筋力向上による歩容の安定が必要だと考えられる。杖なしで歩きたいという希望を持ちながらも,術後約23日の時点では獲得していない者もいる。今回の結果を術後リハビリテーションや退院時のホームエクササイズなどに活かし,今後は退院後の独歩獲得時期や長期的な運動機能の評価を行っていきたい。
【理学療法学的研究としての意義】
THA術後患者において退院時の独歩獲得に影響する因子が明らかになることで,より患者のニーズに合った,エビデンスの高いリハビリテーションプログラムの提供が可能になる。