[0188] 部分免荷トレッドミル歩行が脳卒中患者の下肢協調性に及ぼす影響
キーワード:部分免荷トレッドミル, 脳卒中, 協調性
【はじめに,目的】近年,歩行障害を有する脳卒中患者に対して,体重を免荷させながらトレッドミル上を歩行するトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training;以下BWSTT)が実施されている。BWSTTは関節運動範囲の拡大,両脚支持期の短縮や麻痺側単脚支持期の延長により歩行パターンが変化し,歩行の協調性が改善すると報告されている。歩行時の協調性は,複数の身体体節間の位置関係とその時間変化を周期的に維持する能力であると定義され,この2つの尺度から評価する必要がある。従来の評価では,BWSTT時に複数の関節や体節がどのような位置関係で動いているか明確ではない。位置情報と時間的情報の両方を含み,さらに定量的に協調性を評価する手法に連続相対位相解析がある。本研究は,BWSTT時の免荷量の違いによって,脳卒中患者の麻痺側下肢,非麻痺側下肢,健常者における下肢協調性がどのように変化するか連続相対位相解析を用いて定量的に調査することを目的とした。
【方法】対象者は脳卒中片麻痺患者(年齢64.8±8.2才,下肢Brunnstrom stage5=3名,stage6=7名,発症経過8.5±7.5ヶ月)と健常高齢者(年齢64.3±7.5才)の男性で各群10名とした。各群ともに免荷装置で体重の0%,10%,20%,30%の免荷を施した状態でトレッドミル上を30秒間歩行した。トレッドミルの速度は,転子果長と重力加速度から最大歩行速度を算出するフルード速度を用いて,その20%,25%,30%の速度から快適歩行速度に近似する速度に設定した。データ算出には三次元動作解析装置(VICON MXT-20)を使用して,両下肢より20ストライドのデータを抽出した。連続相対位相解析は,マーカー座標より矢状面における大腿軸,下腿軸,足部軸それぞれに対する水平方向になす角度と角速度を算出し,下肢体節の位相図を求めた。そして位相図から逆正接関数を用いて位相角を求め,近位体節から遠位体節の位相角を減算することで大腿-下腿と下腿-足部の相対位相を求めた。さらに1ストライドが100ポイントになるように補間処理を行い,歩行周期を接踵期(HC期),立脚中期,足趾離地期(TO期),遊脚期の4相に分割し,各相の相対位相の平均値を算出した。統計処理はMardia Watson Wheeler testを用いて相対位相の平均値を免荷量による群間,群内での比較を行った。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は研究協力施設の倫理委員会で承認され,参加者に口頭と書面で説明し同意を得て実施した。
【結果】大腿-下腿の相対位相はHC期において,0%免荷時の脳卒中患者の麻痺側下肢と非麻痺側下肢の相対位相が健常者よりも大きい傾向にあった。免荷すると健常者と脳卒中患者ともに相対位相が増大する傾向を示し,特に麻痺側下肢の相対位相は健常者の0%免荷時と比較して有意に増大した。また30%免荷時に非麻痺側下肢の相対位相が麻痺側下肢よりも有意に大きかった。下腿-足部の相対位相はTO期において,0%免荷時に脳卒中患者は健常者よりも相対位相が大きく,麻痺側下肢は有意に大きかった。免荷すると健常者は変化しないが,脳卒中患者は両下肢の相対位相が減少傾向を示し,健常者の0%免荷時の相対位相と同程度となった。
【考察】HC期における大腿-下腿の相対位相から,体重免荷によって膝関節周囲の協調性が低下することが示された。これは垂直方向への体重免荷はHC期の身体にかかる衝撃を緩和させるが,衝撃吸収に関与する下腿の前方傾斜や膝関節の屈曲動作の制御が乱れたためであると思われる。さらに脳卒中患者は30%免荷に麻痺側下肢と非麻痺側下肢の左右非対称性を示した。脳卒中患者における体重免荷は,HC期に膝関節周囲の協調性低下と左右非対称な動作を導き,協調的な膝関節運動の獲得を阻害する可能性がある。TO期における下腿-足部の相対位相から,軽症な脳卒中患者であっても0%免荷時に健常者より足関節周囲の協調性が低下していることが示され,さらに免荷することで健常者の0%免荷時の相対位相に近似する傾向を示した。BWSTT時は麻痺側下肢の立脚期が延長することが報告されており,立脚後期の足関節底屈の角度変化が緩やかになったことで,下腿-足部の相対位相が減少して健常者の値に近づいたと思われる。また非麻痺側下肢は,免荷することで非麻痺側下肢への荷重が減少して正常に近い足関節の運動を導いたことで足関節の協調性が健常者に近似したと思われる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,軽症な慢性期脳卒中患者を対象にBWSTT時の下肢協調性を調査した。免荷することで足関節周囲の協調性は健常者に近づき,膝関節周囲の協調性は正常パターンから逸脱するという利点と欠点が示された。脳卒中患者の下肢協調性を改善させるためには,この点を考慮して適応することが重要である。
