[0195] 脳卒中片麻痺患者における歩行時の底屈モーメントと足関節角度の特徴
Keywords:脳卒中片麻痺患者, 底屈モーメント, Gait Judge System
【目的】
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法において歩行能力の改善は重要な目標の一つである。
Perryは正常歩行の理論の一つとして立脚期における下肢のロッカー機能(rocker function)を提唱した。しかし,臨床場面において下肢のロッカー機能を客観的に数値化して評価するためには床反力計や三次元動作解析装置など高価な機器が必要であった。
近年開発された川村義肢社製Gait Judge Systemは,踵接地時の床反力によって生じる底屈モーメントと遊脚前期の蹴り出しに伴う底屈モーメント,足関節角度を臨床場面において簡便かつ定量的に評価できる機器である。そこで本研究の目的は,Gait Judge Systemで得られる脳卒中片麻痺患者の歩行時の底屈モーメントと足関節角度の特性について健常者と比較検討することとした。
【方法】
対象は回復期病棟で入院中の脳卒中片麻痺患者で自立歩行もしくは見守り歩行が可能な9名(平均年齢は65±13.8歳,男性7名,女性2名,下肢Brunstrom Recovery StageIV5名,V4名,以下:片麻痺群)と,健常者9名(平均年齢26.7±4.9歳,男性7名,女性2名,以下:健常者群)とした。
測定には川村義肢社製Gait Judge Systemを使用。Gait Solution付短下肢装具(油圧2.5)の足関節継手にGJSを装着し,足関節0°の設定(Zero Offset)は静止立位にて行い,ゴニオメーターを使用し確認を行った。
測定は快適歩行速度で3歩行周期目~7歩行周期目までの5歩行周期とし,各歩行周期を加速度計の波形で踵接地時を推定し周期分けした。その際の底屈モーメント(Nm)と歩行周期中の最大底背屈角度(°)を計測した。底屈モーメントはLoading response時の底屈モーメント(以下1stピーク),Pre-swing時の底屈モーメント(以下,2ndピーク)のそれぞれ平均値を算出した。歩行能力として10m歩行時間(快適歩行速度)を計測した。
得られた値から,1)片麻痺群と健常者群の1stピーク,2ndピーク,最大底背屈角度,歩行時間の比較,2)各群の1stピーク,2ndピークの比較についてT検定用いて検討した。本研究の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。
【結果】
1stピーク平均値は片麻痺群5.8±2.8Nm,健常者群9.6±1.3Nm,2ndピーク平均値は片麻痺群2.9±4.9Nm,健常者群9.1±3.8Nmであり,各ピーク値ともに片麻痺群が有意に低い値を示した(P<0.01)。最大底屈角度は片麻痺群4.1±2.3°,健常者群3.3±3.2°,最大背屈角度は片麻痺群11.3±4.3°,健常者群10.7±4.6°であり,各関節角度に有意な差はなかった(P>0.05)。10m歩行時間は片麻痺群16.3±4.9秒,健常者群6.6±1.0秒であり,健常者群が有意に低い値を示した(P<0.01)。また,各群それぞれの1stピークと2ndピークの比較では,片麻痺群は1stピーク(5.8±2.8Nm)に比べ,有意に2ndピーク(2.9±4.9Nm)が低い値を示した(P<0.05)のに対し,健常者群では1stピーク(9.6±1.3Nm)と2ndピーク(9.1±3.8Nm)に有意な差を認めなかった(P>0.05)。
【考察】
本研究の結果,片麻痺群と健常者群の比較において,1stピーク,2ndピークともに片麻痺群が有意に低い値であり,特に健常者群では1stピーク,2ndピークの値がほぼ同等であるのに対し,片麻痺群では1stピークに比べ,2ndピークが有意に低いことがわかった。1stピークは踵接地時の床反力によって生じる底屈モーメントであり,踵接地の適切さ,すなわちヒールロッカーが機能しているか否かを評価している(大塚,2012)とされており,1stピークが低値であった片麻痺群は適切なヒールロッカーが機能しておらず,結果的に歩行速度にも影響したと考えられる。
次に2ndピークは立脚後期に下腿三頭筋のStretch Shortening Cycle(以下:SSC)によって発生されるモーメントが発生源といわれており,健常者において歩行速度との関連性が報告されている(Ohata,2011)。これらより歩行速度の遅かった片麻痺群において2ndピークが低値を示したことは,立脚後期に下腿三頭筋のSSCによって発生される底屈モーメントが不十分であることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,Gait Judge Systemで得られる脳卒中片麻痺患者の歩行時底屈モーメントは健常者に比べ1stピーク,2ndピークともに低値という特徴があり,歩行速度との関連性も示唆された。
