[0189] 免荷式リフトPOPOを使用した歩行練習により運動失行を有する脳卒中両側麻痺患者の歩行能力が向上した一症例
Keywords:POPO, 部分免荷歩行, 脳卒中
【はじめに】
近年,医療や介護の分野でリハビリロボットの活用は増え,有効性が注目されてきている。株式会社モリトーにより開発された免荷式リフトPOPO(以下,POPO)は左右独立懸架のSuspension Liftで体重を免荷し,安定した歩行を可能にする歩行器型のリハビリロボットである。理学療法診療ガイドライン(2011)においては,床上歩行での部分的体重免荷は,歩行速度やバランス能力,歩幅を改善させる,と報告しており,脳卒中患者の歩行能力改善へのPOPOの効果が期待される。今回,運動失行と両側麻痺を呈し歩行練習が困難な症例に対してPOPOを使用したことで歩行能力が大きく向上したため報告する。
【方法】
対象は当院入院中の脳卒中両側麻痺を呈した60歳代の男性である。平成22年2月に左頭頂葉出血,平成25年2月に右前頭葉出血を発症している。当院へは平成25年3月に入院し,理学療法を開始している。身長178.0cm,体重67.5kg,Brunnstrom Stageは右上肢4,手指4,下肢3,左上肢5,手指5,下肢4,高次脳機能障害として運動失行を認める。POPO介入前の歩行能力は,平行棒内最大介助であり,歩行器又は歩行補助具無しの歩行は介助をしても足を踏み出すことはできず遂行困難であった。POPOによる介入は平成25年4月から開始した。介入方法の概要は,POPOを使用した歩行練習(以下,POPO歩行)を6週間,週5回,1日20分実施した。介入初期の免荷量は最大介助のもと前進が可能であった20kgとした。進行方向の修正程度の軽介助で歩行が遂行できた場合,次の介入日から10kg免荷,免荷無し,と段階的に免荷量を減少させた。経過を観察するために,10m歩行テストを20kg免荷,10kg免荷,免荷無しの歩行が軽介助になった時点で実施した。評価項目は,所要時間,歩数,底屈トルクとした。底屈トルクは荷重応答期の足関節底屈運動の有無を判定するために,川村義肢社製Gait Judge Systemを使用して計測した。また,各時期の病棟内における移動形態と歩行の介助量を明記することとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。
【結果】
介入初日から7日後に20kg免荷歩行が軽介助となり,13日後に10kg免荷歩行,42日後に免荷無し歩行がそれぞれ軽介助となった。10m歩行テストに関して,20kg免荷歩行は,所要時間31.87秒,歩数60歩,底屈トルクは足先接地に伴い生じた。病棟内の移動は車椅子介助とPOPO歩行介入前と変化はなかったが,歩行補助具を用いない歩行は最大介助で可能となった。10kg免荷歩行は,所要時間22.09秒,歩数58歩,底屈トルクは踵接地に伴い生じるようになった。病棟内移動は車椅子介助と変化はなく,歩行補助具を用いない歩行は中等度介助となった。免荷無し歩行は,所要時間23.80秒,歩数54歩,底屈トルクは足底全面接地のため生じなかった。歩行補助具を用いない歩行は軽介助となり,病棟内のトイレと食堂への実用的な歩行が可能となった。
【考察】
本症例は,POPOを使用した床上の歩行練習により歩行能力と実用性が大幅に改善した。荷重応答期の踵ロッカーの指標である底屈トルクは,当初足先接地に伴うもので足関節底屈筋群の過活動が考えられたが,13日後の10kg免荷歩行では踵接地に伴い生じるようになった。免荷無し歩行ではアライメントの保持が不十分なため足底全面接地となり生じなかったが,介入初期と比べ改善を認めた。歩行因子が改善した要因としてPOPOの免荷機能が挙げられる。ハーネスを骨盤帯に装着して上方へ牽引することで下肢への負担軽減と姿勢の安定化をもたらし,課題レベルが容易となることで反復した歩行練習が可能となる。また,免荷量の調節による段階的な課題レベルの引き上げにより運動学習の効果がより高まったものと考えられる。これまで,部分免荷トレッドミルの歩行練習に関しては,脊髄損傷患者や脳卒中患者に対する効果が数多く報告されてきた。一方,床上での部分免荷歩行練習の有効性を示したものは,Miller EWらによる床上とトレッドミルの歩行練習を併用したものなど散見する程度である。今回の結果は,床上の部分免荷歩行練習が脳卒中患者の歩行能力を向上させる手段として有効であること,運動失行を有する重度介助の症例に対しても量的な歩行練習が重要であることなどを示唆しており,今後の適応範囲の拡大が期待される。本研究においても,症例数を増やしていきPOPO歩行の効果や適応をより明確にしていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はPOPOによる床上の部分免荷歩行練習の効果を示したものであり,脳卒中患者の理学療法を発展させる上で重要なものであると考える。
