第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法3

Fri. May 30, 2014 11:45 AM - 12:35 PM ポスター会場 (神経)

座長:福富利之(リハビリテーション花の舎病院リハビリテーション部)

神経 ポスター

[0186] 脳卒中片麻痺患者に対するBWSTTの設定方法について

森輝, 遠藤正英, 猪野嘉一 (医療法人福岡桜十字桜十字福岡病院)

Keywords:脳卒中片麻痺患者, 体重免荷式トレッドミルトレーニング, 免荷量

【はじめに,目的】
近年,脳卒中片麻痺患者に対する体重免荷式トレッドミルトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training;以下,BWSTT)が注目されており,脳卒中治療ガイドライン2009においてグレードBとなっている。しかし,どの程度の免荷量やトレッドミル歩行速度で行うことが適切であるか明確なプロトコルは見当たらない。本研究は,BWSTTにおける設定方法の違いが歩行速度に及ぼす影響を検討し,その傾向を示すことである。
【方法】
対象は平成24年9月から平成25年9月の間に当院回復期リハビリテーション病棟に入院していた脳卒中片麻痺患者のうち,理解と表出に問題がなく歩行が自立または監視で可能な9名(男性6名,女性3名,年齢61±26才,下肢Brunnstrom recovery stage3=1名,stage4=6名,stage5=2名,発症後98±49.4日)とした。BWSTTは体重免荷装置(バイオデックス社製可動式免荷装置アンウェイシステム)とトレッドミル(SportsArt社製トレッドミルT650MS)を用い,施行時間を6分間とした。20%免荷と40%免荷を1週間の間隔を空けて施行し,その順序は無作為に決定した。BWSTT前後の測定項目は加速期と減速期を除く10m間の最大歩行速度及び歩数とした。なお,トレッドミルの速度は一定の歩容を保ったまま最も速く歩くことができるものとし,その判断は4~5名の理学療法士で行った。統計学的検証は,各免荷量におけるBWSTT前後の結果を対応のあるt検定にて比較し,BWSTT前後の結果とトレッドミル歩行速度との関連をPearsonの積率相関係数にて算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院規定の承認を得て実施した。全対象に本研究の目的と方法を説明し協力の同意を得た。
【結果】
20%免荷における最大歩行速度は1.24±0.3m/sec,1.21±0.25m/sec(施行前後,以下同様),最大歩行歩数は1.64±0.22steps/m,1.74±0.23steps/mであり,いずれも有意な差を認めなかった。40%免荷における最大歩行速度は1.08±0.16m/sec,1.17±0.13m/sec,最大歩行歩数は1.72±0.29steps/m,1.64±0.25steps/mであり,いずれも有意な差を認めた(p<0.05)。トレッドミル歩行速度は20%免荷で1.8km/h(平均値,以下同様),40%免荷で2.2km/hであり40%免荷の方が有意に速い結果を示した(p<0.05)。また,40%免荷での10m最大歩行速度の即時効果とトレッドミル歩行速度に有意な正の相関を認めた(r=0.69,p<0.05)。
【考察】
一般的に脳卒中片麻痺患者は,麻痺側下肢のクリアランス低下や支持性低下によって重心が非麻痺側へ偏位することで左右非対称な歩行パターンとなる傾向にあり,これを正常に近づけるためには速度を上げた歩行練習が効果的であるとされている。また脳卒中片麻痺患者の歩行速度を増加させるには麻痺側下肢の振り出しが重要な因子の一つであるとの報告もあることから,40%免荷における歩幅の拡大及び10m最大歩行速度の増加は,より対称的な歩行パターンに近づき,麻痺側下肢の振り出しに改善を認めた可能性があることを示していると考える。40%免荷ではトレッドミル歩行速度が有意に速かったことから,歩行パターンを正常に近づけるための至適速度であったと思われ,20%免荷では歩行パターンを改善する程の歩行速度に達していなかったと推察する。さらに40%免荷でトレッドミル歩行速度とBWSTT前後での10m最大歩行速度の差に有意な正の相関を認めたことに対し,20%免荷では相関を認めなかったことからも,一定の歩容を保ったまま最も速く歩ける速度が,10m最大歩行速度の即時効果に影響することが示された。以上のことから,脳卒中片麻痺患者に対し,歩行パターンの改善を目的とするBWSTTにおいては至適免荷量及び至適歩行速度が存在する可能性が示唆された。しかし,本研究は20%と40%以外での検証を行っていないため,今後,広範囲に免荷量を検討しBWSTTにおいて最も効果的な設定方法を示していくことが課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究において,BWSTTに至適免荷量及び至適歩行速度が存在する可能性が示唆されたことは,今後の研究によってBWSTTをより有効なアプローチとし得る一助になると考える。