脳卒中片麻痺患者に対する理学療法において歩行能力の改善は重要な目標の一つである。
Perryは正常歩行の理論の一つとして立脚期における下肢のロッカー機能(rocker function)を提唱した。しかし,臨床場面において下肢のロッカー機能を客観的に数値化して評価するためには床反力計や三次元動作解析装置など高価な機器が必要であった。
近年開発された川村義肢社製Gait Judge Systemは,踵接地時の床反力によって生じる底屈モーメントと遊脚前期の蹴り出しに伴う底屈モーメント,足関節角度を臨床場面において簡便かつ定量的に評価できる機器である。そこで本研究の目的は,Gait Judge Systemで得られる脳卒中片麻痺患者の歩行時の底屈モーメントと足関節角度の特性について健常者と比較検討することとした。
【方法】
対象は回復期病棟で入院中の脳卒中片麻痺患者で自立歩行もしくは見守り歩行が可能な9名(平均年齢は65±13.8歳,男性7名,女性2名,下肢Brunstrom Recovery StageIV5名,V4名,以下:片麻痺群)と,健常者9名(平均年齢26.7±4.9歳,男性7名,女性2名,以下:健常者群)とした。
測定には川村義肢社製Gait Judge Systemを使用。Gait Solution付短下肢装具(油圧2.5)の足関節継手にGJSを装着し,足関節0°の設定(Zero Offset)は静止立位にて行い,ゴニオメーターを使用し確認を行った。
測定は快適歩行速度で3歩行周期目~7歩行周期目までの5歩行周期とし,各歩行周期を加速度計の波形で踵接地時を推定し周期分けした。その際の底屈モーメント(Nm)と歩行周期中の最大底背屈角度(°)を計測した。底屈モーメントはLoading response時の底屈モーメント(以下1stピーク),Pre-swing時の底屈モーメント(以下,2ndピーク)のそれぞれ平均値を算出した。歩行能力として10m歩行時間(快適歩行速度)を計測した。
得られた値から,1)片麻痺群と健常者群の1stピーク,2ndピーク,最大底背屈角度,歩行時間の比較,2)各群の1stピーク,2ndピークの比較についてT検定用いて検討した。本研究の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。
【結果】
1stピーク平均値は片麻痺群5.8±2.8Nm,健常者群9.6±1.3Nm,2ndピーク平均値は片麻痺群2.9±4.9Nm,健常者群9.1±3.8Nmであり,各ピーク値ともに片麻痺群が有意に低い値を示した(P<0.01)。最大底屈角度は片麻痺群4.1±2.3°,健常者群3.3±3.2°,最大背屈角度は片麻痺群11.3±4.3°,健常者群10.7±4.6°であり,各関節角度に有意な差はなかった(P>0.05)。10m歩行時間は片麻痺群16.3±4.9秒,健常者群6.6±1.0秒であり,健常者群が有意に低い値を示した(P<0.01)。また,各群それぞれの1stピークと2ndピークの比較では,片麻痺群は1stピーク(5.8±2.8Nm)に比べ,有意に2ndピーク(2.9±4.9Nm)が低い値を示した(P<0.05)のに対し,健常者群では1stピーク(9.6±1.3Nm)と2ndピーク(9.1±3.8Nm)に有意な差を認めなかった(P>0.05)。
【考察】
本研究の結果,片麻痺群と健常者群の比較において,1stピーク,2ndピークともに片麻痺群が有意に低い値であり,特に健常者群では1stピーク,2ndピークの値がほぼ同等であるのに対し,片麻痺群では1stピークに比べ,2ndピークが有意に低いことがわかった。1stピークは踵接地時の床反力によって生じる底屈モーメントであり,踵接地の適切さ,すなわちヒールロッカーが機能しているか否かを評価している(大塚,2012)とされており,1stピークが低値であった片麻痺群は適切なヒールロッカーが機能しておらず,結果的に歩行速度にも影響したと考えられる。
次に2ndピークは立脚後期に下腿三頭筋のStretch Shortening Cycle(以下:SSC)によって発生されるモーメントが発生源といわれており,健常者において歩行速度との関連性が報告されている(Ohata,2011)。これらより歩行速度の遅かった片麻痺群において2ndピークが低値を示したことは,立脚後期に下腿三頭筋のSSCによって発生される底屈モーメントが不十分であることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,Gait Judge Systemで得られる脳卒中片麻痺患者の歩行時底屈モーメントは健常者に比べ1stピーク,2ndピークともに低値という特徴があり,歩行速度との関連性も示唆された。