近年,医療や介護の分野でリハビリロボットの活用は増え,有効性が注目されてきている。株式会社モリトーにより開発された免荷式リフトPOPO(以下,POPO)は左右独立懸架のSuspension Liftで体重を免荷し,安定した歩行を可能にする歩行器型のリハビリロボットである。理学療法診療ガイドライン(2011)においては,床上歩行での部分的体重免荷は,歩行速度やバランス能力,歩幅を改善させる,と報告しており,脳卒中患者の歩行能力改善へのPOPOの効果が期待される。今回,運動失行と両側麻痺を呈し歩行練習が困難な症例に対してPOPOを使用したことで歩行能力が大きく向上したため報告する。
【方法】
対象は当院入院中の脳卒中両側麻痺を呈した60歳代の男性である。平成22年2月に左頭頂葉出血,平成25年2月に右前頭葉出血を発症している。当院へは平成25年3月に入院し,理学療法を開始している。身長178.0cm,体重67.5kg,Brunnstrom Stageは右上肢4,手指4,下肢3,左上肢5,手指5,下肢4,高次脳機能障害として運動失行を認める。POPO介入前の歩行能力は,平行棒内最大介助であり,歩行器又は歩行補助具無しの歩行は介助をしても足を踏み出すことはできず遂行困難であった。POPOによる介入は平成25年4月から開始した。介入方法の概要は,POPOを使用した歩行練習(以下,POPO歩行)を6週間,週5回,1日20分実施した。介入初期の免荷量は最大介助のもと前進が可能であった20kgとした。進行方向の修正程度の軽介助で歩行が遂行できた場合,次の介入日から10kg免荷,免荷無し,と段階的に免荷量を減少させた。経過を観察するために,10m歩行テストを20kg免荷,10kg免荷,免荷無しの歩行が軽介助になった時点で実施した。評価項目は,所要時間,歩数,底屈トルクとした。底屈トルクは荷重応答期の足関節底屈運動の有無を判定するために,川村義肢社製Gait Judge Systemを使用して計測した。また,各時期の病棟内における移動形態と歩行の介助量を明記することとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。
【結果】
介入初日から7日後に20kg免荷歩行が軽介助となり,13日後に10kg免荷歩行,42日後に免荷無し歩行がそれぞれ軽介助となった。10m歩行テストに関して,20kg免荷歩行は,所要時間31.87秒,歩数60歩,底屈トルクは足先接地に伴い生じた。病棟内の移動は車椅子介助とPOPO歩行介入前と変化はなかったが,歩行補助具を用いない歩行は最大介助で可能となった。10kg免荷歩行は,所要時間22.09秒,歩数58歩,底屈トルクは踵接地に伴い生じるようになった。病棟内移動は車椅子介助と変化はなく,歩行補助具を用いない歩行は中等度介助となった。免荷無し歩行は,所要時間23.80秒,歩数54歩,底屈トルクは足底全面接地のため生じなかった。歩行補助具を用いない歩行は軽介助となり,病棟内のトイレと食堂への実用的な歩行が可能となった。
【考察】
本症例は,POPOを使用した床上の歩行練習により歩行能力と実用性が大幅に改善した。荷重応答期の踵ロッカーの指標である底屈トルクは,当初足先接地に伴うもので足関節底屈筋群の過活動が考えられたが,13日後の10kg免荷歩行では踵接地に伴い生じるようになった。免荷無し歩行ではアライメントの保持が不十分なため足底全面接地となり生じなかったが,介入初期と比べ改善を認めた。歩行因子が改善した要因としてPOPOの免荷機能が挙げられる。ハーネスを骨盤帯に装着して上方へ牽引することで下肢への負担軽減と姿勢の安定化をもたらし,課題レベルが容易となることで反復した歩行練習が可能となる。また,免荷量の調節による段階的な課題レベルの引き上げにより運動学習の効果がより高まったものと考えられる。これまで,部分免荷トレッドミルの歩行練習に関しては,脊髄損傷患者や脳卒中患者に対する効果が数多く報告されてきた。一方,床上での部分免荷歩行練習の有効性を示したものは,Miller EWらによる床上とトレッドミルの歩行練習を併用したものなど散見する程度である。今回の結果は,床上の部分免荷歩行練習が脳卒中患者の歩行能力を向上させる手段として有効であること,運動失行を有する重度介助の症例に対しても量的な歩行練習が重要であることなどを示唆しており,今後の適応範囲の拡大が期待される。本研究においても,症例数を増やしていきPOPO歩行の効果や適応をより明確にしていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はPOPOによる床上の部分免荷歩行練習の効果を示したものであり,脳卒中患者の理学療法を発展させる上で重要なものであると考える。