[0185] 人工股関節全置換術施行患者における歩行能力に影響を及ぼす因子の検討
キーワード:人工股関節全置換術, 歩行能力, 予後予測
【はじめに,目的】
人工股関節全置換術(以下,THA)後の理学療法を効果的に進めるには術前の運動機能から術後の歩行能力を予測することが重要となる。歩行の長期的な予後は様々な報告がなされているが,術後早期の歩行に及ぼす因子や時期による影響因子の違いを経時的に明らかにした報告はみられない。そこで,本研究の目的をTHA術後患者の歩行能力に影響を及ぼす因子を検討し,術後の時期による術前因子の影響の違いを明らかにすることとした。
【方法】
対象は一側性の変形性股関節症により初回THAを施行した女性患者48名(67.6±10.2歳)とした。評価項目は,術側下肢筋力,股関節機能,疼痛,歩行能力とし,測定時期は,術前と術後3週(退院時),15週,27週とした。評価,測定はすべて同一検者によって行われた。下肢筋力測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μ-TasF1)を使用し,股関節外転(以下,股外転),股関節伸展(以下,股伸展),および膝関節伸展(以下,膝伸展)における最大等尺性筋力3回の平均値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。股関節機能評価には,日本整形外科学会股関節治療判定基準(以下,JOAスコア)を使用した。また,疼痛評価として,術側股関節外転筋力測定時のVisual Analog Scale(VAS)を測定した。歩行能力の評価には,Timed up and go test(以下,TUG)を使用した。
統計処理は,各時期の歩行能力(TUG)と術前評価項目との関連性は,ピアソンの相関係数を用いて検定した。さらに,有意な相関のみられた項目と年齢,BMIを説明変数,各時期のTUGを目的変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行い,各評価項目の関与の程度を検討した。統計解析には,SPSS ver 20.0を使用し,いずれの検定も,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理委員会の承認を受け,各対象者には研究参加に対する同意を得て実施した。
【結果】
術後3週時のTUGと有意な相関関係のみられた項目は,術前JOAスコア(r=-0.485),術前膝伸展筋力(r=-0.483),術前TUG(r=0.480),術前股外転筋力(r=-0.382)であった。重回帰分析の結果,退院時TUGを決定する説明変数として,術前膝伸展筋力(β=-0.337),年齢(β=0.334)が選択された。重相関係数R=0.68,決定係数R2=0.41であった。
術後15週のTUGと有意な相関関係のみられた項目は,術前股外転筋力(r=-0.612),術前膝伸展筋力(r=-0.579),術前TUG(r=0.492),術前股伸展筋力(r=-0.476)であった。さらに重回帰分析の結果,術前外転筋力(β=-0.572),年齢(β=0.444)が選択され,重相関係数R=0.778,決定係数R2=0.57であった。
また,術後27週のTUGと,術前TUG(r=0.668),術前膝伸展筋力(r=-0.598)が有意な相関がみられ,重回帰分析の結果,年齢(β=0.758),BMI(β=0.363)が選択され,重相関係数R=0.783,決定係数R2=0.561であった。
【考察】
THA術後の歩行能力に最も影響を及ぼす術前因子は,退院時,術後15週,術後27週(退院後半年)と時間経過に伴い,膝伸展筋力,股外転筋力,年齢へと変化することが示された。つまり,術後の時期により術前因子の影響は異なることが明らかとなった。本研究の結果は,退院後半年が経過すれば,筋力や歩行など術前の身体機能の影響より,年齢が強く関与している可能性を示唆している。従って,THA術後早期の歩行能力を経時的に予測するには,一つの因子からではなく,術後時期に応じた因子が関与することを念頭におき理学療法をすすめていく必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
THA術後患者の歩行能力の予測因子は,術後時期により異なることが明らかとなった。このことは,手術予定患者や術後早期の患者に対し,理学療法をすすめていくための根拠となることから,理学療法学研究としての意義があるものと考えられた。
人工股関節全置換術(以下,THA)後の理学療法を効果的に進めるには術前の運動機能から術後の歩行能力を予測することが重要となる。歩行の長期的な予後は様々な報告がなされているが,術後早期の歩行に及ぼす因子や時期による影響因子の違いを経時的に明らかにした報告はみられない。そこで,本研究の目的をTHA術後患者の歩行能力に影響を及ぼす因子を検討し,術後の時期による術前因子の影響の違いを明らかにすることとした。
【方法】
対象は一側性の変形性股関節症により初回THAを施行した女性患者48名(67.6±10.2歳)とした。評価項目は,術側下肢筋力,股関節機能,疼痛,歩行能力とし,測定時期は,術前と術後3週(退院時),15週,27週とした。評価,測定はすべて同一検者によって行われた。下肢筋力測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μ-TasF1)を使用し,股関節外転(以下,股外転),股関節伸展(以下,股伸展),および膝関節伸展(以下,膝伸展)における最大等尺性筋力3回の平均値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。股関節機能評価には,日本整形外科学会股関節治療判定基準(以下,JOAスコア)を使用した。また,疼痛評価として,術側股関節外転筋力測定時のVisual Analog Scale(VAS)を測定した。歩行能力の評価には,Timed up and go test(以下,TUG)を使用した。
統計処理は,各時期の歩行能力(TUG)と術前評価項目との関連性は,ピアソンの相関係数を用いて検定した。さらに,有意な相関のみられた項目と年齢,BMIを説明変数,各時期のTUGを目的変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行い,各評価項目の関与の程度を検討した。統計解析には,SPSS ver 20.0を使用し,いずれの検定も,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理委員会の承認を受け,各対象者には研究参加に対する同意を得て実施した。
【結果】
術後3週時のTUGと有意な相関関係のみられた項目は,術前JOAスコア(r=-0.485),術前膝伸展筋力(r=-0.483),術前TUG(r=0.480),術前股外転筋力(r=-0.382)であった。重回帰分析の結果,退院時TUGを決定する説明変数として,術前膝伸展筋力(β=-0.337),年齢(β=0.334)が選択された。重相関係数R=0.68,決定係数R2=0.41であった。
術後15週のTUGと有意な相関関係のみられた項目は,術前股外転筋力(r=-0.612),術前膝伸展筋力(r=-0.579),術前TUG(r=0.492),術前股伸展筋力(r=-0.476)であった。さらに重回帰分析の結果,術前外転筋力(β=-0.572),年齢(β=0.444)が選択され,重相関係数R=0.778,決定係数R2=0.57であった。
また,術後27週のTUGと,術前TUG(r=0.668),術前膝伸展筋力(r=-0.598)が有意な相関がみられ,重回帰分析の結果,年齢(β=0.758),BMI(β=0.363)が選択され,重相関係数R=0.783,決定係数R2=0.561であった。
【考察】
THA術後の歩行能力に最も影響を及ぼす術前因子は,退院時,術後15週,術後27週(退院後半年)と時間経過に伴い,膝伸展筋力,股外転筋力,年齢へと変化することが示された。つまり,術後の時期により術前因子の影響は異なることが明らかとなった。本研究の結果は,退院後半年が経過すれば,筋力や歩行など術前の身体機能の影響より,年齢が強く関与している可能性を示唆している。従って,THA術後早期の歩行能力を経時的に予測するには,一つの因子からではなく,術後時期に応じた因子が関与することを念頭におき理学療法をすすめていく必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
THA術後患者の歩行能力の予測因子は,術後時期により異なることが明らかとなった。このことは,手術予定患者や術後早期の患者に対し,理学療法をすすめていくための根拠となることから,理学療法学研究としての意義があるものと考えられた。