第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節4

2014年5月30日(金) 11:45 〜 12:35 ポスター会場 (運動器)

座長:高橋友明(JA長野厚生連安曇総合病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0183] 人工股関節全置換術2週間プロトコル達成の可否による術前身体機能の比較検討

相羽宏1, 木下一雄2, 吉田啓晃3, 中島卓三4, 桂田功一2, 樋口謙次2, 中山恭秀3, 安保雅博5 (1.東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科, 2.東京慈恵会医科大学附属柏病院リハビリテーション科, 3.東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科, 4.東京慈恵会医科大学葛飾医療センターリハビリテーション科, 5.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

キーワード:人工股関節全置換術, プロトコル, 術前身体機能

【はじめに,目的】
近年,入院期間の短縮に伴い,人工股関節全置換術(以下THA)の術後患者における理学療法は早期介入及び荷重により早期退院が可能となっている。当院においても2週間プロトコルを導入し,早期退院を図っている。その中で2週間プロトコルを達成する症例もいるが,退院が困難であり入院期間が延長する症例も見受けられる。本研究では,2週間プロトコル達成群と未達成群のTHA術前の身体機能を比較,検討し,THA後2週間プロトコルの適応基準を決定する一助とすることを目的とした。
【方法】
対象は本大学附属4病院にて2010年4月から2013年6月までに変形性股関節症を呈し,片側初回THAを施行した311例のうち,歩行自立にて自宅退院した149例149股とした。平均年齢65.6±10.5歳,男性19例,女性130例,術式は後方進入であった。術後15日までに退院が可能であった52例(以下達成群),2週間プロトコルから逸脱し術後22日から28日までに退院した97例(以下未達成群)の2群に分類した。また,週末退院など身体機能面以外の影響を考慮し,術後16日~21日に退院した者は除外した。評価項目は,基礎情報として年齢,性別,BMIを,身体機能項目として股関節の可動域(屈曲,外旋,外転),外転筋トルク(Nm/kg),5m歩行速度(m/min),日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下JOA)のADL項目,5段階(痛くない~激しく痛む)の自己記入式質問用紙による主観的歩行時痛をデータベースより後方視的に調査した。外転筋トルク(Nm/kg)は,Hand-held Dynamometer(アニマ社製,ミュータスF-1)を用い,背臥位股関節内外転中間位で5秒間の等尺性筋力を計測し大腿長を乗じ,体重で除し正規化した。2週間プロトコルの内容は手術翌日より車椅子乗車を許可,術後2日目から荷重制限を行わず起立,歩行を開始,退院基準は杖歩行自立となっている。統計処理は年齢・BMI・股関節可動域・外転筋トルク・5m歩行速度については2標本t検定を用い,性別,ADL,主観的歩行時痛についてはカイ二乗検定を用いた。また,2群間の比較検定で有意差が認められた項目についてロジスティック回帰分析を行い,抽出された因子に関してROC曲線を用いてカットオフ値を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当大学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り施行した。
【結果】
両群の基礎情報に関しては,平均年齢(達成群58.9±9.2歳,未達成群65±10歳)において有意差が認められた。両群における身体機能項目では,股関節可動域の外転(達成群17.9±10.1,未達成群14.4±8.1)および,外転筋トルク(達成群0.65±0.3,未達成群0.48±0.24)に有意差が認められた。また5m歩行速度(達成群78.0±10.5,未達成群76.5±150.5),主観的歩行時痛に有意差は認められなかった。JOAのADL項目(容易/困難/不可)では腰かけ(達成群:51/1/0,未達成群:85/12/0),立ち仕事(達成群:37/12/3,未達成群:37/40/20),車・バスの乗り降り(達成群:32/20/0,未達成群:45/42/10)で有意差が認められた。この結果から,達成の可否を目的変数とし,説明変数は年齢,外転筋トルク,外転,腰かけ,立ち仕事,車・バスの乗り降りとしロジスティック回帰分析を行った。その結果,年齢,外転筋トルク,立ち仕事に有意差を認めた。ROC曲線をもとにカットオフ値を算出すると,年齢は65.5歳であり,AUC0.66,感度0.51,特異度0.77であった。外転筋トルクではカットオフ値が0.49Nm/kgでありAUC0.33,感度0.4,特異度0.39であった。
【考察】
THA後の2週間プロトコルを実施するにあたり,適応基準は明らかとなっていない。今回の研究より,2週間プロトコル達成群と未達成群の術前身体機能において,年齢,外転筋トルク,立ち仕事が達成の指標となることが示唆された。早期退院に関わる過去の報告においても年齢,筋力は適応基準としており,先行研究を支持する結果となった。また,立ち仕事に関しても下肢の筋力を必要とする動作であると考えられる。比較的外転筋力の保たれている達成群においては家事動作が容易に行えており,術前のADL能力の高さが伺える。
しかし,ROC曲線のAUCから判断した年齢や外転筋トルクの予測能は低い結果であり,術後の機能経過や家庭環境などの社会的要因が影響していると考えられる。そのため,今後は術前因子だけではなくこれらの因子を多面的に検討すべきであると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究より年齢,外転筋トルク,立ち仕事が,THA後患者における2週間プロトコル達成の可否および適応基準の一助になりうると考えられる。