[0190] 急性期脳血管疾患患者におけるロボットスーツHALの即時効果
キーワード:HAL, 急性期, 脳血管疾患
【はじめに】
近年ロボット工学の進歩に伴いリハビリテーション分野においてもその活用が期待されている。
今回,佐世保中央病院(以下当院)において2013年4月よりサイバーダイン株式会社製ロボットスーツHAL福祉用単脚型®(以下HAL)を導入した。当院リハビリテーション部において,脳血管疾患患者に対してHALを用いたリハビリテーションを実施し,その前後での膝関節自動伸展角度を測定し,HALの効果を検証したので以下に報告する。
【対象】
当院脳神経外科へ緊急入院となり,リハビリテーションが処方された患者において,HALが実施可能であり,かつ本人の同意が得られた症例12名のうち,今回の研究目的である膝関節伸展運動が随意的に可能な9名(男性7名,女性2名,平均年齢68.4±11.4歳)を対象とした。
【方法】
HALを用いてのリハビリテーション(①膝関節屈曲伸展練習②起立着席練習③歩行練習)を実施する前後で,膝関節自動伸展角度を測定しその値を対応のあるt検定にて比較検証した。膝関節伸展角度はHAL実施前後に各3回ずつ測定し,その平均値を比較した。膝関節伸展角度の測定はダートフィッシュ・ジャパン株式会社製動画解析ソフト(ダートフィッシュ®)を使用し,膝関節自動最大伸展時の大腿骨と腓骨とのなす角を求めた。9名の対象者のうちHAL訓練を複数回実施しかつ動画撮影ができた症例が3症例おり,データ数としては12対のデータを今回の統計処理の対象とした。統計学的有意基準は5%未満とした。
【倫理的配慮】
当院倫理委員会の承認を得ており,患者本人もしくは家族へ書面にて説明し同意を得た。
【結果】
HALを実施する前の膝関節伸展平均角度(大腿骨と腓骨とのなす角)は153.7±12.0°,HAL実施後の膝関節伸展平均角度は160.8±10.6°であった。統計学的処理として対応のあるt検定において有意水準P<0.01(P=0.008)にて有意に膝関節伸展角度に差があることが証明された。
【考察】
HALの原理は,脳から体に流れる生体電位信号を,皮膚表面に貼ったセンサーにより検出しコンピュータに送られて解析され,その結果,各関節部のパワーユニットが動き装着者の意思に従って動作をアシストしている。また,関節の動きや姿勢,重心の位置などを装着者がモニター画面上にて確認することができる。
今回の対象である脳血管疾患患者は,随意的に膝関節を最大伸展することが難しい症例であったが,本人の意思によるHALのアシストによって,不足している膝関節伸展のパワーを補いながら膝関節を最大伸展させることができた。加えて,実際の下肢の動きやモニターからの情報により,視覚的にも,体性感覚的にも脳へフィードバックされ脳内モデルの修正が行われたと考える。Sharmaらは,脳卒中後の運動機能回復に影響を与える要因の第一として,麻痺側に対する体性感覚フィードバックを挙げている。HALによる動作を繰り返すことで神経回路の収束が行われ膝関節自動伸展角度が改善したと考える。宮島らは,随意的な動作の反復を行うことで,非障害側脳からの脳梁を介した抑制刺激が相対的に過剰となることを防ぎ,連合反応・痙縮を予防することにより,機能回復を促す可能性があるとしている。本人の意思により麻痺側を動かすというHALの特徴も,障害側脳を活性化し半球間抑制の視点からも機能改善の一助となっていると考える。普段の理学療法場面におけるセラピストによる受動的な運動よりもHALにおける能動的な運動の方が効果があるのかもしれない。今後研究を重ねていき,能動的運動と受動的運動の差を検証していく必要性があると考える。
【おわりに】
現代医学の発展はめまぐるしく,また,ロボット工学も日々開発が進んでいる。理学療法士としてリハビリテーションを実施する上で「手」に頼るだけでなく,科学的,工学的知識も習得し,より効果的かつ経験値によらない安定したリハビリテーションを患者へ提供できるように日々研鑽を重ねていく必要があると考える。