【方法】対象者は脳卒中片麻痺患者(年齢64.8±8.2才,下肢Brunnstrom stage5=3名,stage6=7名,発症経過8.5±7.5ヶ月)と健常高齢者(年齢64.3±7.5才)の男性で各群10名とした。各群ともに免荷装置で体重の0%,10%,20%,30%の免荷を施した状態でトレッドミル上を30秒間歩行した。トレッドミルの速度は,転子果長と重力加速度から最大歩行速度を算出するフルード速度を用いて,その20%,25%,30%の速度から快適歩行速度に近似する速度に設定した。データ算出には三次元動作解析装置(VICON MXT-20)を使用して,両下肢より20ストライドのデータを抽出した。連続相対位相解析は,マーカー座標より矢状面における大腿軸,下腿軸,足部軸それぞれに対する水平方向になす角度と角速度を算出し,下肢体節の位相図を求めた。そして位相図から逆正接関数を用いて位相角を求め,近位体節から遠位体節の位相角を減算することで大腿-下腿と下腿-足部の相対位相を求めた。さらに1ストライドが100ポイントになるように補間処理を行い,歩行周期を接踵期(HC期),立脚中期,足趾離地期(TO期),遊脚期の4相に分割し,各相の相対位相の平均値を算出した。統計処理はMardia Watson Wheeler testを用いて相対位相の平均値を免荷量による群間,群内での比較を行った。なお有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は研究協力施設の倫理委員会で承認され,参加者に口頭と書面で説明し同意を得て実施した。
【結果】大腿-下腿の相対位相はHC期において,0%免荷時の脳卒中患者の麻痺側下肢と非麻痺側下肢の相対位相が健常者よりも大きい傾向にあった。免荷すると健常者と脳卒中患者ともに相対位相が増大する傾向を示し,特に麻痺側下肢の相対位相は健常者の0%免荷時と比較して有意に増大した。また30%免荷時に非麻痺側下肢の相対位相が麻痺側下肢よりも有意に大きかった。下腿-足部の相対位相はTO期において,0%免荷時に脳卒中患者は健常者よりも相対位相が大きく,麻痺側下肢は有意に大きかった。免荷すると健常者は変化しないが,脳卒中患者は両下肢の相対位相が減少傾向を示し,健常者の0%免荷時の相対位相と同程度となった。
【考察】HC期における大腿-下腿の相対位相から,体重免荷によって膝関節周囲の協調性が低下することが示された。これは垂直方向への体重免荷はHC期の身体にかかる衝撃を緩和させるが,衝撃吸収に関与する下腿の前方傾斜や膝関節の屈曲動作の制御が乱れたためであると思われる。さらに脳卒中患者は30%免荷に麻痺側下肢と非麻痺側下肢の左右非対称性を示した。脳卒中患者における体重免荷は,HC期に膝関節周囲の協調性低下と左右非対称な動作を導き,協調的な膝関節運動の獲得を阻害する可能性がある。TO期における下腿-足部の相対位相から,軽症な脳卒中患者であっても0%免荷時に健常者より足関節周囲の協調性が低下していることが示され,さらに免荷することで健常者の0%免荷時の相対位相に近似する傾向を示した。BWSTT時は麻痺側下肢の立脚期が延長することが報告されており,立脚後期の足関節底屈の角度変化が緩やかになったことで,下腿-足部の相対位相が減少して健常者の値に近づいたと思われる。また非麻痺側下肢は,免荷することで非麻痺側下肢への荷重が減少して正常に近い足関節の運動を導いたことで足関節の協調性が健常者に近似したと思われる。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,軽症な慢性期脳卒中患者を対象にBWSTT時の下肢協調性を調査した。免荷することで足関節周囲の協調性は健常者に近づき,膝関節周囲の協調性は正常パターンから逸脱するという利点と欠点が示された。脳卒中患者の下肢協調性を改善させるためには,この点を考慮して適応することが重要である。