[0201] リーチ把握運動の繰り返しによる握力低下の発生に筋線維損傷が関与するか
Keywords:反復運動, 筋力低下, 筋損傷
【はじめに,目的】過度の繰り返し運動を継続することで,運動機能低下や疼痛など種々の機能障害が生じることが報告されている。中でも,運動機能障害の一つである筋力低下について,ヒトを対象とした研究においては,いわゆるライン作業のような繰り返し運動を含む作業に従事する者では握力低下が生じていたと報告されたことから,繰り返し運動は握力低下を惹起させる可能性がうかがわれる。また,Barbeらは繰り返しの運動が組織損傷やその後の炎症を惹起し,その結果,握力低下が生じるとの見解を示しているが,その発生機序の詳細については未だ不明である。動物を対象とした研究では,ラットに繰り返しのリーチ把握運動を継続させると,課題実施3週以降に握力低下が生じ,同時期の骨格筋においてED1 macrophage(以下ED1)陽性細胞の増加を認めたとの報告から,握力低下に対する筋線維損傷の関与がうかがわれる。しかし,課題実施3週以前におけるED1陽性細胞の変化は不明で,さらに握力とED1陽性細胞の変化を同時に検討した報告はない。そこで,本研究は繰り返しのリーチ把握運動を3週間負荷するモデルを用いて,リーチ把握運動の繰り返しによる握力低下の発生にED1陽性細胞を指標とした筋線維損傷が関与するかを経時的に検証することを目的とした。
【方法】実験動物は10週齢のSD系雌性ラットを用い,課題を実施する課題群と課題を実施しない対照群の2群に振り分けた。課題群は課題への動機付けを2週間行った後,3週間の課題を実施した。対照群は2週間の動機付けを行い,その後3週間課題は実施せず飼育した。課題は自作したスリットの先に飼料台を設置した試験箱にラットを入れ,飼料台に45 mgペレットを15秒に1回の頻度で配給することで,ペレットへの自発的なリーチ把握運動を繰り返し誘発した。課題の実施時間は30分間/回とし,各課題間には90分間の休憩を与え,4回/日,3日/週の頻度で行った。なお,両群とも飼育期間中は摂食制限を行い,同週齢のラットの体重に対して80%以上を保持するように給餌量を調節した。水分については自由摂取とした。握力は,両側前肢それぞれについて1回/週測定した。さらに,課題群は課題実施1,2,3週後に,対照群は動機付け期間後(実験開始から2週後)と実験期間終了後(実験開始から5週後)に,それぞれ両側浅指屈筋を採取した。免疫組織学的検索は,浅指屈筋をED1抗体による免疫組織染色に供し,陽性細胞数と陽性細胞が浸潤している筋細胞数を計測した。なお,ラットがリーチ把握運動を行った前肢をリーチ側,反対側を非リーチ側として解析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学医学部動物実験委員会の承認を得て実施した。
【結果】課題群リーチ側の握力は,課題実施2週後に実施前と比較し,課題実施3週後に実施前および実施1,2週後と比較しそれぞれ有意に低値を示した。なお,課題群非リーチ側と対照群の握力はどちらも経時的な変化を認めなかった。さらに,課題実施3週後のリーチ側の握力は非リーチ側および対照群と比較し有意に低値を示した。また,課題群リーチ側のED1陽性細胞数は,動機付け期間終了後の対照群に比べ,課題実施1,2,3週後で増加した。しかし,ED1陽性細胞が筋細胞内へ浸潤した像はどの群においても確認されなかった。
【考察】握力は課題実施3週後まで経時的に低下し,ED1陽性細胞についても課題実施によって増加を認めた。しかし,ED1陽性細胞の筋細胞数に対する割合はいずれの検索時期においても低く,筋細胞内に浸潤している像も観察されなかったことより,筋線維損傷は生じていないと考えられた。したがって,筋線維損傷がリーチ把握運動の繰り返しによる握力低下の発生に関与する可能性は低いと推察され,今後は他要因との関連も含めたさらなる検討が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本モデルラットにおいて握力低下の発生機序を解明することは,繰り返しのリーチ把握運動によって生じる機能障害の病態解析を進める上で重要な契機となり得る。さらに,近年は過度の繰り返しの運動による「負の効果」も指摘されており,本研究はそれらに対する介入方策や介入効果の検証につながることも期待され,社会的な有益性をもった研究になり得ると考える。
【方法】実験動物は10週齢のSD系雌性ラットを用い,課題を実施する課題群と課題を実施しない対照群の2群に振り分けた。課題群は課題への動機付けを2週間行った後,3週間の課題を実施した。対照群は2週間の動機付けを行い,その後3週間課題は実施せず飼育した。課題は自作したスリットの先に飼料台を設置した試験箱にラットを入れ,飼料台に45 mgペレットを15秒に1回の頻度で配給することで,ペレットへの自発的なリーチ把握運動を繰り返し誘発した。課題の実施時間は30分間/回とし,各課題間には90分間の休憩を与え,4回/日,3日/週の頻度で行った。なお,両群とも飼育期間中は摂食制限を行い,同週齢のラットの体重に対して80%以上を保持するように給餌量を調節した。水分については自由摂取とした。握力は,両側前肢それぞれについて1回/週測定した。さらに,課題群は課題実施1,2,3週後に,対照群は動機付け期間後(実験開始から2週後)と実験期間終了後(実験開始から5週後)に,それぞれ両側浅指屈筋を採取した。免疫組織学的検索は,浅指屈筋をED1抗体による免疫組織染色に供し,陽性細胞数と陽性細胞が浸潤している筋細胞数を計測した。なお,ラットがリーチ把握運動を行った前肢をリーチ側,反対側を非リーチ側として解析を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学医学部動物実験委員会の承認を得て実施した。
【結果】課題群リーチ側の握力は,課題実施2週後に実施前と比較し,課題実施3週後に実施前および実施1,2週後と比較しそれぞれ有意に低値を示した。なお,課題群非リーチ側と対照群の握力はどちらも経時的な変化を認めなかった。さらに,課題実施3週後のリーチ側の握力は非リーチ側および対照群と比較し有意に低値を示した。また,課題群リーチ側のED1陽性細胞数は,動機付け期間終了後の対照群に比べ,課題実施1,2,3週後で増加した。しかし,ED1陽性細胞が筋細胞内へ浸潤した像はどの群においても確認されなかった。
【考察】握力は課題実施3週後まで経時的に低下し,ED1陽性細胞についても課題実施によって増加を認めた。しかし,ED1陽性細胞の筋細胞数に対する割合はいずれの検索時期においても低く,筋細胞内に浸潤している像も観察されなかったことより,筋線維損傷は生じていないと考えられた。したがって,筋線維損傷がリーチ把握運動の繰り返しによる握力低下の発生に関与する可能性は低いと推察され,今後は他要因との関連も含めたさらなる検討が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本モデルラットにおいて握力低下の発生機序を解明することは,繰り返しのリーチ把握運動によって生じる機能障害の病態解析を進める上で重要な契機となり得る。さらに,近年は過度の繰り返しの運動による「負の効果」も指摘されており,本研究はそれらに対する介入方策や介入効果の検証につながることも期待され,社会的な有益性をもった研究になり得ると考える。