近年ロボット工学の進歩に伴いリハビリテーション分野においてもその活用が期待されている。
今回,佐世保中央病院(以下当院)において2013年4月よりサイバーダイン株式会社製ロボットスーツHAL福祉用単脚型®(以下HAL)を導入した。当院リハビリテーション部において,脳血管疾患患者に対してHALを用いたリハビリテーションを実施し,その前後での膝関節自動伸展角度を測定し,HALの効果を検証したので以下に報告する。
【対象】
当院脳神経外科へ緊急入院となり,リハビリテーションが処方された患者において,HALが実施可能であり,かつ本人の同意が得られた症例12名のうち,今回の研究目的である膝関節伸展運動が随意的に可能な9名(男性7名,女性2名,平均年齢68.4±11.4歳)を対象とした。
【方法】
HALを用いてのリハビリテーション(①膝関節屈曲伸展練習②起立着席練習③歩行練習)を実施する前後で,膝関節自動伸展角度を測定しその値を対応のあるt検定にて比較検証した。膝関節伸展角度はHAL実施前後に各3回ずつ測定し,その平均値を比較した。膝関節伸展角度の測定はダートフィッシュ・ジャパン株式会社製動画解析ソフト(ダートフィッシュ®)を使用し,膝関節自動最大伸展時の大腿骨と腓骨とのなす角を求めた。9名の対象者のうちHAL訓練を複数回実施しかつ動画撮影ができた症例が3症例おり,データ数としては12対のデータを今回の統計処理の対象とした。統計学的有意基準は5%未満とした。
【倫理的配慮】
当院倫理委員会の承認を得ており,患者本人もしくは家族へ書面にて説明し同意を得た。
【結果】
HALを実施する前の膝関節伸展平均角度(大腿骨と腓骨とのなす角)は153.7±12.0°,HAL実施後の膝関節伸展平均角度は160.8±10.6°であった。統計学的処理として対応のあるt検定において有意水準P<0.01(P=0.008)にて有意に膝関節伸展角度に差があることが証明された。
【考察】
HALの原理は,脳から体に流れる生体電位信号を,皮膚表面に貼ったセンサーにより検出しコンピュータに送られて解析され,その結果,各関節部のパワーユニットが動き装着者の意思に従って動作をアシストしている。また,関節の動きや姿勢,重心の位置などを装着者がモニター画面上にて確認することができる。
今回の対象である脳血管疾患患者は,随意的に膝関節を最大伸展することが難しい症例であったが,本人の意思によるHALのアシストによって,不足している膝関節伸展のパワーを補いながら膝関節を最大伸展させることができた。加えて,実際の下肢の動きやモニターからの情報により,視覚的にも,体性感覚的にも脳へフィードバックされ脳内モデルの修正が行われたと考える。Sharmaらは,脳卒中後の運動機能回復に影響を与える要因の第一として,麻痺側に対する体性感覚フィードバックを挙げている。HALによる動作を繰り返すことで神経回路の収束が行われ膝関節自動伸展角度が改善したと考える。宮島らは,随意的な動作の反復を行うことで,非障害側脳からの脳梁を介した抑制刺激が相対的に過剰となることを防ぎ,連合反応・痙縮を予防することにより,機能回復を促す可能性があるとしている。本人の意思により麻痺側を動かすというHALの特徴も,障害側脳を活性化し半球間抑制の視点からも機能改善の一助となっていると考える。普段の理学療法場面におけるセラピストによる受動的な運動よりもHALにおける能動的な運動の方が効果があるのかもしれない。今後研究を重ねていき,能動的運動と受動的運動の差を検証していく必要性があると考える。
【おわりに】
現代医学の発展はめまぐるしく,また,ロボット工学も日々開発が進んでいる。理学療法士としてリハビリテーションを実施する上で「手」に頼るだけでなく,科学的,工学的知識も習得し,より効果的かつ経験値によらない安定したリハビリテーションを患者へ提供できるように日々研鑽を重ねていく必要があると考える。